第0070話 ランクS冒険者の実態
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!嫌だぁっ!死ぬのは嫌だぁっ!ぎゃああああっ!」
「大丈夫だ!落ち着け!もう大丈夫だ!死にはしないっ!落ち着くんだ!」
女性は死ぬ直前の記憶が
『ダーリン、大丈夫ですか?女性の
女性の絶叫を聞いてシェリーが心配になったのか念話をしてきたのだ。
『ああ。大丈夫だ、シェリー。問題ねぇ。
ロイヤル・ミノタウロスに殺された女性の遺体を見つけたんでな、
『ああ、なるほど。蘇生直後で混乱しているというわけですね?分かりました。
他のみんなも心配していて、私が代表して聞くことになりましたものですから、お
『いや。心配してくれてありがとうな。みんなにもそう伝えておいてくれ』
『承知しました。
それで、私たちはまだそちらへ行かない方がよろしいでしょうか?』
『そうだな……この女性がどうしてここで死んだのかを確認して、この部屋に何も問題がないと分かったらお前さんたちを呼び寄せようと思っている。
だから、もうちょっとだけ待っていてくれねぇかな』
『はい。分かりました。みんなにもそう伝えます』
蘇生させた女性がなかなか落ち着きを取り戻さない……
女性は
しかたがないので、彼女の
「しーーーっ。落ち着いて。もう大丈夫だから。もう誰もお前さんを殺そうとしていないから安心おし。大丈夫だよ。そう、大丈夫、大丈夫……」
「ううう……うわぁーーーん!」
彼女は絶叫をやめ、周りの状況を確認したかと思うと安心したのか大声を上げて泣き出したのである。彼女は抱き起こされたような状態のまま俺の胸に顔を
「もう大丈夫だよ。落ち着いて。な?」
「うう……」
俺にしがみついて
「俺はシンだ。冒険者をしている。お前さんは?」
「あたしはジェニファ。同じく冒険者……でも、あたしは死んだんじゃぁ……」
殺された自覚はあるようだな。では、
「ああ。そこのロングソードの下に
「え?あなたは死者を蘇生させることができるの?」
「これを見ろ。今は世を
「えっ!?あ……そ、その
彼女はしがみついていた俺の胸からものすごい勢いで離れて
「ああ……よい!よい!俺は
「は、はいっ!わ、分かりまひた……わ、分かりました!」
ははは。かわいいな、今
「それでどうだい?どこか具合が悪ぃところはねぇか?大丈夫か?」
「は、はっ!だ、大丈夫ですっ!た、助けていただきありがとうございます!」
そんなに緊張しなくても……この子は根が純情なんだろうなぁ。
「ああ、いいってことよ。そうか。具合が悪くねぇならよかったぜ。
ところで……ここで一体何があった?聞かせてくんねぇかな?」
「はい!実は……」
彼女、ジェニファの話によると……
彼女は『神の代行者』という名前の、ランクSの冒険者ばかり7人で構成されたパーティーのメンバーであるらしい。
彼女自身はランクSの魔導剣士だった。魔導剣士というのは魔法と剣との両方に
「
「す、すす、すみません。上様の許可も得ず、勝手にこのような名前を……」
「まあ、人々のためになることをしているんなら、俺は文句は言わねぇが……」
「もしもお前さんたちが人々を苦しめるようなことをしているんだったら……
全員ぶっ殺すぜ? いいな? その点は大丈夫だよなぁ?」
「ひぃっ!だ、大丈夫です!……だと思います……」
威圧を解く。
ジェニファたちは俺たちと同じ、神都の冒険者ギルドの
ここに来るまでに魔物とほとんど
「俺たちがここに来るまでに各層の魔物はほどんど
「そうだったんですか?
この第7階層のボス部屋で、彼女たちはロイヤル・ミノタウロスたちと、実に、十数時間にわたり死闘を
彼女自身は善戦していたのだが、回復役の女性魔導士の魔力が尽きてふらふらになっているのを見て助けようとしたことが
その女性魔導士のもとへと
「他のみんなはどうなったのでしょうか?」
彼女がそういった時、ロイヤル・ミノタウロスたちが復活してきた!
