第90話

それは草薙が総督府に連れてこられて2階の広間で待たされてた頃まで遡る。


「お父様、例の人間を連れてきました」


総督府へ草薙を連れてきたエメラスは、草薙が冒険者になる為には簒奪レースに参加しなければいけないと言う事情を知りその事を父親に伝える為に2階のホールで草薙を待たせる事にした。

そしてエメラスは部屋に入り父親であるイデル海爵(かいしゃく)へ報告を上げていた。


「うむ。だが、エメラスよ。本当のその者、人間なのか?お前や海員の話を聞く限りでは相当上位の魔法師だと言う話ではあったが大丈夫なのか?」


上位の魔法師の人数は限られている。

大半は中級魔法師の中位止まりであり上級魔法師は国が囲い込んでしまうためフリーの上級魔法師などいないのだ。

だからこそ、草薙の事をイデルは魔族ではないのか?と一考していた。


「はい、お父様。どうやら彼の者はお人よしの人間のようです。それにどこか後ろめたい所があるようで冒険者になるための資格をチラつかせました所、簡単にこちらの要望を受け入れるように見受けられました。こちらが下出に出ていれば御する事は簡単でしょう」


「そうか。所詮は平民という事だな。自分の力を隠す為に海神と言っていたようだが、しばらくは騙されておいてやるか、レースに勝った後はどうすればいいか分かるな?」


イデルの言葉にエメラスは頷く。


「ええ、もちろんです。奴隷の首輪でも使ってペットにするか娼館で奉仕でもさせましょう。あれだけの器量ですからいくらでも客はつきます」


「それよりもカベル海爵の様子はどうであった?」


「未だに、ヴァルキリアスのように奴隷制度を禁止するべきだと寝言をほざいておりました。奴隷は私達のような高位の人間に奉仕するために神が作ったと言うのに理解できませんわ」


「そうか、分かった。これからそのクサナギと言うゴミと会話する事になるが、お前はくれぐれもクサナギに気取られるようにしておけよ?何かあれば上級魔法師を始末できる者を手配するからすぐに報告をするように……いいな?」


「はい、それではクサナギを連れて参ります」


エメラスはその言葉を発すると部屋から出ていった。

それを見ながらイデルは上級魔法師を如何にして利用し簒奪レースに勝つか算盤を引き始めた。




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