第71話 娘への思い

 今日の患者内藤和夫39歳です。

渋沢吾郎:どうしましたか?

内藤和夫:はい。実は私には娘がいまして、妻と離婚して、娘は妻に引き取られ数年がたちます。そして、私は娘のために妻と元の絆を戻したいのですが・・・。

渋沢吾郎:で、復縁の理由は妻のためではなく娘さんといたいということですね。

内藤和夫:はい。

渋沢吾郎:そうですか。そんなに娘さんが恋しいのですか?

内藤和夫:あ、いえ、そうじゃなくて妻といたいのですか・・・。

渋沢吾郎:あなたの気持ちは娘さんに、戻ってほしくて妻と復縁したいように聞こえますが。

内藤和夫:はい。そうです。渋沢先生はお見通しですね。

渋沢吾郎:ですが、娘さんとは会ってはいないんですか?

内藤和夫:会ってはいません。仕送りはしていますが。

渋沢吾郎:で、妻との離婚の原因は?

内藤和夫:妻の浮気です。

渋沢吾郎:そうですか。それはあなたが頼りないからかもしれませんね。

内藤和夫:それは厳しい言葉ですね。

渋沢吾郎:ですが、それが真実だとしたら、妻との復縁は難しいですね。また、娘さんも妻ともうまくいっていないのでは?

内藤和夫:そうです。娘が妻である母の愛をもらえないのが不憫で、せめて母の愛を親としての愛を子供に見せないと娘がとんでもなくなってしまうと思いまして。

渋沢吾郎:うーん・・・・・・。娘さんは何歳ですか?

内藤和夫:15歳です。

渋沢吾郎:なるほど。思春期ですか。ならば、娘さんは父であるあなたと会いたがっているかもしれませんね。

内藤和夫:そう思いますか?私もそう思うのです。それで娘の気持ちをどう受け取っていいのかわからなくて相談に来ました。

渋沢吾郎:なるほど。では、手紙かメールか電話すればいいのでは?

内藤和夫:はい。ですが、電話は繋がりません。手紙は出しているのですが返事が来ません。メールも駄目です。何かいい方法はありませんか?

渋沢吾郎:ならば、直接会っていけばいいのでは?

内藤和夫:なるほど。そうですよね。直接会いに行けばいいですね。でも、5年も会っていないので外見が変わってなければいいのですが・・・。

渋沢吾郎:親であるあなたが娘の姿に気がつかない怖れがあるというわけですね。そしたらまずは妻と会って話をして娘を引き取るのはどうですか?

内藤和夫:妻は私にあいたがりません。だから連絡できないようになっています。

渋沢吾郎:でも、年に一回も会わないということはないのですか?

内藤和夫:そうですね。電話は妻から一方的に来ます。

渋沢吾郎:それはどういう時ですか?

内藤和夫:妻にお金がないときです。

渋沢吾郎:なるほど。では今度電話がきたら勝負ですね。妻から娘の情報を聞きましょう。

内藤和夫:そうですね。

渋沢吾郎:で、それから会いに行けば?

内藤和夫:ですが、住所がわかりません。

渋沢吾郎:ではお金はどうしているのですか?

内藤和夫:妻の銀行口座に入金しているだけです。

渋沢吾郎:なるほど。では、本当に電話が来た時に勝負ですね。

内藤和夫:どう勝負するのですか?

渋沢吾郎:妻から居場所を聞きます。どうしても会いたいと。

内藤和夫:会ってもらえるのでしょうか?

渋沢吾郎:会わなければお金を送らないといえば会えると思います。

内藤和夫:そうですか。その手が、あったのか。

渋沢吾郎:それに気づかなかったのですか?

内藤和夫:いえ、確かにそうでした。気づきませんでした。

渋沢吾郎:では、会って話しをするべきですね。

内藤和夫:はい。ありがとうございます。

渋沢吾郎:では、今日はこれでいいですね。

内藤和夫:はい。

 と、内藤和夫は何か閃いたかのように帰った。

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