第123話

「エメラスさん?」


俺は精一杯の笑顔で語りかけることにする。


「ヒッ!」


何かされると思ったのだろうか?

俺から距離をとるとエメラスは参加者達の後ろに隠れてしまった。

さて、これでは話が出来ないな……。


まぁ仕方ないか。

それより大会参加に追加された項目で船に直接魔法攻撃をしたらいけないとあった。

さて、どうしたものか?

ふむ……。


「それではハプニングもありましたが皆様、船に乗船してください!!」


司会の言葉に総督府の地位を狙ってる王家の人間達は騎士達を連れて軍艦に乗り込んでいく。


「クサナギ!任せたぞ!」


声がした方を振り向くとグランカスとその仲間である奴隷商人達も船に乗船するため、ガレー船に向かっていく。

そして俺はと言うと……グランカスに発注させた特注の漁船くらいの大きさのクルーザーもどきに乗り込んだ。そして思い至る。


直接攻撃がだめなら、間接攻撃ならいいんだな?と……。




衛星都市スメラギの王位簒奪レース会場より海爵の血筋が乗る7隻の軍艦が出航していく。

港から出た軍艦の側面から突き出た長いオールが海面を叩き始めた。

少しづつ船足があがっていくその様子は一糸乱れぬ様相であった。

次にかなり遅れて出航したのは奴隷商人が乗る船であり、オールを漕ぐ姿も統率が取れておらず中々速度を上げることが出来ずにいた。


統率された軍の軍艦には民間のガレー船では絶対に勝つことはできない。

会場の誰もが予想していた姿がそこにはあった。


そんな様子を草薙は見ながらいまだに会場内にいた。


「ふむ……そろそろか?」


俺は呟きながら肉体強化魔法を発動させる。

肉体強化魔法は、体内から皮膚までを強化するが魔力を纏うなら服までもが強化対象となる。

つまり、その纏う対象が服と言う限定的な物ではなく船なら?


その答えが今、白日の元に晒されていた。

会場の一人が草薙が中々出航しない事を不思議に思っていると船が輝きだした事に目を見張った。そして今まで軍艦やガレー船の出航ばかりに目を送っていた会場中の視線が草薙と船に向けられていく。


それと同時に船からは、きぃいいいいいいいいんと空気を振るわせる音が会場中に鳴り響き始める。

観客たちは耳を塞ぎながらも草薙が乗る船が少しづつ海面から上昇していく姿を驚愕のまなざしで見ていた。


船酔いと言うのは三半規管が弱い人がなるものと言われているが、俺にはそれがどういう理屈かがわからない。だから身体強化魔術を使っても理が分からないことから改善できずにいた。

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