第57話


「それが良かろう、クラウス殿下には酷な話じゃろうからな」


まるで二人の話を聞いてると、僕の身を案じてるように聞こえたけどそんなの……そんなの……。

僕はそんなのを望んでなんかいない!


「マルス、どうだ?」


僕は先ほどまでの二人の話を聞いてないふりをして扉をわざと音を立てながら開き中へ踏み入った。


「殿下」


「クラウス様」


二人の視線は僕の後ろに立っているエルスに向けられていた。

そのエルスは首を横に振る。

二人はエルスの様子を見て僕が二人の話を盗み聞ぎしたと理解したようだった。


「話は早い。どうにかならないのか?」


僕は先ほどの二人の会話から時間がない事は察していた。

だから余計な会話は省くことにした。


「魔法では手足や失われた内臓も直せると聞いたことがある。実際、そのように魔法師から習ったぞ?」


ベルメル王宮医は、僕の発言に思案顔になり


「たしかにクラウス様のいう通りですが、それが出来るのは現状ではこの王国では一人だけなのです」


「一人だけ?」


「ならその者に頼めばいいのではないか?」


「それは難しいと存じます」


「何故だ?」


王子の力でも叶わないと言うのか?

一体どれほどの……。


「違います。それが出来るのは国王陛下だけだからです」


「!?」


ベルメルの言葉に僕は固まってしまった。

父上は、上級魔法師として国防上を最重要位置にいる。

つねに魔法力を蓄えておくことは責務でありめったに使われる事はない。

そんな父上に魔法行使をお願いするなど無理だ。


「どうにかならないのか?」


「申し訳ありませぬ」


「……」


僕は先ほど助けた時よりもずっと弱弱しくなった子犬を抱きかかえると王宮内の庭園で向かった。

後ろから付き人のマルスとエルスが付いてくるのが分かる。


庭園につき精巧な彫刻が刻まれている椅子に腰を掛けると

自分の服が真っ赤に染まっているのに気がついた。


「クラウス様……」


心配になったのかマルスが僕に話しかけてくるが


「すまない、少し一人にしてくれないか」


僕の言葉にマルスとエルスは、そっと離れると庭園から僕の姿が見えるギリギリの位置まで移動していた。

僕はそれを見てから


「すまないな、僕がもう少し見つけるのが速かったなら助られたのにな

先生に回復魔法を習っていても僕の魔法力じゃお前を助けることができないんだ」


そう、クラウス王子は上級魔法師と呼ばれたグルガード王よりも遥かに魔法力が小さく上級魔法どころか中級魔法すらうまく使う事ができない。

その事で魔法主義国のこの国においてグルガード王の長子であり第一継承権保持者であってもクラウス王子の地盤は弱い。


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