第55話 自己犠牲

 次の患者は小川雄一、二十五歳、会社員である。

渋沢吾郎:調子はどうですか。

小川雄一:あまりよくないです。人のために仕事をしているのに何か間違いあります?

渋沢吾郎:人を大切にする事は尊い事です。

小川雄一:そうですよね。自分を犠牲にしてまで動いているのに誰も知らん振りだ。

渋沢吾郎:そこですよ。あなたが体調がおかしくなるのは自分を犠牲にするところです。もっと自分も大事にしなければなりません。そのせいであなたはかなり損をしたのではありませんか。

小川雄一:損した事と言えば、一番大きいのが、自分の好きな人を手放した事です。

渋沢吾郎:なぜ手放したんですか。

小川雄一:自分の友人もその子が好きだったから。

渋沢吾郎:それは単なるお人よしですよ。彼女があなたの事が好きだったらどうするつもりですか。その調子だと身の回りにいる人などいろんなものを無くしますよ。

小川雄一:でも自分はこれでいいんです。

渋沢吾郎:それは自分の意志ですか。親や学校で、人の役に立つ事をしなさいとか、人に親切にしなさい、とか言われてそうしているだけなのではありませんか。

小川雄一:なぜわかったんです.親や学校が言った事を。

渋沢吾郎:これだけ聞けばわかります。性格は教育で決まるとわかっていれば結論はそのようになります。

小川雄一:そうですか。それで私はどうすればいいんですか。

渋沢吾郎:自分のために生きる事を肝にめいじてください。

小川雄一:では他人を傷つけてもですか。

渋沢吾郎:別にそうとは言ってません。相手が攻撃してきたときは倒すべきですが、本当に世の中にでて成功する人は全員自分を大事にするところを持っていますよ。

小川雄一:では他の人はどうでもいいというわけですか。

渋沢吾郎:いいえ、そうではありません。他人といってもいろんな人がいますが、自分にとって大切な親友や友達などを大事にしながら自分も守ると言う事です。自他を大切にするのです。大変難しい事ですが、そうしなければ自分は潰されていきますよ。

小川雄一:そうですか。

渋沢吾郎:そうです。人に気を使ってばかりだと帰って疲れます。ところで、あなたは自分がどういう人か心理テストをしてみます?

小川雄一:お願いします。

 心理テストの結果が次のように出た。

『人のために尽くす事もいい事ですが、自分を大切にしたほうがいいでしょう。他人に得するような事をして、その人に害されたり、自分が損をすれば次第に他人を恨むようになり、気が狂いそうになります。』

渋沢吾郎:と、でましたがどう思いますか。

 雄一はこの心理テストの結果が心に響き、しばらくかんがえて言った。

小川雄一:そうかもしれません。これは私へのありがたい忠告としてとらえようと思います。

渋沢吾郎:ではもう大丈夫ですね。薬は今回はいいですので、また何かあればいつでも来て下さい。

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