第129話
エルノを元治めていたカベルを雇用したが、彼は軍人肌という事であまり業務では力になってくれてない。ただ、カベルが領主時代に雇っていた人材を丸ごと雇用出来たのは大きいが結局ヘポイの労働の補填にはならなかった。
「こ……こんなの……ぜったい……おかしい……」
「ヘポイ殿!ヘポイどのー!」
カベルは自分も3日寝てないのに撃沈したヘポイを力いっぱい揺さぶった。
ただ、ヘポイが起きる事は翌朝まで無かった。
カベルは一人黙々と書類をチェックしていたがふと、クサナギが初めてこの町に現れた時の事を思い出した。
カベルは、ヴァルキリアスに青年時代に留学してた時があった。
そこでは奴隷制度が廃止されており厳格な法律があり貴族すら破る事は許されていなかった。その為、国民は法律により横暴な貴族から守られていた。
カベルは留学後、王位簒奪レースに参加したが結果は王位に届かずに4位。国全体にヴァルキリアスのような奴隷制度廃止と教育制度を整える案を出す事は出来なかった。
それどころか、王位簒奪レースで優勝し王位に注いだ者は奴隷推進派として奴隷制度を促進させた。
それにより国は衰退の一途を辿っていた。
たしかに外と国交のある7つの衛星都市と海上都市ルグニカは繁栄していたように見えたかも知れない。
ただ、それは内陸部の国民を奴隷として徴用した結果、得られた虚構の繁栄でしかなかったのだ。
だからカベルは此処の衛星都市の自治権を主張する事で奴隷制度を廃止し国民に教育を施そうとした。もちろん予算は、迷宮から産出される魔法石からと考えていた。
初めて数カ月間は上手く行っていた。しかし突然、迷宮内でA級冒険者パーティが消息を絶ったのだ。それからは次々と戻ってくる冒険者が減る。
冒険者ギルドと合同で衛星都市エルノの騎士団が迷宮で犠牲を出しながらも迷宮内を調査した結果、ボスの部屋で巨大な黒い龍の姿を発見したと報告が上がった。
黒龍、それは迷宮内において80階層以降に存在する凶悪な魔物でありS級クラスの冒険者チームですら命がけで戦うものでありそんなモノが迷宮第一層に居た事に総督府は愕然とした。
もちろん、戦う事など無理であり冒険者ギルドもそんな危険な場所には冒険者を派遣できないと冒険者は町から姿を消した。
冒険者を当てにしていた商人などもいなくなり、その商人が運んできたお金も無くなり雪崩式にエルノの国政は悪化し治安も悪化していった。
カベルは、財政難に陥った都市をどうにか出来ないかと考えてみたが一度離れた商人を引き戻す事は困難でありどうにもならなかった。
そんな折、自分の息子であるカーネルと衛星都市スメラギの総督府の娘であるエメラスが訪ねてきたのだ。エメラスが持ってきたのは資金提供であった。
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