「きゃぁぁっ!」
ジェニファは恐怖に顔を
「大丈夫だよ。俺がついているからな。ウインドカッター×10!」
シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュンッ!
ブッブブブブブブブブブシュンッ!
ボッボボボボボボボボボンッ!
最後は首を切断されて
「す、す…ごい……。こ、これが
「俺の代行者の一員が、こんなことくれぇで驚いてちゃぁダメだぜ。ははは」
「あ・は・は・は・は……。穴があったら入りたいですぅ……」
しかし、ロイヤル・ミノタウロスが復活するまでのインターバルがちょっと長くなっているようだな?バジリドゥがこの部屋の中にいないからなんだろうか?
「えーっと?なんだっけ?……ああ、そうだったな。お前さんたちの仲間のことは分からねぇなぁ。ここにあった遺体はお前さんのものだけだったから、多分生きて下の階層へと向かったんじゃねぇのかなぁ?」
調べられないことはないが、
「そうですか……」
彼女の表情からは心の内が読み取れない。複雑な表情をしている。
「まぁ、お前さんと同じように
「そうですか。なるほど、綺麗な魂です…か……」
彼女の表情は特に変わらない?
彼女の
「ああ……。ところで、お前さん魔導剣士という割には、あまり上等とは言えねぇ剣を使っているよな?あのお前さんの
「いえ。あれは仲間の剣士ダダルの剣ですね……あたしの剣は彼が代わりに持って行ったようですね。 父の
ジェニファの表情が
「ん?お前さんは生き返ったんだから、後から返してもらえばいいじゃねぇか?
仲間なら嫌だとは言うまい。そんなに落ち込まなくてもいいじゃねぇのか?」
「彼の性格からすると……無理かも知れません。代わりにあたしの身体を要求してくるかも知れません。あるいは、高額な金品かも……」
女性の身体を要求?はぁっ!?そんなヤツは仲間とは言えないよなぁ……。
俺の
「そんなヤツは仲間じゃねぇなっ! 単なるクソ野郎じゃねぇかよ!
よし、分かった!親父さんの形見の剣は俺が必ず取り返してやる!安心しろ!
だからさぁ、そんな暗い顔をすんなよ。いいな!?」
「はい。ありがとうございます」
ジェニファの表情が
この先に同行させるにしてもあの剣じゃだめだ。使い物にならないだろう。
そのロングソードには
「ほれ!取り敢えずこれをやるから使え!」
生成した剣を彼女に与えて、シールドの発生方法について説明しておいた。
彼女は感激している……
「あ、あああ、ありがとうございますっ!か、
彼女は声を
「他の装備類は?……全部持って行かれちまったようだな?」
「はい。死者には必要ありませんからねぇ……。
あたしが身に付けていたもの以外は全部持って行かれたようです」
なるほどな。
となると、ひょっとしたら彼女と一緒に装備もズタズタボロボロに切り刻まれていなければ、
「生き返った姿を見せりゃぁ、返してくれるんじゃねぇのか?」
「まず無理でしょう。あたしたちの間には友情も愛情もありませんから……。
クエストをこなすのに
あたしには死者から物を
やはりこの子は善良な人だ。こういった会話の
「お前さんが助けようとした回復役の女性魔導士もそんな感じなのか?」
「はい。彼女が逆の立場ならあたしを絶対に助けようとはしなかったでしょうし、あたしの装備を真っ先に
冒険者パーティーっていうのは、厚い友情と深い
「そんなヤツらとよくパーティーを
「ランクSの冒険者の絶対数が少ないので
下位ランクの者たちと組むのもなかなか骨が折れますし……仕方ないのです」
「なんか、そんな
その気があるんだったら、試験を受けられるようにできるんだが?」
「え?あたしなんかが、よろしいのですか?」
「あ、もちろん、試験に通らねぇとダメなんだがな。
だが、お前さんはランクS冒険者だし、魂も
「なりたいです!
