第0097話 神都に根ざす悪

「ごちそうさまでした。すごく美味おいしかったです」

「まぁ、ユリコちゃん。お口に合ったようでよかったわ。うふ!」


「勇者様が言う通り、本当にすっごく美味おいしかったです!」

「ダーリンが出してくれる料理の次に・・美味しかったです」


 "次に" って、マイミィさんや、それはちょっとマイティに失礼じゃないのかな?

 この場では、普通に『美味しかった』だけでいいと思うんだが……。


「あらま。 上様うえさまって料理がお上手じょうずなのね?」


「「もちろん! 最高ですよ!」」「ええ……まぁ……」


 マルルカとマイミィはしめわせたかのように声がそろった。 即答そくとうだ。

 一方いっぽう、ユリコの方は微妙びみょうな顔をしている?


『レプリケーターを使っているから、シンが自分で作るわけじゃないんだけど……

 ま、余計よけいなことは言わない方がいいわね』


 ユリコは心の中でつぶやく。


「ねぇねぇ、マルルカちゃん。上様の話が出たからちょっと聞きたいんだけど?」

「ん? なんでしょうか? マイティさん」


「あのう……上様って、あたしのような……ほら、身体からだおとこでぇ~、こころ乙女おとめっていうのかな? こんな人間はゆるせないって思っているのかなぁ?

 どうかなぁ? 知らない?」


「うーーん……どうなんでしょうね。 聞いたことがないので分かりませんが、多分ダーリンは許せないだなんて思ってないと思いますよ」


 異教徒いきょうと……シオン教徒だった彼女たちを他のハニーたちと同様どうように愛してくれる心の広さを持っている。 そんなシンが、ジェンダー・マイノリティーを差別さべつするようなことは絶対ぜったいにないとマルルカは確信かくしんしている。


 マイティと夕食ゆうしょくともにして、彼女の人柄ひとがらを知るにつれて、マルルカとマイミィも心の片隅かたすみにほんの少しだけあった "ジェンダー・マイノリティーへの偏見へんけん" が消えていくのを感じていた。


「マイティさん、ちょっと待ってて下さいね……」


 マルルカは石化せきかでもされてしまったかのように動かない。

 時折ときおりニコニコしているからそうじゃないとは分かるんだが……


 どうやらマルルカは、念話ねんわでシンと話をしているようだ。


 マルルカと話をしていたマイティは、話の途中とちゅうで彼女が突然とつぜんかたまってしまったかのようになってしまったので、ちょっと心配そうに彼女の顔をながめている。


 すると突然、マイティの心に話しかけてくる声がした!


『お前さんがマイティかい? 俺はマルルカたちのおっとでこの世の神だが……』


「え!? う、うう、上様うえさまですかっ!? えっ!?」


『ああそうだ。 マルルカから色々聞かれたが、お前さんと直接話をした方がはえぇと思ってな。 こうしてお前さんのこころに直接話しかけている。

 あ、お前さんも声に出さずに、心の中で俺に話しかければ俺には通じるからな』


『あ・あ……いかがでしょうか? 聞こえますでしょうか?』

『ああ、聞こえるぜ、バッチグーだ!』


『ば、ば、ばっちぐぅ?』

『あーー……今のはわすれてくれ。 ハッキリ聞こえるぜっていうような意味だ』


『はぁ……??』


『ん、ぅん! あー、事情じじょうはマルルカからいたぜ。大丈夫だいじょうぶだよ。心配するな。

 他人は色々言うかも知んねぇがな、どうか胸をはって生きてくれ!

 俺はお前さんたちの存在そんざい否定ひていしねぇし、もちろん不快ふかいになんか思ってねぇから!

 人としてのありかたも、思考しこう多様性たようせいがあってしかるべきだと思っているからな!

 それぞれの "あり方" や "考え方" を、俺は尊重そんちょうするぜ!』


 マイティの表情が明るくなる。


『俺がゆるせねぇ、ってのは……基本的に人がいやがることをするヤツらだけだ!

