第202話
「信じられない。どういうことなの?」
聖女アリアの言葉には恐怖の色が含まれていた。
俺は現在、人差し指の一部の細胞をミトコドリアに命じて高速で細胞増殖を行って修復をさせている。つまり斬られた直後から回復してるから実際は切れてるのに切れてないように見えてるに過ぎない。ただ、普通のやつにはそれを感じ取ることができないだけなのだ。
勇者コルクが剣を引き俺から距離をとる。
「アリア様、計画は立て直したほうがいいかも知れません」
「――で、ですが!」
「アリア様も見られたでしょう?ユウティーシア、いえ彼女は戦女神の力を奪った人間つまり魔王なのです。この女ほど危険な思想を持つ者など見た事がありません!」
「――そうですね。このような失態が外部に漏れれば教会の権威が失墜してしまうかも知れません。勇者コルク・ザルト、聖女アリアの名においてアナタに命じます。魔王ユウティーシアを討滅しなさい!」
「はっ!」
俺の見てる前で喜劇としか思えない話を二人はしてるかと思うと俺をいきなり魔王とか呼び始めた。なんだろう、勝手に連れてきておいて言う事を聞かないからって力押しで相手に強要してきて自分たちが不利だと思ったら魔王扱いとかひどい連中だ。
「あなたたちが勝手に連れてきたのに言う事を聞かなかったら魔王扱いですか?ひどいものですね。教会と言うのはここまで腐っているのですか?」
「うるさい!お前は相手をいたぶる為だけに治療魔術を使い脅しをしてきたじゃないか!」
「え?自分たちが拉致してきた事を棚に上げて負けても治療された事を根に持つとか信じられませんね」
「えええい。魔王の戯言など聞く耳もたん、体が変化するなど魔族の王、魔王ではなくて何と言うのだ!さっさと死ねえええええ」
俺の返答を待たずに突っ込んでくる男をヒラリと避ける。さきほどよりも勇者コルクの身体上昇率が上がってる気がするがかわせない程ではない。
「リールスティグマ!ふふふ。これでアナタは全ての魔術が使用できません」
「なるほど……」
たしかに体がとても重い。ミトコンドリアに命じた細胞強化強度が落ちてる証拠だろう。ただ、人間の細胞は60億存在している。そして身体強化魔術と違って一度変質した細胞は魔力を打ち消されても変わることはない。
「死ね!ぐべらぁ」
突っ込んできた勇者コルクの顔面にコブシを打ち込む。その際に発生した風きり恩はジャンボジェットのエンジン並みの音でアリアはまともに聴いてしまったのか立ちくらみを起こして座り込んでしまっていた。そしてコルクと言えばダンジョンの壁に火と言う文字でめり込んでいた。
「――そんな、これが魔王の力なのですか?」
ふらつきながらも立ち上がる聖女アリアを見て俺はため息をついた。こいつらはどこまで俺を悪人にしたいのだろう。自分たちが拉致してきた事は棚上げして本当にひどいやつらだ。俺ほどの善人はいないはずなのにな。
「ふう、悪いな」
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