第30話
「はい」
返事を返しながら考える。また寝ぼけてる時に、ずいぶんと無駄な事をペラペラと喋っていたもんだ。そしてよく毎度、これだけ人を怒らせる事ができると自分の事ながら感心する。そう考えながらも先ほど音を鳴らした大きなベルを視界の端で確認する。恐らくあれは問い掛けに関する答えが嘘だった場合に音を鳴らすと推測される。どの程度が嘘と認識されるか基準が分からないが何とかなる。
「まず日本国と言うのは私が産まれた所です。」
音はならない。つまりそういう事だ。嘘はついてない、何故なら所と言うのは自分が産まれた場所を指してるのだから。嘘ではないのだ。
「だが、私はそのような国など聞いたことがないどこにあるのだ?」
「さあ?私も存じません。何故なら私は、ここの世界では存在してるか知らないからです」
コレも嘘はついていない。何故ならここを定義した異世界には日本はないしあったとしても俺は知らない。だから知らないと言うのは嘘ではない。ほら、その証拠に音が鳴らない。
「だ、だが……1億3000万人も人口がいるなど……」
「ええ、たしかに驚きですよね?でも私も実際は良く分からないのです。何故ならその数字は人に教えてもらったものなのですから」
肯定しつつも否定する。そして人数に関しては人に教えてもらったからと言って確実ではありませんよ?と発言した。教師や他人って突き詰めていけば人に定義される。つまり俺は、1億3000万人と言う人口は誰かに教えてもらった物であって随時変わる人口の増減に関しては知りませんと言ったのだ。
だが彼はそこまではおそらく考えてはいまい。
そして俺と取引をしたヴァルキリアスの男は、深い事を何も考えずに俺の身柄の目の前に渡したのだろう。だから詳しい話を聞こうとした。つまり事情を聞いてからどうするかを彼は考えているのだ。そうじゃなければ即、詰め所送りで詰んでいたはずだ。
「私の名前も、もう御存知ですよね?」
俺の質問に男は頷く。やはり喋っていたかと思いながらも表情には出さない。
「クサナギユーヤだろう?」
男の発音が間違っていた事をスルーし俺は微笑む。肯定も否定もしない。名前だけは何がアウトになるか正直分からなかったからだ。だから微笑んで相手が好きなように取る事を選んだ。
「まず、お名前はご理解頂けたと思います。次に私は、自分が生まれた所(日本)から出た事がないのです。ですので外(外国)の事はまったく分かりませんしこの場所(異世界のどこなのか)がどこか分かりません」
まったく音は鳴らない。自分で言っててもまるで詐欺みたいだなとは思うが、鳴らないのだから俺は悪くない。俺の言葉を聞いてる途中でも男は何度もベルと俺の顔を往復して見ていたが俺は嘘はついていない。
「あとお願いがあるのですがなるべく事件にはしないで頂けますか?こちらにも都合がありますので……」
俺が話した内容を訳せば、名前は分かりますけど生まれた後に家から出してもらえず軟禁されていました。貴方とあった時も知らない人間に拉致されて連れて来られただけですとなる。ですけど事件にはしないでくださいね、こちらも問題があるのでという意味になる。
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