第五十六話 観覧車


 某有名テーマパークの観覧車には噂がある。


 観覧車の中に一つだけ内装の違うゴンドラがあり、夜その中に一人で居ると幽霊が出るのだと……。

 そんな話を聞いた動画サイト投稿者は、カメラ片手に観覧者に乗り込んだ。


 昼の内から内装を確認し全てのゴンドラに乗る徹底ぶりは、アクセス数を稼ぐ為のもの。その熱意の甲斐あってか、本当に内装の違うゴンドラを見付けるに至る。


 そうして準備を整えた動画投稿者は、いざ観覧車へと乗り込んだ……。


 その観覧車は一周四十分掛けてゆっくりと回る仕組み。動画投稿者は初め鼻唄混じりの余裕を見ていたが、やがて何も起きないことに退屈になっていった。


 しかし……ゴンドラが頂点に差し掛かろうとする辺りで聴こえた大きな音に身構えることになる。


 音の発生源は窓。そこには手の平の跡がくっきりと残っていた。


 怪奇現象に喜ぶ動画投稿者だったが、そんな余裕は一気に失せる事態が続く。


 ゴンドラ全面をバシバシと叩く音が響き始まり、やがて叩く手が目視できるようになったのだ。そしてそれは、ゴンドラが揺れる程の勢いだった……。


 耳を塞ぎ踞っていた動画投稿者……やがて音と衝撃がピタリと止まり顔を上げると、そこには青白い顔をした子供達が大勢張り付いていた。


 子供達は不気味な笑顔を浮かべ動画投稿者を見詰めたまま、今度は反応を確かめる様にバシリ、バシリと不定期に窓を叩く。

 笑い声が混じったその状態は地上に着く寸前まで続いた……。 



 地上に着き、飛び出すようにゴンドラから降りた動画投稿者。何とか落ち着きを取り戻し映像を確認。


 だが……あの恐怖の映像は撮影出来ておらず、ただ夜景が映っていただけだった。


 動画投稿者は最後に“また遊ぼうね”という子供の声を聞いというが……映像が無い為に骨折り損となったのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る