第322話

「信じられん。この技術や知識私たちの手には余る」

 お父様の言葉に私は頷く。地球で開発した知識や技術は、下地が出来ていない世界に持ってくれば混乱を必ず招く。しかもこの世界には魔術と呼ばれる万能の代替技術がある。

 核融合、核分裂すら起こせるかも知れない。


「はい、ですから絶対に他言無用でお願いします。私もこれからは極力お伝えする事は控えます」


「ユウティーシアは、ずっとこの知識を小さい頃から持っていたのか?」

 クラウス殿下は私を真剣な眼差しで見つめながら問いかけてくる。


「はい……ですがあくまでも知識だけです。私は作られた存在でしたのでその知識を友好的に活用するかどうかを考える事はありませんでした」


「ティア、一つ尋ねたい。君はどういった存在なんだ?」

 お父様の言葉は私の存在意義を的確についてくるものだった。


「それについては、人としての構造を知っていただく必要があります。人を人として至らしめるのは体と魂です。知識や経験、記憶がどこに存在するかは魂と体両方に刻まれていると博士は言ってました。ですから私自身は、ユウティーシアでありユウティーシアでは無いと思います。


 厳密に言えば、本来の人間の魂と言うのは輪廻の輪を介し生まれ変わる為に本来でしたら知識や経験や感情を保持して生まれ変わる事はないんです。それが起きてると言う事は、本来形つくられるはずだったユウティーシアさんの人格形成を私が奪ってしまったとも言えます。


 ですので私はユウティーシアさんであってユウティーシアさんでは無いと思います。

これについては、本当に申し訳ありませんでした。ずっとお父様やお母様やお兄様達、クラウス殿下様を騙していた事になります。


 お怒りがあれば、全てが終わった後にいくらでも受けます。ですが今は、世界を書き換えようとしてる者達を止めなければ全てが終わってしまいます。ですので今だけは私の勝手を許していただけませんでしょうか?」

 そこで部屋の中に沈黙が流れる。あまりにも一方的な私の宣言、音素を通して私が旅をしてきた間の事を話ながら見せた。きっとお父様やお母様は私を幻滅するだろう。

 でも隠し事をしたままと言うのは私の決意に反することになる。だから伝えてもいい内容は全部伝えた。


「ティア、お前が今どのような状況に置かれてるかは理解できた。だがな?お前は、この私バルザックとエレンシアの娘である事に代わりはない。だから罪悪感を感じる必要もないが……お前が旅の間に迷惑をかけた人にはきちんと謝罪をしないといけない。とくにヒール講座と言いながら暴力を振るった事は公爵令嬢としてではなく、人として失格だ。きちんと謝罪をしておきなさい」


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