第33話
「何を言ってるのか分かりません」
「自覚がないのかどうなのか本当に君は分からないな。とりあえずこれでも読んで勉強しておくといい。どうせこの国の成り立ちとか知らないんだろう?知らないと人と付き合う上で何が問題になるか分からないだろうからな」
ユークリッドがテーブルの上に置いたのは分厚い本だった、それでも日本で言うなら小説一冊分ほどの厚さ……。でもこのような本があるって事は、印刷技術があるってことになるけど……。
「昼からは、町の案内をするからな。家から出して貰えなかったってことはその辺も分からないんだろう?」
俺はユークリッドの言葉に頷いた。ずっと公爵家に住んでいて外に出なかったのだ。この世界の常識が俺には抜け落ちていた。人身掌握術や各種学問などは習ってはいたが肝心の市民の知識が抜けているのだ。どうせ、王妃になるからとそのへんを省いていたのだろう。上に立つ人間だからこそ市民の私生活、経済を知らなければいい政治は行えないと言うのにこれだから中世の貴族は困ったものだ。
「どうした?町に出るのが怖いのか?」
「いえそんな事はないんです、ただ少し考えことをしてしまって……」
ユークリッドの言葉に返事しながらも俺は、テーブルの上の本を手に取り表紙を捲った。そこには世界の始まりの事が書かれていた。
どうやらこれは、日本で言うところの国つくりに相当し西洋で言うところの旧約聖書に近い物なのだろう。そして読み進める事にした。先ほど起こされたのが日が昇ってきたばかりと言うこともありまだお昼までには時間がある。
転生前から鍛えていた俺の速読ならこのページ数なら全て読み終わるのに2時間もかからないだろう。
読み始めようとしたところで、ユークリッドが椅子から立ち上がってコートを手に持ったのを目端で見かけた。
「どこか行かれるのですか?」
俺は自分の声が緊張感を孕むのを抑えきれなかった。もしかしたら俺の情報をこの男が誰かに漏らす可能性もあるから。
「ん?君、追われてる可能性があるんだ。だからそんな格好だとまずい、君に合う服を調達してくるだけだ」
「ああ、そういうことですか」
「――――――君さ、もう少し人を信用した方がいいよ?そんなんじゃ誰も信用してくれないよ?」
ユークリッドの言葉に、俺は……。
「わ、私は……そういう……」
俺は何も言えなかった。ユークリッドは、俺のことをしばらく見てから表に出ていった。
「貴方は何も分かっていないのですよ……ユークリッド。信用や信頼と言うのは呪いなんですよ……」
ユークリッドが注いでくれたのだろう。俺は、注がれた紅茶を見ながら一人呟いた。
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