第260話

「クサナギ殿は、詠唱魔法より生活魔法の方が得意ですよね?」


「得意と言うか無詠唱で使える所がいい」

 詠唱が必要とされる攻撃や防御魔術と違って、戦う術をもたない魔術にすら定義されてない生活魔術には詠唱が必要ないのだ。


 必要ない理由は簡単で使用する魔力が低く、世界に与える理の変化も少ないからと生活魔法が書かれていた魔術書には記載があったが実際はどうかは知らない。ただ絶対魔力量が多い俺にとっては奇襲攻撃にも使えるし地球の電化製品の再現にも使える事から使い勝手のいい魔術である事は確かだ。


 涼しくなった部屋の中で昨日の夜にルゼンド総督のリュゼルグから渡された資料に目を通していく。


「クサナギ殿、それは例の古代遺跡の件の資料ですか?」


「そうだとも言えるしそれだけでもない」

 俺はレオナに生返事を返しながら目を通すことを止めない。しばらくしてから部屋のドアがノックされレオナが扉に向かっていき開けて対応をしていると


「クサナギ殿、探索チームの方が来られたようです」

 思ったより早くきたな。俺は目を通し終わった資料をアイテムボックスに入れると立ち上がりケープを羽織りレオナと一緒にホテルを出た。


「お待たせしまいまして……すいません。私の名前はクサナギと言います、古代遺跡の探索の指揮をこの度取らせていただきます。こちらに控えておりますのは私の護衛のレオナと言います」

 俺の紹介にレオナは軽く頭を下げるだけに留まった。


「それでは、資料を見る限りですと古代都市の遺跡まで2時間の移動で到着出来るようですので早めに向かいましょう」

 いつもと違い、今回は砂漠の中の移動という事もあり馬車での移動が出来ない。代わりに地球のラクダに似た動物を総督府は手配しておいてくれたようだ。人数は俺を含めて10人であり内訳は俺とレオナに古代史に詳しいメンバーが3人とその護衛の5人の合計10人。


 俺とレオナと他の8人のメンバーはラクダの背に乗って商業都市ルゼンドの北門から古代都市遺跡へ向かって移動を開始した。そして旅は極めて順調だった。

 日中は地獄の熱さが続く砂漠地帯の上空には何故がずっと雨雲が停滞しており俺達と一緒に行動してくれるのだ。とてもありがたい存在である。


 しかも周囲の気温も一定に保たれており体力消費を究極的な意味で抑えていた。レオナが俺を見てクサナギ殿は、こういう細かい事が得意ですよねと言っていたがそれは当たり前じゃないかと言う顔で返しておいた。


 町を出発して2時間ほど経過すると前方に石作りの遺跡のような物が見えてきた。


「クサナギ様、あれが古代都市です」

 考古学に明るい一人の総督府勤めの男性が俺にアドバイスしてきてくれが遠くから見る感じでは特におかしな所は感じられないんだが……。


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