第四章 幕間 ルゼンド総督府の内情

第279話

 かつて水の都と呼ばれていた貿易と商業の要であった衛星都市ルゼンド総督府の長官であるリュゼルグ・バーマメントは、執務室で溜息をついていた。

 彼の手元には多くの書類がありそのどれもが悲観的な物ばかりであった。


 水の都所以の衛星都市ルゼンドでは、古来より放牧は行っていたが農作物は周辺諸国からの購入がメインであり有事の際の対応に脆弱性が問題視されていた。


 そこで14年前からルゼンドでは、前任者である者が、灌漑を始めたのだ。


 最初の2年は順調に農作物の収穫は増えていったが12年前より突如、衛星都市ルゼンド周辺の湖面の水位が下がり始める共に急速な環境悪化が始まった。

 一部の高官の中には、灌漑を止めるべきだと言う意見を上げてくる者もいたが当時の総督府長官は灌漑事業の拡大へ舵をとってしまう。


 そして数年後、王都より赴任してきたリュゼルグが見た衛星都市ルゼンドの光景は灌漑事業を行っていたと思われる畑だった場所が砂漠と成り果てた姿であった。

 そして町には、原因不明の病が蔓延していた。打つ手も手もなく、教会より多くの治療魔法師を手配してもらう事で小康状態を保ってる状態であった。


 リュゼルグは、砂漠化の原因になった事には灌漑事業が絡んでると見ていたがどう対応すればいいのか皆目見当がつかず悪戯に時間を浪費していくばかりであった。


 そして、総督府の長官に就いてから2年後、ルゼンドの北より砂嵐が到来するようになる。砂嵐は町の中まで入り商業に少なくない被害を与えてくる。そこで長官であるリュゼルグは砂嵐の発生場所を見つけ出すために冒険者を雇い探索を行わせていた。


 そんなある日、冒険者ギルドより砂嵐が発生してる場所には古代遺跡があり強力な人を惑わす魔術がかけられており調査、攻略は困難と報告がきた。

 その後、何度も調査隊を送ったが遺跡に入ることは叶わない。冒険者ギルドに所属する最高のSランクの最上級魔法師であっても攻略は不可能と冒険者ギルドに断られた時点でリュゼルグには打てる手が無くなってしまった。

 

 さらに追い討ちをかけるように大量に雇っていた治療魔法師の維持の為に、ルゼンドの貿易が赤字になった所で魔法帝国ジールとの戦争を名目に派遣されていた治療魔法師の雇用額の引き上げが教会枢機卿より打診されてきた。


 すでに貿易が赤字になっており都市財政が回っていないルゼンドは、そのお金を支払う体力はなかった。

 そんな折に一人の聖女がアルゴ公国に現れ古の災厄と呼ばれた神兵を倒したと町に噂が流れた。噂いわく聖女は一人で数千人の病を患った人々や怪我人を一人で治療したというのだ。

 普通の治療魔法師が見れるのはせいぜい一日20人程度が限界であるし重病人を見れば一人で力尽きる場合もある。

 それなのに聖女は一人でそれらを行ったと言うのだ。

 どんな化け物だ。

 神聖視するにも程があるだろう?そうリュゼルグは考えた。


 そんなある日、アルゴ公国国境に面してる関所より聖女が戦争を止めるために入国したと報告がリュゼルグの手元に届いた。


 報告書を見てリュゼルグは溜息をついたが、その聖女を見てみるのもいいかと思い至った。


 聖女が到着したその日も砂嵐が発生した事をリュゼルグは報告で受けていたが、衛星都市ルゼンドの北門の防壁は彼が総督府長官についてから強固に整備していた為、とくに問題視していなかった。


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