 例えば、さっきマウィンをさらおうとしたクソ野郎どものようなヤツらだなっ!』


『ああ…上様うえさま……ううう……。 あたしは……うう……ありがとうございます』


 マイティは、人からさげすまれてきたこの自分という存在を、神が認めてくれていることを知って安堵あんどし、泣いた。 あふる涙をきんなかった……。


 シンはマイティのたましい履歴りれきを調べた。


 "彼女" は、身体からだこころのギャップに子供の頃からずっと苦しんできた。

 ひどいイジメにもってきて……それで "彼女" は強くなろうとしたのだ。


 その結果が今の風貌ふうぼうということになる。


 まだまだジェンダー・マイノリティにたいして差別意識さべついしきを持つ者は多かったのだが、シンやユリコが前世ぜんせを生きた地球は、この世界にくらべたら、かなり寛容かんようであるとさえ思えるほどに、この世界での "マイノリティー" に対する差別さべつはげしい。


 それはジェンダー・マイノリティーに限らず、いかなるマイノリティーに対しても言えるなのであるのだが……。


 この世界はマイノリティー(少数派)には世知辛せちがらい……。


 だから、彼女は、この世界で おのれまもるためには強くなるよりほかに……

 筋骨隆隆きんこつりゅうりゅうになるほどにおのれきたげる以外には道がなかったのだ。


 本当は……かわいらしい格好かっこう似合にあう "女の子" になりたかったのに……。



 シンは、ユリコにも用があったので『黄色いハンカチ』に出向でむくことにした。


 マイティから念話でれいを言われたのを受けて、シンはマイティの前に転移すると、彼女 に直接話しかける……


「いや。そんなのは当たり前のことだ。 だかられいにはおよばねぇよ。

 お前さんは、ずいぶんと つれぇ 思いをしてきたんだなぁ……かわいそうになぁ。

 だがいいか? 世間せけんがなにを言おうがな、俺はお前さんの味方みかただ!」


「「う、うわっ!?」」「きゃっ!?」


 マイティ、ガザマン、マウィンが驚く……


「「あっ! ダーリン!」」「し、しし、シン!?」


 シンが突然、店内に転移して来たことにみんな驚いている?


「よう、ハニーたち!」


 シンは にっこり と笑いながら、軽く右手を上げてマルルカたちに声をかけた。


 ユリコ、マルルカ、マイミィに"パッ"と笑顔えがおはなく……が、ユリコはマズいとでも思ったのか、すぐに無表情むひょうじょうよそおう……


「ユリコ、久しぶりだな? 元気だったか!? …… って、ははは、そんなに時間はってねぇか? でも、すっげぇこいしかったぜ、ユリコ! お前さんと会うのは百年ぶりのような気がするぜ!」


 シンは臆面おくめんもなく、いけしゃあしゃあ とそんなことを言いやがった!

 ……あぁ、失礼しつれい……つ、つい感情的に……。 もとい!


 シンは、そうユリコに言った。


 ユリコの顔は、まるでだこのように真っ赤っかだ!

 それを見てマルルカとマイミィがニヤニヤしている?


「はふぅん! な、ななな、なにを言っているの、シン!?

 ま、また調子いいこと言っちゃってさ。 そうやって私をからかっているのね?」


「いや。からかってなんかねぇよ。すべて本心だぜ!

 俺はこころそこからお前さんをあいしているんだから、そう思うのは当然だろう?

 なんかおかしいかい? 俺は間違っているか?

 …… おっとそうだったぜ! 俺はお前さんをむかえに来たんだった!」


「え!? ど、どどど、どういうこと!?」


「あのな、実は……」


 ドッゴォーーンッッッ!!


 きゃぁっ!? うわっ!? はっ!? ……


 突然とつぜん、入り口あたりで大きな爆発音ばくはつおん? がした!

 みなは驚きの声をはっする! あ、いや。 シンだけは平然へいぜんとしているな?


 見ると、食堂の入り口のドアが、入り口とは反対側はんたいがわかべまでんでいた!

 ドアはげている? どうやらファイヤーボールが外からまれたようだ。


 それを確認しえたとほぼ同時に、むさい男どもが わらわらと 食堂の中になだれ込んできた! どうだろう……食堂の中に入って来たのは15人くらいだろうか?


 窓越まどごしに食堂の外を見ると、外にも50人ほどの男どもが見える。


「あ、あなたはっ! ろうに連れて行かれたんじゃないんですかっ!?」


 ユリコたちは驚いた。 それもそのはず! 先ほどユリコたちがらえて、衛兵えいへいによってろうへと連れて行かれたはずの "クソ野郎どものボス" がそこにいたからだ!


 ユリコのわる予感よかんが当たってしまったのだった……



 ◇◇◇◇◇◇◇



「どうやってろうから出たんですかっ!?」


 ユリコは、クソ野郎どものボスに聞かずにはいられなかったようだ。


「ひゃぁ~はっはっ! あめぇなぁ~、おじょうちゃん。

 あくってのはなぁ、どこへでも深く入り込むもんだぜ?