でも、失礼ですが……お目にかかったばかりで、あたしのことは何もご存じないというのに、このような
本当にあたしなんかが神殿騎士試験を受けてもよろしいのですか?」
こういうことを聞くことができるだけで十分に受験資格はある。
よき人物であることが分かるってもんだ。
「ああ。もちろん。
それに……あったばかりって言うけど、これでも一応神だからなぁ。お前さんがどんな人間なのかは見りゃ分かるんだぜ。ははは」
「し、失礼しました!も、申し訳ございません!」
「お前さんのような有能な人物をスカウトできるとは!
期待しているぜ!」
「はいっ!がんばりますっ!」
こうして新たな神殿騎士候補を
彼女は俺に
ロイヤル・ミノタウロスごときに手こずるようなレベルでは、この先を進むには弱すぎる。俺たちの足手まといにしかならないだろう。
ということで、彼女を説得して神都のバルバラのもとへと送り届けたのである。
神都へと転送すると言ったときに、彼女の表情が少し
気になって聞いてみると、彼女は剣のことを気にしていた。そう、父親の
だから、ちゃんとそのことを俺は覚えていることを告げ、そして、約束した通り俺が責任を持って必ず
彼女の顔が晴れやかな笑顔になったことは言うまでもない。
あ、そうそう、彼女がいないのにどんな剣を取り戻したらいいのか分からないのではないかと思うかも知れないが……
そうだ。ご
魂の履歴を調べられるというのは本当に便利だ。
◇◇◇◇◇◇◇
ロイヤル・ミノタウロス復活のインターバルはやはり長くなっていた。おおよそ20分といったところだろうか……。
このボス部屋のボスだったバジリドゥがこの場にいてもそれは変わらないので、彼女が不在だったからインターバルが伸びていたというわけでもなさそうだ。
以前のように5分
とにかくこの先に進む前に、新しく仲間になったリガーチャ、スサク、リクラ、トフルをある程度は戦えるようになるまで
ということで、ハニーたちにはロイヤル・ミノタウロスを
ゴーレムのタイプを神殿騎士風のものにした理由は、ハニーたちに魔物相手だけではなく、人を相手にする戦い方も学んでもらうためだ。
人じゃないけど、神殿騎士風ゴーレムはそれっぽく攻撃してくるように調整してある。
神殿騎士風ゴーレムは見た目も人風だしな、
戦闘指導はシェリー、ノアハ、ザシャア、
なお、指導者4人には、ハニーたちを数名のグループに分けて、
俺はこの後ちょっとだけ
このボス部屋に、新たな敵が現れるというような
オークドゥは自身の
だから、彼の戦闘訓練用に
ハニーたちとは少し離れた場所で別メニューをこなしてもらう。
新人ハニーたちには今夜の夕食までにはなんとかそれなりに形になってくれるといいのだがなぁ……。
色々あってダンジョン攻略も予想以上に時間がかかってしまっている。そろそろ神都にいるキャルたち子供たちやハニーたちのことが恋しくなってきた。
獣人族の嫁を決めに行かねばならないし……
◇◇◇◇◇◇◆
ハニーたちの練習相手となるゴーレムを作っていてふと思いついたことがある。
俺がちょっとだけ獣人族国家ニラモリアへ行くことにしたのは、その思いつきが原因だ。
ゴーレムを1万体ほど生成して獣人国家ニラモリアに提供し、シオン教徒どもの攻撃から守るための兵士にすることを思いついたのだ。
獣人族国家ニラモリアへ攻め込もうとしているシオン教徒たちに対抗するためにミニヨン1万体をシオリに
獣人族担当管理助手のシノには現在、獣人たちの他には使える
それで……シノにも獣人たち以外で自由にできる戦力を与えておこうと考えたのである。そう、それがゴーレム1万体だ。
ハニーたちの練習相手に神殿騎士風のゴーレムを作っている中、そのついでに、獣人族国家防衛用の戦力として1万体の神殿騎士風ゴーレムも生成しておいた。
これから俺が直接シノのもとへ
◇◇◇◇◇◆◇
