第370話
―――それが、その力が、その姿が人の可能性だと言うのか?
動き出した時の中で私達を見ながらエンハスは、言葉を告げてきた。
「そうです。そして私は……」
腰に差していた2丁拳銃を一呼吸で抜き両手に構える。
そして引き金を引く。
風と闇の融合弾である重力子弾が、エンハスに向けて打ち出された。
―――なるほど、口だけではないな?
エンハスの前で2発の重力子弾が粉々に砕け散る。
―――だが、その程度では神気の全てを膂力をに回した私には届かん!
「そうですか?ですが……」
私達の言葉に彼女はようやく気が付く。
―――ばかな?上位次元に住まう神を低次元の者が転移させるだと?
重力子弾は、あくまでも空間の均等性を歪めるために展開したに過ぎない。
先史文明の転移魔術をエンハスに効かせるための布石。
すでに先ほど、私達が居た場所よりも遥か上空に私達とエンハスは転移して落下を初めている。
―――だが翼を持たぬその力。いくら神気がないと言えど、私には全てを超える膂力から生じる力がある!
空を飛べないはずのエンハスが私達の目の前から一瞬で消える。
そして私達は背中に衝撃を受ける。
振り返れば両手を振り下ろしているエンハスが、私達へ向けて追撃をしようとしている。
(あれは……厄介ですね)
エンハスは、極限まで高められた膂力により大気を蹴り自在に動いている。
辛うじて目で追う事は出来るが神衣化した体でもあの動きには対処が出来ない。
少しづつ漆黒のドレスが破壊されていく。
(クサナギ。いえ……ユウティーシア、私に秘策があります)
エメラスの言葉に私は頷く。
なら私は、エンハスからの攻撃を防ぎ時間を稼ぐだけ。
体の周囲に、風の上位魔法である重力魔法を纏わせる、それにより落下速度が落ち斥力により空を移動しながら避ける。
―――逃げるだけか?それが人間の可能性か?
「可能性、エンハス!貴女は何故、そこまで人を憎むのですか?憎むのに何故、何故世界の秩序を保とうとしているのですか?」
―――だまれ!人間が!!
私の言葉に触発されるかのようにエンハスは突っ込んでくる。
(ユウティーシア、用意は出来ました)
エメラスの言葉と同時に目の前にいくつもの軌跡が表示されていく。
(相手は空間を蹴って移動してるようなので直線にしか動けないはず)
つまり、エンハスは途中で方向転換が出来ないという事。
ならこの射線軸上に攻撃をすれば……。
両手の拳銃をエンハスが向かってくると思われる射線軸上に向けた所で気が付いた。
エンハスに向けた2丁拳銃を持つ手が震えていた。
自然と瞳から涙が溢れてくる。
―――見せてみよ!人間の可能性と言うものを!貴様が信じる正義とやらを!
エンハスが空間を蹴り私達へ向かってくる。
それを見ながら私は、向かってきたエンハスに殴り飛ばされた。
腹部を殴られた事で足がよろける。
(ユウティーシア!)
エメラスの言葉が聞こえてくる。
でも、気が付いてしまった。
この神衣は、光の属性を持つ神を完全に消滅させてしまう事に。
時が経っても復活はしない。
だから手が震える。
私を利用したと分かっている。
でも、私をこの世界に送った者であり私に知識を与えた者。
言わば私を作った人でもある。
そんな人を私が殺す?
―――何をしている?貴様の決心はその程度か!!
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