 悪はどこへでもはびこるってもんだ! ははは。

 まさか、衛兵えいへい全員ぜんいん善人ぜんにんだとでも思っていたのかなぁ? あははははっ!

 くふっ! 世間知せけんしらずの "おじょ~ちゃん"、バッカじゃねぇの! あははははっ!」


 ユリコは絶句ぜっくした。

 まさか衛兵えいへいの中にあく手先てさきがいるなんて、思ってもいなかったからなんだろう。


 ああ、なるほど、このクソ野郎は一応いちおう自分は "あく" だと 思っては いるようだな。


 ユリコはなにやらブツブツとつぶやいている? なんだろう?


てきすべからずときうしなうべからず、かぁ。

 シンがよくそう言ってるけど……ちょっとあまかったなぁ。

 別になさけをかけたわけじゃないんだけど、ホント、あの時容赦ようしゃなくキッチリと始末しまつしておけばよかったわ……」


 なるほど。ユリコは、クソ野郎どもを始末しまつできる時に始末しまつしておかなかったことを後悔こうかいしているようだなぁ?


 今回の件は彼女にとって "よき教訓きょうくん" になったかも知れないな。



「約束通り、落とし前をつけに来たぜ! さっきのりはキッチリと返してやるぜ!

 あーはははははっ! 先生! 頼んだぜ!」


承知しょうち! 縮地しゅくち!」

「きゃっ!? はなして! ガザマン! 助けて!」


 ボスのとなりに立っていた男の姿すがたが消えたかと思うと、いつのにかマウィンのそばにいて、彼女のうでをつかんでいる!?


 男はニヤリと笑うと、ガザマンがつかみかかる前に……

縮地しゅくち!」


 縮地しゅくちで、ボスのもとへともどって行きやがったのだっ!


「やぁ、マウィン。これでお前は俺のモノだ! あーはははははっ!」

「く、くっそう! てめぇ! 俺の女房にょうぼうはなせ!」


「動くな! 動けば今すぐこの女を殺すぜ? いいのか? それでも?」


 『縮地しゅくち』を使った"先生"と呼ばれる男が、短剣たんけん先端せんたんをマウィンの首にあてる……

 マウィンの首からは血が!? "ツゥー" と、首に沿うように流れた!


「やめろ! やめてくれっ!」


「ひゃぁーーはっはっはっはっ!

 どうだ? さすがに今度は俺たちに手出てだしするこたぁできねぇだろう?」


 ボスは下卑げびた笑い声を上げる。 なんとも耳障みみざわりな笑い声だ!



「さぁ、そこのおじょうちゃんたち! 今すぐはだかになりなっ!

 マウィンを殺されたくなけりゃ、ぱだかになってこっちに来るんだ!」


 かぁ~っ! クソ野郎の発想はっそうってのは……ったく!


 まぁ、予想はしていたんだが、俺のよめたちにまでちょっかいを出すってのか!?

 どうやら、よっぽど 死にたいらしいなっ!? のぞどおり、ぶっ殺してやるぜ!


「さぁさぁ! まずお前たちから、俺たち全員でたっぷりとかわいがってやるぜ!

 そこの男どもの目の前でなっ! ひひひ! あーはははははっ!」


 この俺をあおっているのか? 調子ぶっこきやがってっ!

 この野郎……どう料理してやろうか!?


「ぐふっぐふふ。 今からお前らは、俺の性奴隷せいどれいだ! 俺のおもちゃだ!

 あーはははははっ! う~、たまらん! く~っ!

 あははははっ! あーはははははっ!」


 ブチッ!

 ついに頭の中で "なにかが" 切れる音がした!


 よくもまぁ、ベラベラベラベラベラベラと! 勝手かってなことをほざきやがる!


 はぁあっ!? 俺の嫁たちを性奴隷せいどれいにするだとぉ? クソ野郎がっ! 

 決定だ! ぶっ殺す! 全員……ぶっ・殺すっ!


 マウィンをのぞくクソ野郎ども全員をターゲット指定して強烈きょうれつ威圧いあつする!

 店の外にいるクソ野郎どもも、当然、ターゲット指定してある。


「てめぇら! 俺の嫁に手を出そうとしたな!?

 クソ・野郎・がっ! 絶対に! 許さん! ぶっ殺す!」


 男どもは俺がはなった強烈きょうれつ威圧いあつにより、身動みうごきできないどころか、声さえも出せない……出るのは大量たいりょう脂汗あぶらあせのみだ!


