第179話

俺は席から立ち上がり初老の男性の言葉を遮った。そして自分の紹介から始める事で相手に会議の主導権を握らせない事にする。


「私の名前は、カイジン・クサナギと申します。よろしくお願いいたしますわ」


俺は、この世界に転生してから10年近く仕込まれたカーテシーを披露する。アプリコット先生にも完璧ですね!と言われた俺のカーテシーを見て会議にいる参加者たちは驚いている。参加者達の表情から察するに分かる事は俺の事を魔力量が多いだけの女性と思ってた可能性がある。


「見事な……」

「これはまさか……」


数人が声を上げていたが俺が転生した国は、この世界で最も古い歴史を誇る国リースノット王国。歴史と貴族の作法においては他国の追従を受け付けないとアプリコット先生談だ。


「――これは失礼した。私は、魔法帝国ジールの使節団を取り纏めますエクアドルと申します。この度は、王妃様のお迎えに伺いました」


「失礼ですが、私は婚約前の顔合わせという内容でお話を伺っています。国家の王妃と言いますのは些か早急かと存じ上げます」


俺が王妃になる事は受諾してないと遠回しに伝えるとエクアドルの左右にいた男達は動揺していた。見た感じ年齢はまだ20歳後半という所か?西洋人は年が分かりにくいんだよな。

まあ鑑定すればすぐだけどと思ったら鑑定が弾かれた?

俺が驚いてエクアドルへ視線を向けるとその表情は確信を得たように目つきが鋭く変わっていた。


「これだけの魔力を御持ちでしたら王太子様とのご成婚もつつがなく進みそうですね」


エクアドルの言葉に俺は下手を打った事に内心舌を打っていた。鑑定魔法の魔力消費量は10万。上級魔法師の最低魔力量条件が1万とすると10人分の魔力量を消費する。つまり鑑定魔法使用を知られた時点で俺の魔力量は最上級を通り越して王級クラスの魔力量を保有してる事になる。しかも10万の魔力を消費して意識を失っていないという事は王級クラスでも中級から上級の魔力を持っていると思われてもおかしくない。


「仰られてる意味が理解できませんわ。私は顔合わせとだけお話を伺っておりますので」


さて、最初に主導権を握ったはずが相手の出方を待つ形になってしまった。どうするか……なるほどな、それでいくか?


「エクアドル様、差障りなければ他の方のご紹介も頂けませんか?」


話しの内容をずらす。そこからエクアドル攻略を探す事にする。


「これは失礼しました。まずは私の補佐をしております魔法帝国外務部担当のブルネイとアゼルです」


二人とも無言で俺に頭を下げてくるがその眼はこちらを値踏みしてるようであまりよろしいとは言えない。


「さようでございますか。魔法帝国外務部と言うのは諸国との外交などを担当していらっしゃるのですよね?ブルネイ様もアゼル様も素晴らしい方なのですね」


俺の褒め言葉に二人は呆気にとられていたが、俺は魔法帝国外務部は係り戦争を火付け役とアプリコット先生に聞いていた事からエクアドルとその補佐についての危険度を心の中で引き上げた。そんな俺をレオナは、冷や汗を垂らしながら見てるが俺だってこういうのはかなり困る事案だ。


「それでは、クサナギ様は王太子様に嫁ぐ気は無いと?」

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