第6話 プロモーションしよう

「うー・・・む」

「マスター。渋い顔ですね」

「先週の売り上げ、前週比で10%の落ち込みだよ」

「分析とかしてるんですか」

「一応紙の伝票ベースで力技で。ほら」


 唐沢からさわがジュンに示したのはノートパソコンのエクセル画面だった。どうやら伝票の数字を拾ってブレンド何杯、アイスティー何杯、といったレベル感での分析に留まっているようだった。


「マスター。やっぱりPOSレジ入れた方がいいんじゃないですか?」

「POSレジは高いんだよ」

「ならば経費削減は?」

「そうだね。人件費、とか」

「うっ」

「固定費である人件費をできるだけ流動化するために正社員ではなくアルバイトを雇っているわけだ」

「うっ、うっ」


 そんな訳で唐沢とジュンは売り上げ増大策を閑古鳥の鳴く店内で練り始めた。


「値上げはどうです?」

「この価格に抑えてるから来てくれてるんだよね・・・」

「じゃあ・・・マスターはSNSとかやってないんですか」

「ツイッターのアカウントはあるけど」

「それ、使いましょうよ。フォロワーは何人ですか?」

「ええと。30人?」

「また微妙な規模ですね。因みに何をつぶやくアカウントなんですか」

「川柳」

「えっ」

「川柳」

「・・・・・どんなのですか」


 唐沢がスマホのメモ機能に入力してある『作品』をジュンに見せた。


 ジンギスカン

 食いっぱなしの

 仁義好かん


 喫茶店

 コーヒーなければ

 喫煙所


 やみくもに

 雲を掴むよな

 この世かな


「ひどいですね」


 仕方なく『純喫茶ルーシー★ひそかに営業中』というアカウントを作った。


 そして唐沢に最初のツイートをさせる。


『純喫茶ルーシーはリラックスできる喫茶店です。暗記不能なオシャレメニューをオーダーする恐怖は皆無です』


 なんとその日の夕方に早速反応があった。


「あの・・・ここですか?コーヒーしかない喫茶店って」

「はい?」


 入社2〜3年目ほどの会社員ぽい男性3人組はスマホで引用ツイートを示す。


『純喫茶ルーシーは省力化のためブレンドしか置いてないらしい #マニアックカフェ』


 御丁寧に意味不明のタグ付けまでされていた。


「しょうがないですね」


 ジュンが、動いた。


『ルーシーっていうカフェに行ったらマスターがダンディなおじさまでびっくり♡コーヒーもとってもおいしいし。読書と執筆に浸るならここかな!』


 ジュンは大学入学と同時に出版社が運営しているWEB小説投稿サイトに作品を上げており、宣伝用にツイッターのアカウントを持っていたのだ。

 フォロワーこそ500人ほどの規模だが、現役の文学部の大学生が創作理論に基づいて書く小説だということでコアなファンが居た。


 ジュンのフォロワーと思しき客がちらほらと現れ始めた。


 なぜか男ばかり。


「あの。ウェイトレスさん」

「はい。なんでしょうか」

「その・・・ここにいかにも文学少女という雰囲気のお客さんは来たりしませんか?」

「さあ・・・わたしはフルタイムでないものですから」

「あの・・・あなたがもしかして」

「マ、マスター!ブレンド・ワン、願いまーす!」

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