第325話

「分かりました。クラウス殿下、娘を……ティアを必ず守ってあげてください」


「ティア、約束は必ず守るのだぞ?」

 それは私に必ず帰ってこいっていう意味だろう。でもそれだけはお約束できません、もう寿命は尽きているのですから……でもきっと世界が元通りになれば……。

 そしてお母様の方へ視線を向けるとお母様が、抱きしめてきた。


「ティア、貴女にはずっと辛い思いをさせてきてごめんなさいね。全てが終わりましたらもう一度きちんとお話をしましょう」


「はい、お母様」

 お母様はとても悲しい目をして私を抱きしめながら頭を撫でてくる。


「お父様……」

 私はお父様の方へ視線を向ける。お父様もいつもの怒ったような顔でなくやさしい顔をしていた。

 だから……。


「お母様、生んでくれて育ててくれてありがとうございました。お父様……お父様の事は正直苦手でした」

 私の言葉にお父様はショックを受けているようだけど


「でもお父様が私の事を本当に思ってくれていた事は分かりました。ですから……見守ってくださりここまで育ててくれて愛情を持っていてくれてありがとうございました。お兄様方にも、ティアは幸せ者でしたとお伝えください」

 私の言葉を聞いてお母様の私を抱く強さが強くなった気がした。

 でもこれは言っておかないと行けないから。

 私みたいな不完全な存在を……本来のユウティーシアじゃないのに愛してくれたお父様やお母様に感謝の気持ちだけは伝えたい。

 たとえ、私には消滅しか残されてないとしても。私が生きてきた証が全て消えて私の存在していたと言う記憶が全て消えるとしても、この思いだけは「育んでくれてありがとう」と気持ちだけは伝えておきたかった。


 私はゆっくりとお母様から離れる。

 お母様はその美しい赤色の瞳に多くの涙を湛えている。


「行ってまいります、クラウス殿下お願いします」

 クラウス殿下が私に近寄ってきて魔法帝国ジールへ飛ぶための転移魔術を発動させるけど、かなりの時間がかかっている。私を抱きしめてるクラウス殿下からも困惑した雰囲気が感じられた。


「ユウティーシア、君を連れていけないようんだんだがどう言う事だ?」

 クラウス殿下は私へ疑問を投げつけてくる。そう言われても分からない。もしかして音素になった事でクラウス殿下の魔術を妨げてる?そうなると魔法帝国ジールまでは日本と南米のチリくらいの距離があある。陸路か海路で向かうにしても何ヶ月もかかってしまう。そうなるとレオナやエンハスを止めることが出来なくなってしまう。


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