実は、獣人族国家ニラモリアの他にも獣人族国家がある。
その名は『ワッドランド』。ニラモリアの東に位置する国だ。
ニラモリアは色々な種族の獣人たちが共存しているが……
一方、ワッドランドの方は、サル族の皇帝シザルによって支配されているサル族一種族による
サル族の見た目は、ほぼ人族と変わらない。
人族よりもちょっとだけ大きめの耳をしており、シッポが生えていることくらいしか違いはない。彼等がシッポを隠すと人族とは見分けがつかないだろう。
身体能力の方は人族よりも数十倍
ただ、魔力量はほぼゼロである者がほとんどで、魔法使いはほとんどいないし、いたとしても初級魔法が使える程度である。その点は人族に
ニラモリアとワッドランドとの
ニラモリアは国境に
◇◇◇◇◇◆◆
「お父ちゃん、だめじゃん。はい、
「おお、テナー!助かるぜ!いやぁ~、
「ホントそそっかしいんだからぁ。『今度からは気をつけてね』ってお母ちゃんも言ってたよ」
「あはは。悪ぃ悪ぃ」
この場所はニラモリアとワッドランドとの国境に設けられた、ニラモリア側の
ここの警備隊員であるアルトのもとへ、家を出るときに忘れてしまった着替えを娘のテナーが届けに来たようだ。
アルトもテナーもオオカミ族の獣人だ。
「
突然、ワッドランドの方を
ワッドランド軍がこの関へと押し寄せてきているのだ!その数はおおよそ3千!
「お、お父ちゃん、
敵襲を知らせる声は、
「ははは。大丈夫さ!この
「うん。分かった。じゃあ、帰るね。お父ちゃん、気をつけてね」
「ああ。もちろん。もうすぐお前の弟か妹も生まれるんだ。死ぬわけにはいかねぇからな。ははは」
この
ワッドランド軍には魔導士がほとんどおらず、いたとしても威力の低い攻撃魔法しか使えない者たちだけだった。
それゆえ、ワッドランド軍による攻撃は
ワッドランド軍には、飛行可能な魔物を招喚することができるような魔法使いは一人もいない。それどころか、招喚魔法を使える者すらいない……はずであった。
テナーを家に帰すためにアルトはテナーを連れて
兵舎の入り口の
なんと!関の上空には、黒いローブを
あたりは火の海である。この関、フォスジャルボが落ちるのも時間の問題だ!
予期せぬ敵の攻撃に関を守る兵士たちはパニック状態に
「テナー。お前は今すぐ村へ帰れ!
このことをみんなに伝えてすぐに
「お父ちゃんは?お父ちゃんも逃げようよぉ~」
「俺はここで敵を食い止めなきゃならん。だから、お前だけ逃げるんだいいな!」
「でも……」
「さあっ!行け!お母ちゃんを頼んだぞ!……ほらっ!行くんだ!」
「分かった!お父ちゃん、死なないで!絶対に、死なないでね!」
「ああ。さあ行け!急ぐんだ!」
テナーは
テナーは
一所懸命走っているのに、まるで自分が亀にでもなったかのように感じる。
ちっとも先に進めないような感じがしていてもどかしい………
途中でフォスジャルボの方を振り返ると、立ち
「レッサードラゴン!……きゃぁーっ!」
テナーの叫び声が聞こえたのか、レッサードラゴンはテナーを見つける。
そして、急降下し、彼女の
テナーは恐怖した!身体が思うように動かない!
身体が
「ああ……神様!助けてっ!殺されちゃうよぉ~。助けてっ!神様!!」
レッサードラゴンに
「ぎゃははっ!
どうやらレッサードラゴンの背に
「ちがうもん!シオンなんて神様はいないもん!神様!助けて!お願いです!」
「クソ
テナーは死を覚悟し、目を
「ああ……神様、もうダメです。どうか天国に行けますように……」
レッサードラゴンの口からファイヤーボールが放たれたっ!
もはや少女の命は
「へっ!?な、なにっ!?ファイヤーボールを
「よう、お
テナーがゆっくりと目を開けるとそこにはひとりの男が立っていた。
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