第372話
「……どうして、……避けなかったんですか?」
私は、涙を流しながらエンハスを抱きしめる。
「貴女の事は、アルラストルスを通してずっと見て来たわ。私のいとし子……貴女には心は必要ないと思っていた。
心はとても繊細で傷つきやすい。
だから私は貴女には心は必要ないと思っていた。
でも、貴女は人の心を持ってしまった。
その手で殺しをしてしまった、でも貴女は殺したと言う罪を、貴女は本当の意味での恐怖を理解していなかった。
だから私が教える必要があった。
ヤハウェも人を見続けた事で狂った神になってしまった。
だからこそ、ヤハウェには勝てないと私は理解してしまった。
ごめんなさいね。辛い思いをさせてしまって……。
でも、もう貴女にはたくさんの仲間がいるのでしょう?
だから……」
全ての力を失い神気すら失ったエンハスの体が薄らと透明になっていく。
彼女は私の頬に手を当ててきた。
「もう立ち止まったら駄目。
決めたのでしょう?戦うという事を。
そして知ったのでしょう?自らの心が、誰かを傷つけて傷つく事を恐れているという真実を」
私は何も言えずに頭だけを振った。
どうしたらいいのか分からない。
「そろそろ時間みたいね。
ユウティーシア、貴女はいつか人として、自らの存在意義についての壁に当たる時が必ず来るわ。
でも……それでも、それでも私は貴女には幸せになってもらいたい。
それが貴女を今まで見てきて思った事なのだから。
これが、親が子供を思う気持ちなのかしらね」
その言葉を最後にエンハスの存在は完全に消滅し後には何も残らなかった。
そして神衣が自動的に解除される。
「おかしらー!」
「生きていたのかい?」
エメラスが向けた方へ視線を向けると死んでいたと思われる男がこちらへ走ってくるのが見えた。
「はい、それが何故か。綺麗な女性が夢の中に出てきて生き返らせてくれると言ってきまして、目を覚ましたらこの通り、怪我一つありませんでした」
男の言葉をどこか遠くの出来事のように聞きながら私はゆっくりと意識を手放しその場に崩れ落ちた。
日がゆっくりと沈むにつれ、あたりには夜の帳が近づく。
風は座っている私の頬をやさしく撫でていき黒い髪を靡かせる。
「こんなところにいたのか?」
後ろを振り返るとそこにはクラウス様が居た。
私は振り返り、頷くと彼は私の傍まで来て無言で隣に座った。
魔法帝国ジールに存在していた軍事開発センターは戦いの余波により完全に機能を破壊されており月のゲートまで転移する事はできなかった。
そのため、世界アガルタにおいて唯一残っている帝政国に存在する真意の塔と呼ばれている宇宙エレベーターに私たちは今、向かっている。
他国の領土に入ってからは速度を落としているため、艦橋に出ることができている。
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