第56話 自己嫌悪
次の患者は新井康秀、二十八歳会社員である。吾郎はいつものように話しかけた。
渋沢吾郎:どうしました。
新井康秀:何か疲れてきて、仕事もできなくなって情けなく思っているのが現状ですが。
渋沢吾郎:何が原因かわかりますか。
新井康秀わかりません。
渋沢吾郎:では、ちょっと心理テストをしてみましょう。
結果は次のように出た。
『自己嫌悪に陥り、自分をいつも責めて、自信を失う。』
と出た。康秀は驚いて、
新井康秀:恐ろしいほど当たっていますね。そうなんです。自分が嫌いなんです。なぜあの時ああしなかったのかとか、間違えが多くて上司に怒られっぱなしが多かったりして、自分が嫌いなんですよ。
渋沢吾郎:では自分自身が好きになれないんですか。
新井康秀:なれません。
渋沢吾郎:それは大変ですね。
新井康秀:何とかなりませんか。
渋沢吾郎:要は新井さんが自分自身を好きになればいいですね。
新井康秀:それはそうですけど、簡単にはいきません。
渋沢吾郎:どうしてです。
康秀は黙った。吾郎は続けて言った。
渋沢吾郎:もう少し自分を認めてあげたらどうですか。自分がかわいそうですよ。それに、仮に失敗したとしても、前向きに人生を考えて向かえばそれでいいじゃないですか。
新井康秀:先生はどうすれば治ると思いますか。
渋沢吾郎:好きなことをしてリフレッシュすれば治ると思いますが。
新井康秀:それもやってみましたけど一時的にしか効果がなくて。
渋沢吾郎:それでは原点に戻ってみたらどうです。
新井康秀:原点?
渋沢吾郎:人はどうやって生きてきたかです。人間は古代から現代まで様々に変化をしています。あなたも昔と比べて今の自分は変わったはずです。その間に何を学んだかによって生き方が決まります。私は行き詰まったときには何が大事かを考えて、自分自身で答えを見つけたつもりです。どうすれば人は幸せになれるのかを。新井さんの場合は、何に価値があって何に価値がないか。何が必要で何が必要でないかを一から考えてみませんか。答えが一つずつ見えてくると思います。そうすれば、自分はどうしてこのようになっているのかが見えてくると思います。そしたら、どうすれば自分は大丈夫かもわかってくると思います。そうなったら、人生がプラスの方向に傾くと思います。このような事を一週間考えてみてはどうですか。
新井康秀:そうですね。何が大事な事か、少し人生に対しての考え方を考えてみます。ところで、どこか一週間ぐらい休めるというか、考える場所はありますか。
渋沢吾郎:そうですね。ペンション吾郎という私が経営しているところがありますが。
新井秀康:では、そこへ行って一週間ゆっくりと考えてみます。
そして一週間後。
新井康秀:渋沢先生。良かったですよペンション吾郎は。気持ちよかったし、圧迫感もないし、自由になれた気がします。
渋沢吾郎:それで、答えは見つかりましたか。
新井康秀:いやあ、それがなかなか考えるのが難しかったけど、自分自身の中に生き生きとした自分がいるんだなと思い、かなり楽になりました。
渋沢吾郎:新井さんは何かをつかんできましたね。
新井康秀:そうですね。軽井沢で自然を見て、こんな小さな草木でも一生懸命に生きているんだなと思ったら、生きるということに感動しました。じっくりものを見るためには人生には休息も必要なんですね。
渋沢吾郎:それでは自分自身を痛めつける事はしませんね。
新井康秀:はい。自分を痛めつける事に何が得するかといえば、損しかしませんので、それはもうやめます。どうも先生ありがとうございました。
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