第278話

「クサナギ殿!クサナギ殿!」

 気がつけば俺は遺跡の石が敷き詰められていた床に倒れていた。倒れた時と後の記憶がまったく無い。


「レオナ、大丈夫です。それでここはどこ……実験室?」

 俺は周囲を見渡し乱雑に落ちていた瓶を見て何となくそう思ってしまった。


「クサナギ殿、ここは古代遺跡の中心部付近です。おそらく薬師などの店跡だとは思います」

 本当にそうなのだろうか?何故か違う気がする。

 俺は立ち上がりふと気になった方へ歩きだした。何の変哲もないレンガ作りの壁がそこにあるだけ。レオナも俺の後を着いてきている。


「クサナギ殿、こんな壁に何が!?」

 俺はレオナの言葉に耳を傾けながらも壁に手を当てると壁は砕けて地下へ通じる道が出現した。


「こんな所に道が?」

 確証は無かったけどなんとなく、ここに道があるような気がした。俺は階段を降りていくと大きな広いなんの変哲もない空洞がそこには存在した。そして中央部には一本の2メートル程ある白い杖が地面に突き刺さっていた。


「こんな所にこれほどの空洞が?それにあの杖は……呪いのようや物は見受けられませんが?」

 レオナは驚いていたが、俺には何となくここには空間があるのがわかっていた。それにあの杖は、呪いの杖なんかじゃない。

 近づき2メートルもある杖を両手で引き抜く。魔力も何も感じない普通の杖でも使い方は何となくわかる。


「レオナ、外に出ましょう」

 俺はレオナを急かすように階段を上がろうとした時だった。

 

――私とアレルの子孫、ユウティーシア。貴女には過酷な運命が待ち受けてるのかもしれないけどきっとその杖が貴女の助けになるわ。


「レオナ、何か言いましたか?」


「いえ、何も言ってません。それより早く遺跡の調査を進めませんと」

 俺はレオナの言葉に頷き階段を上り地上に出るととっくにお昼を過ぎていた。朝方出て2~3時間で遺跡について調べて10時頃だとしても俺は2時間近く気絶していたことになる。

 まさか幻惑で気絶させられるとはな……。それよりも、まずはと……遺跡から出ると探索チームのメンバーが俺たちがあまりにも早く帰ってきたのを見て驚いていたがレオナが遺跡の幻惑の魔術が消えてることを説明すると誰でも調査が出来ると喜んでいた。

 俺はそれを見ながら両手で握っていた、白い杖を砂漠に突き立てる。

 何故か意識しなくても自然と俺の口は言葉を紡いでいた。


「アプリ起動!所有者からの譲渡を受ける。前任者の名前はリメイラール!リメイラールとユウティーシアの名において!その力を解放せよ!マテリアルヒール!!」

 俺の言葉にしたがい杖から極光の白光が俺やレオナや探索チームのメンバーを包みこんだ後に、遺跡を周囲の砂漠をその光で包み込んでいく。砂だった場所は粒子が組み替えられ豊かな土壌に変化していき木々が生い茂っていき枯渇していた川までもが修復されていく。


 そして光が消えた後には、見渡す限り砂漠だった風景は緑と水豊かな土壌と川が流れる森林に変わっていた。


「クサナギ殿!それは神代の武器ではありませんか?それに先ほどリメイラール様の名前を言ってましたが?」


「私、そんな事言ってたっけ?」

 レオナが、これで商業衛星都市ルゼンドは助かります!と後ろから抱き着いてきて頭を撫でてくる。

 探索チームのメンバーも何が起きたか最初はわからないようだったけど、砂漠が消えた事を理解しはじめると驚きは歓声に変わっていった。


「クサナギ殿どうかしましたか?」

 後ろから抱きつかれて頭を撫でられる感触を味わっていると……何故か……。


「わからない、でも胸の奥が痛いんだ……」

 自然と自分の心臓の部分に手を当てた。なぜか自然と涙が溢れてくる、でもその胸の奥の痛みは決して不快なものじゃない。

 言葉じゃ説明できない。でも何故か、とても暖かさと安らぎを感じさせた。


 先ほどまで乾燥していた風はすでにそこには存在しない。

 適度に湿気を含み花の匂いを含んだ風は、座り込み涙をポロポロ流してる人形(ユウティーシア)の体を優しく包み込んでいた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る