 クソ野郎ども全員が失禁しっきんしてしまった!

 あたりには悪臭あくしゅうただよい出す……


 当然だが、ターゲット指定していないので、威圧いあつはマウィンには影響えいきょうない。


 今だったら、彼女は先生と呼ばれるクソ野郎のうでりほどいて、逃げ出すことも可能だと思うんだけどなぁ……


 まだ連れ去られた恐怖きょうふ支配しはいされているためなのか、動けないでいるのかな?


 ま、しょうがないな……


「転送! あ~んど、修復!」


 マウィンは、ガザマンのそばへと一瞬いっしゅんで移動した!

 "先生"と呼ばれるクソ野郎によって彼女の首につけられた刃物傷はものきずも治っている。


「ガザマン、マウィン、マイティ! 今からお前さんたちを神殿に転送するぞ!

 これから俺がやることを、っちゃなマミンちゃんには見せたくねぇんでな!」


上様うえさまです……か?」


「ああ、そうだ、ガザマン。挨拶あいさつがまだだったか? そいつぁすまなかったなぁ。

 俺がマルルカたちの夫で、この世の神だ。 よろしくな!

 それじゃぁ、神殿に転送するぞ? いいな?」


「「「は、はいっ!」」」


 ガザマン、マウィン、マミン、マイティをターゲット指定して……


「それじゃぁ、また後でな! ……転送!」


 さぁ~、これで思いっきりやれるっ!


 クソ野郎どもに向かって、すっごく悪い顔をしながら "ニヤリ" と笑ってやった!

 その瞬間、クソ野郎どもの発汗量はっかんりょう急激きゅうげきに増えた!


 "恐怖のバロメーター" が急激に上がったんだろう。


 縮地しゅくちって"魔法"?が気になったので、クソ野郎どもは威圧いあつしたままにしておいて、ユリコたちにたずねることにした。


「なぁ、ハニーたち。 さっき先生ってヤツが使った『縮地しゅくち』って魔法はなんだ?」

「ああ、あれね?

 う~ん、なんて言うのかなぁ……ショートレンジの転移っていうのかな?

 そんな感じの魔法よ。 実はねぇ、私もできるんだ! うふふふふっ!」


「え!? ユリコ、すげぇな! どうやるんだ!?」


「教えて欲しぃい?」

「ああ、頼む」


 まぁ、別にユリコに教えてもらわなくても、俺には全知師ぜんちしがついているからなぁ。

 やり方はすぐに分かるんだが……

 ただなんとなくだが、ユリコと話をしたかったんだよなぁ。


仕方しかたないなぁ……いいわよ。 教えてあげるね。あのね……」


 ユリコは嬉しそうだ。


 嬉しそうにどうイメージすればできるかを教えてくれる。


「……って、感じかな?

 つまりね、行きたいところをじっと見つめて、そこに移動した自分の姿をイメージすればできると思うわ。 ね、ちょっとやってみて?」


「ああ。分かった。……縮地しゅくち!」


「やったぁ! さすがはダーリンですぅ!」「うん!うん!」

「さすがシンね! うふふふふ」


「ユリコの教え方がうまかったからな。

 なるほどな。この縮地ってのは、なかなか便利だな?

 結構使いどころがありそうだなぁ! ありがとうな、ユリコ!」


「うふふ。どういたしまして」


「そうだっ! お前さんさえ よければだが、後で他のハニーたちにも教えてやってくんねぇかな? どうだろう?」


 引き受けてくれないかなぁ……


 きっと、ユリコも俺たちのもとに戻ってきたいと思っているはずだ。

 これを俺たちのもとへ戻ってくるための"きっかけ"にしてくれると嬉しいんだが。


「勇者様! 是非ぜひ、お願いします!」

「ユリコさん、お願い! 他のみんなもきっと教えて欲しいと思います!」


「え……ええ、いいわよ!」

「「やったぁーーっ!」」


 マルルカとマイミィは大喜びだ!


『ふたりとも! ナイスフォローだ!』

『『えへへぇ~』』


『チョロい……ユリコさんって、案外あんがいチョロいですね?』

『は・は・は……』


 マイミィだ。 マイミィが念話ねんわで、"ユリコはチョロい" と言ったのだ。

 俺は表情に出ないように念話で苦笑にがわらいするイメージを送っておいた……


「ん? あなたたち? なんか言った?」

「「い、いえ! な、なにも!」」


「な~んか、あやしいわねぇ……」

「き、気のせいですよ、勇者様」「そ、そうですよぉ、ユリコさん」



 ◇◇◇◇◇◇◆



「さてと……てめぇら! てめぇらは、この子たちが神であるこの俺の嫁だと知った上で、狼藉ろうぜきはたらこうとしたんだよなぁ? 当然、覚悟かくごはできてるんだよなぁ?」


 クソ野郎ども全員が、俺の威圧いあつにより身動みうごきも、言葉をはっすることもできないが、小刻こきざみみにふるえている。 どうやら恐怖きょうふを感じているようだ。


四肢粉砕ししふんさい!」


 "うぎゃあああぁぁぁぁぁぁーーっ!"


 全員だ! 食堂の中でこしをぬかしているヤツらもみせそとで同じようにこしをぬかしているヤツらも、すべてまとめて『四肢粉砕ししふんさい』を喰らわせてやった!


 クソ野郎どもの絶叫ぜっきょうがものすごいためなのか、神都しんとそと、遠く離れた森のほうまで絶叫がとどいたようで、その森がある方角ほうがくから、狼型魔獣おおかみがたまじゅうおぼしき遠吠とおぼえが聞こえてくる。 森まで聞こえてきた絶叫ぜっきょう反応はんのうしているようだ。


「修復!」


 狼型魔獣おおかみがたまじゅう遠吠とおぼえに、神都しんとたみがおびえそうだったので、えず修復しゅうふくしてやったのだ。


 クソ野郎どもは『助かった!』というような安堵あんどの表情を浮かべている?


「た、助かったぁ……」


 クソ野郎たちのボスも、制裁せいさいはこれでわりだとでも思っているんだろうか?

 助かっただとぉ~? ふっふっふっ! 世の中そんなにあまくはないぜ!


 なんせ、俺の大事だいじよめたちを手込てごめにしようとしたんだからなぁ……

 おのれおろかさを、た~っぷりと、思い知らせてやるぜ! ふっふっふっ……



 ◇◇◇◇◇◆◇



 その、ボスをのぞ手下てしたどもは、すべてサンドワームくんたちの夕食になった。


 マウィンに懸想けそうしたクソ野郎どものボスは、ヤツをろうから出した"内通者ないつうしゃ"の名前をかせてから、手下どもが待つ……といっても、もう手下てしたどもは、サンドワームくんたちの腹の中だろうが……サンドワームのへと転送してやった。


 あー…ボスなんだが、そのう……なんだ。 多分ものすごく後悔こうかいしてたと思う。

 実はマルルカとマイミィがザシャアから聞いたと言ってアレをやったんだよ!


性犯罪者せいはんざいしゃには去勢きょせいが必要よ!」


 なんと! そう言いながらヤツの股間こかんを思いっきりんづけていたんだ!

(→第0077話、第0078話参照。)


 ふたりは、うまくみつぶせなかったからと、ふたりともが、満足まんぞくいく踏みつぶし方ができるまで、修復をかえしながらおこなっていた。


 俺は何度、股間こかんを押させて身体からだを "くの字" にげたくなったことか……


 恐ろしいことにふたりは、高くジャンプしてから股間こかんに着地?するもんだから……

 彼女たちが満足したというのでヤツの状態を確認しようと見てみたら、落下の衝撃なのか、ヤツの股間こかんは "とんでもないこと" になっていたのである。


 当然、そんな状態だからヤツは意識を失っていた。


 真っ青な顔をして白目しろめをむき、口からはあわいていた。

 あの股間こかんの状態で死んでないのが不思議なくらいだ。


 一瞬、俺の股間こかんがこうされたら……との考えが頭をよぎって、無意識むいしきのうちに身体をブルブルッとふるわせてしまったのは、まぁ、ご愛敬あいきょうって事で……ふぅ~。


 ちょっとだけヤツに同情したが、ヤツの股間こかんは修復することなく、サンドワームの巣にそのままほうんでやったぜ!



 あ、ボスも手下もすべて "輪廻転生りんねてんしょうシステム" の ブラックリスト に登録済みだ!

 当然である!



 ユリコだけは股間こかんつぶしには参加しなかった。その理由だが……


「シン以外、たとえズボンの上からでも、絶対にさわりたくないわ!」


 との事らしい……ん? 俺のは…いいのか? ひょっとして…触りたい??


 最近、ちょっとユリコの性格が変わってきているような気がするが……

 気のせいだろうか?


 あ、当然だが、ヤツらに内通ないつうしていた衛兵えいへいたちも一緒いっしょに転送してやったぜ!

 神都しんとまも衛兵えいへいの中に、なんと8めいもの内通者ないつうしゃがいやがった!


 これは看過かんかできない!


 早急さっきゅう神都しんと行政ぎょうせいトップであるゼヴリン・マーロウとソリテアと相談して対策をこうじないといけないな。 困ったもんだ……。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 食堂『黄色いハンカチ』の浄化と修復をしていると、ユリコが話しかけてきた。

 なんかユリコは もじもじ している?


「あのさぁ、シン。 さっき、私をむかえに来たって言ってなかった?」

「おお、そうそう! そうだった! 俺はお前さんをむかえに来たんだよ!」


 ユリコは『思い出してくれてよかった!』というような、"ホッ"としたような顔をしている?


 あ、この子が期待しているのは……

 どうやら俺がこれから言おうとしていることとは、ちょっと違うようだな、多分?


 まわしには気をつけないといけないな。


 鈍感どんかんなこの俺も、最近さいきんは、ほんのちょっとだけ女心ってヤツが分かるようになってきた……と、思う! 自信はないけど……。


「あのな? 俺にはお前さんが必要なんだよ。

 他のハニーたちを愛する気持ちは変えられねぇというのはこのまえったとおりだ。

 でもさぁ……、う~ん……ずうずうしい願いだって事は承知しょうちの上で言うんだが……

 どうだろう? 俺のもとに戻ってきては くんねぇだろうか? 頼む!

 俺のそばにいて、この俺をささえてくんねぇか?」


 これは本心ほんしんだ。

 いきなり本題ほんだいはいまえに、ユリコとの関係かんけい修復しゅうふくしておいた方がよいと考えた。


 今度話がこじれてしまったら、ふたりの関係は、修復不可能しゅうふくふかのうなものになってしまいかねないので、まわしには気をつけて、慎重しんちょうに話を進める……。



 ユリコには、俺の嫁になって欲しいとずっと思っていて……

 その話をしたいのはやまやまなのだが、こと慎重しんちょうはこぶべきだと考えている。


 だから、今回はその話をしに来たのではない。

 俺の嫁になってくれと言いに来たのではないのだ。


 ここに来た当初の目的は2つある。


 実は今、宇宙ステーションでは『たちばなユリコ』を転生させて、後は基本システムを起動するだけの状態にした上で、管理助手たちを待機たいきさせている。


 『妹ができるようで楽しみだ』と言っていたユリコには、転生した『橘ユリコ』のこの世界での "覚醒かくせい" の場面に立ち会わせてやりたいと思ったから呼びに来たのだ。


 『橘ユリコ』の起動を行わずに、ここに来たのはそのためである。


 これがひとつ目の目的である。


 ただしそれには…覚醒場面に立ち会ってもらうためには、ある条件を勇者ユリコに満たしてもらわないといけないのだが……


 その条件に関係するのが、もうひとつのほうの目的である。 それは……

 勇者ユリコに、俺の管理助手になってくれるように要請ようせいすることである。


 『橘ユリコ』の覚醒場面に、勇者ユリコが立ち会えるための条件は、勇者ユリコが俺の管理助手になることなのだ。


 なぜなら、宇宙ステーションには一般人をれることができない規則きそくになっているからだ。

 たとえ俺の嫁であっても、"管理助手"でなければ宇宙ステーションに入れることはゆるされないのである。


 勇者ユリコに『橘ユリコ』を覚醒かくせいさせる宇宙ステーションに来てもらうためには、管理助手になってもらう必要があるというわけだ。


 まぁ、救難救助きゅうなんきゅうじょ等の緊急きんきゅうの場合や強権きょうけん発動はつどうすれば、例外的に管理者以外でも宇宙ステーションにれることは可能なんだが……


 今はえずそれはけたいと思っている。


 なお、今回転生させる『橘ユリコ』も、勇者ユリコとともに、俺の管理助手になってもらいたいと考えている。

 二人には嫁になってくれるかどうかに かかわらず 管理助手になってもらいたい。


 だから、勇者ユリコにプロポーズするために、ここに来たというわけではない。




 ユリコはほおめながら うつむき加減かげん、なにやら考えているようだ。

 すっと顔を上げ、俺の顔をぐに見ながらくちを開いた。


「分かったわ。シン。 私はあなたのそばであなたをささえます。

 いいえ、私のほうこそ、あなたのそばにいさせて下さい。 あなたのそばにいたいです」


「ユリコ……ありがとう。嬉しいぜ。 あらためて、今後ともよろしくな」

「ええ。 こちらこそ、よろしくね。 うふふ」


「ま、マルルカさん! ユリコさんが変です! めんどうくさくないですよ!?」

「ほ、ほんとね! こ、こんな素直すなおな勇者様は見たことがありませんよ」


「ああ……嵐でも来るんじゃないかなぁ? ぶ、不気味ぶきみですよ……」

「魔物あふれでも起こるんじゃないでしょうか? 心配です」


「マルルカ! マイミィ! あのねぇ……」


「あはは。冗談ですよぉ~、冗談! えへへ」

「そうですよ、勇者様。 よかったですね? ついにお嫁さんですね?」


「え? まだ違うわよ! し、シンのそばで彼をささえるだけよ!」


「ああ。そうだよ、ハニーたち。 ユリコには管理助手になってもらうんだから」


 ユリコも、そのつもりで発言はつげんしたものだと ばかり 思っていたんだが……

 ユリコは愕然がくぜんとする!?


「え!? ぷ、プロポーズじゃなかったの!? え? ええーーっ!?」


「え? だってお前さん、ハーレムメンバーにはなりたくないんだろう?

 俺はお前さんに嫁になって欲しいんだけど……お前さんはいやなんだろう?」


「ほらぁ~、ユリコさん。

 めんどうくさいことを言ってるからゴタゴタしちゃうんですよぉ~」


「そうですよ、勇者様!

 嫁になりたいのかなりたくないのか、ハッキリしないとダメなんですよ!?

 ビシッとして下さい、ビシッと!」


「……なりたい……でも、ハーレムメンバーは嫌なの……どうしたらいいの……」


「そんなの気持ちの問題でどうにでもなるんじゃないですかぁ? ユリコさん?

 私はハーレムなんて気にしない! って、思い込めばいいじゃないですかぁ?」


「うう……それができれば苦労しないわよぉ……ぐっすん…できないのよぉ……」


「勇者様! ダーリンとこれからもずっと一緒いっしょにいたいんですよね?」

「うん」


「ユリコさんはダーリンのことを愛しているんですよね?」

「うん……もちろん愛しているっ!

 それも前世ぜんせからずっと愛している……ような気がする……んだけど……」


「じゃぁ、なにをまよう必要があるんですかぁ!?

 ダーリンも愛しているんですからなにも問題はないんじゃないですかぁ!?

 違いますかぁ!? ユリコさん!」


「そうですよ、勇者様!

 まずはお嫁さんになってから、後のことは考えたらどうでしょうか?」


「うん。そうしたいのよ、そうしたいの! でも……

 なぜなのかは私にも分からないんだけどね、そう思うと必ず、ハーレムメンバーはいやって気持ちが出てきちゃうの……ぐっすん。

 私…どうしたらいいのよぉ……ううう……」


 ああ……クソッ! 地球の元日本担当者めっ!

 ユリコにこんな苦悩くのうを味わわせるようなことをしやがって!


 必ず見つけてぶっ殺す!


「ユリコ……そうおもめるな。 今は嫁にならなくていいから……な?

 まずは俺の助手として、俺のそばで俺をささえてくんねぇかな?」


「うん。 私……あなたのもとを飛び出して……あなたから離れてみて分かったの。

 私、あなたのことが忘れられないの。

 こうしてすぐそばにいても、遠く離れていたときも……ずっとあなたのことが頭から離れない……。

 私にはあなたが必要だと分かったの。 痛感つうかんしたの。 あなたと共にあゆみたいわ!

 ああ……あなたのそばにずっといたい……」


 これほどおもいのたけを伝えてくるユリコは初めてだ。

 そう、前世ぜんせでもなかったような気がする。


 まぁ、前世ぜんせでの俺とユリコは所謂いわゆるラブラブだったんで、その必要がなかったのかも知れないんだが……


 ん? んん!? あ!? ああーーっ!?

 "マルルカ"から以前いぜんいたユリコからの伝言 "納豆なっとうキング" の意味がいまかった!


 そうか、そうだったんだ! Nat King Cole の Unforgettable の歌詞がユリコの気持ちそのものをあらわしているって意味だったのかっ!


「俺もだ。 俺も君とずっと一緒いっしょにいたい……いつもそう思っている。

 あのさぁ、ユリコ。 恋人っていうのもだめなのかい? 抵抗ていこう、ある?」


「うーん……あれ? 不思議! お嫁さんの時と違って拒否感きょひかんがないわ!?」


 ふと、言葉が表す"意味"に関係なく、特定の言葉に反応するようにされているかも知れないと思ったから、ダメもとで聞いてみたんだが……これは興味深きょうみぶかいな?


「ならば……ユリコさん! 俺の恋人になって下さい! ……どう?」

「はい! あ! やっぱり抵抗ていこうがないわ! ああ……」


「それじゃぁ、俺とユリコは永遠の恋人ってことで! どうだ?

 永遠の恋人ってのに、抵抗ていこうを感じるか?」


「いいえ! 大丈夫! ああ、シン……シンっ!」


「そうかっ! それじゃぁ、俺たちは前世ぜんせも、今生こんじょうも、そして来世らいせも! ずっと!

 ……ずーっと! 恋人だ! なんかキザったらしい表現なんだけど……いいよな?

 俺たちは永遠の恋人ということで、まずはスタートを切ろうぜ!」


「はい! よろしくね、シン!」

「ああ! よろしく! ハニー!」


 ユリコは涙をポロポロとこぼしている……

 だが、そのユリコには 美しく きよらかな 笑顔えがおはないている!


 ユリコは涙をぬぐい……

 にこっ! と見る者すべてをとりこにするような、かわいらしい笑顔を浮かべて……


「うふふ。 不思議。恋人同士だと思うと、ハニーと呼ばれても抵抗ていこうがないの。

 ああ……嬉しいわ、ダーリン! ね!? やっぱりダーリンと素直すなおに呼べるわ!

 今まであんなに感じていた忌避感きひかんかない!

 嬉しいって感情だけで、拒否感きょひかんが全くないのっ! ああ……最高! ダーリン!」


 どうしてなのかはサッパリ分からない。


 ユリコの魂データを改竄かいざんしやがった『 地球の元日本担当助手の部下 』が仕込しこんだからくり には、なにかバグがあるのかも知れない。

(→第0051話前半参照。)


 つまだろうが、永遠えいえん恋人こいびとだろうが……その意味するところに"おおきな"なんてないように思えるんだがなぁ……


 ま、えずは よかった …… ん・だよ・な?

 ちょっと心配なのは、男女だんじょ関係かんけいになろうとした時に、再びユリコが忌避感きひかんおぼえないだろうかということだなぁ……。


「うれしい! ダーリン! 大好き!」

「ああ! ハニー! 俺もだ! 俺も大好きだぜっ!

 よかったっ! 本当によかったな! ハニー!」


 俺とユリコはって喜び合う……


 しばらくして、身体を離そうとして、ふとユリコの顔を見た瞬間である!

 俺はどうしてもユリコから視線をはずせなくなってしまった!


 なにか得体えたいれない強い引力いんりょくを感じる……どうやらユリコの方も同じらしい。


 そのまましばらく見つめ合っていたのだが、あらがえない衝動がこる……

 いとしい。 ユリコの表情からも、俺と同じ思いが読み取れる……。


 ふたりは必然的であるかのごとく互いのくちびるを重ねたのであった。


「「あー。 ん、ぅんっ! ダ~リンっ!?」」

「「はっ! ……!?」」


 マルルカとマイミィは、ずっと気をかせてくれていたようだ。


 目の前で展開される、砂糖をきたくなるような、あま~い光景をしばらくじっとがまんしてくれていたんだが、とうとう我慢がまん限界げんかいえたようである。


 マルルカとマイミィは、ほぼ同時に咳払せきばらいをしてから、俺を呼んだ。


 それにより、俺とユリコは、ようやくふたりだけの あま~い世界 から帰還きかんした!

 我に返ったのだ! は、恥ずかしい……


 ん? マルルカとマイミィが ジト目 だ!?


 と、当然だよな……うん。


 ここにはいつも指摘してくれる ウェルリ も ジー もいないがどうすべきなのかはちゃんと俺には分かってるぜ!


「マルルカ、マイミィ。ありがとうな。

 お前さんたちの御蔭おかげで、地球の元日本担当者が仕掛しかけたいやがらせを回避かいひすることができるかも知んねぇ! ああ……ハニーたち、本当にありがとう!」


 マルルカ、マイミィとも、順にきしめ合い、キスをしたのである! 当然だ!?



 あ゛!? 油断ゆだんした! 俺たちだけだから、平気だと思っていたが……

 そとくらくて食堂しょくどうなかあかるい!? うわっ!? そとからは丸見まるみえだ!


 やっちまった! 外には見物人けんぶつにんが多くいる!? 見世物みせもの状態だ!


 羨望せんぼう嫉妬しっと殺意さついまで!?

 見物人たちの色んな感情がこもった視線が4人には向けられていたのだった!


 とほほ……


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