第0064話 震災と復興

 阿鼻あび叫喚きょうかん……まさに地獄だ……。


 目の前の光景に絶句ぜっくする。

 ダンジョンから南へおおよそ100kmの位置にある町、ボラコヴィアは地震によって壊滅かいめつした。

 視界に入っているすべての建物は倒壊とうかいし、そこかしこで火災が発生しているさまはまるで空爆でも受けたかのようだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 数分前に、ダンジョン第7階層のボス部屋で人々から助けを求める強烈な思念が流れ込んできた。……その発信源を特定すると、そのすべてはこの町からだった。


 すぐにミニヨン100体を転送により現地へと派遣し……

 彼等から、そして、衛星から送られてくる町の様子を映したリアルタイム映像を見始めたのだが……。


 なんということだ!町は最早もはや壊滅的状況だ!いたる所で火の手が上がっている!


 まどう者、倒壊とうかいした家屋かおくの前で呆然ぼうぜんとしている者、死者をいだき泣き叫ぶ者……正視せいしするに忍びない惨状さんじょうであった。


 すぐにハニーたちと共に現地へ転移したのだが、この数分の間に火災は広がり、一面が火の海になっていく……黄昏たそがれどきで薄暗いはずなのに、燃えさかる炎は周りが真っ暗闇であるかのように感じさせてしまうほど明るかった。


 こうしている間にも生命体反応がどんどん消えていく……。


 <<全知師!大至急生存者をターゲット指定しろ!


『ボラコヴィアの民よ!俺はこの世界の神だ!お前さんたちを助けるためにここにやって来た!……今からお前さんたちを一瞬で町の外へと移動させる!心の準備をしろ!』


 >>マスター。ターゲット指定が完了しました。


『では、移動させるぞ!転送!』


 生存者、おおよそ2000人が町の外に広がる大草原へと転送されてきた。

 俺たちが転移して来た場所のすぐ近くである。 これで今、町の中には生存者は一人もいない。


「ハニーたちは手分けして負傷者の治療にあたってくれ!妙な奴がまぎれ込んでいる可能性もあるから、2~3人ひと組で対応するように!

 それと今回は取りえず魂の色を見分けず、片っ端から治療してやってくれ!」

 "はいっ!"


 次に生存者を転送したところからはやや離れた場所にシールドを展開しておいてから、町の中に生存しているヒューマノイド種族以外の生命体をすべてターゲット指定してそのシールドの中に転送する……

 これらの生命体を野に転送して放ってしまうと、後から人々が自分たちの大切なペットを捜せなくなるというような不都合が生じる可能性を考えたからだ。


 転送後に、怪我の有無を確かめず、ターゲット指定されているすべての生命体に修復神術を施してやった。取り敢えず、ペットであろうが害獣であろうがすべてに対してだ!


 残念ながら馬や牛といった大型の動物等は生存していなかった。

 地震発生時に逃げてしまったのか、それとも、地震とその後に発生した大規模な火災によって、すべてが命を奪われてしまったようだ。



 火の海と化している町の消火と死者の蘇生そせいをしなくては……


 町の中心部にシールド発生装置を転送し、町全体をおおうシールドを展開させる!

 そして、シールド内を真空状態にして同時に超低温化で町全体を急激に冷やしてやった!これでもう燃焼は起こりえない。当然、大火災は一瞬で鎮火ちんかした!


 <<全知師!蘇生可能な死者をターゲット指定しろ!

 >>命令を受領。

  この震災以前に自然死、事故死等により命を失った者は除外しますか?


 しば思案しあんするがよみがえった死者と相対あいたいした生存者を混乱させないためにも震災前の死者は除外することにする。


 <<ああ。そうしてくれ!

 >>承知。

  ターゲット指定は人族のみにしますか?


 ヒューマノイド種族は対象にすべきだろう……。ペットたちも指定してやりたいところだが、何をもってペットとすべきかの判断ができない。家にくうねずみなども復活対象となってしまうかも知れない……

 命を落としたペットたちとその飼い主たちには気の毒ではあるが、取り敢えずはヒューマノイド種族に限定しておくことにしよう……。


 <<ヒューマノイド種族に限定してくれ!

 >>承知!

  蘇生対象を検索中………………検索完了!

  ターゲット指定を開始します……ターゲット指定完了!


 <<OK!ありがとう、全知師!後はこっちで引き受ける!


 あたりは大分暗くなってきた。


 それで、ミニヨンを1000体ほど起動し、全機にライトを点灯させて、ここにいる全員が明るく照らされるように一定間隔で上空に配置した。

 この一帯を昼間のように明るく照らすようにしたのだ。


 まず、生存者たちが転送されてきた場所から少し離れた場所にテントを設置し、その中に1万人が余裕で横になれる巨大ホールを造った。この中に蘇生前の死者を転送するためだ。


 死者はおおよそ3000人である。だからスペース的にはかなりの余裕がある。


「ターゲットを転送!……そして、修復!」


 ホールに転送されてきた遺体には、思わず目をおおわずにはいられないようなひどい状態のものもあったが修復神術により、すべての遺体が完全な身体に修復される。


 うわっ!遺体はすべて素っ裸だ!

 ほとんどの遺体が火災によって体表たいひょうが黒くなっていたので分からなかったのだ。


「衣服等装着!」


 取り敢えずいつもこういうときに俺が着せる下着や服、ズボン、靴を装着させてやることにした。


 蘇ったときに素っ裸では気の毒だからな!それに俺も目のやり場に困る!


 さてと……魂の色を見分けて蘇生させる者を選別すべきだろうか?

 犯罪奴隷だったジュリンの件もあるしなぁ……魂の色が真っ黒なヤツがいても、本当は心が綺麗きれいだという可能性もある。やはり選別はやめておくか。


「蘇生!」


 たった今まで死んでいた者たちが息を吹き返す……まるで深い眠りから覚めたかのような顔つきで、みんな少々ボーッとしている。


 俺は死者だった者たちへ念話で語りかける……


『みんな聞いてくれっ!俺はこの世界の神だ!

 お前さんたちは地震で死んだんだが、俺が生き返らせた!

 家族や知人が心配な者は多いと思うが、安心してくれ!町の者たちはみんなこのテントの外にいるからなっ! 怪我の治療も終わり、町の者たちは全員が無事だ!

 お前さんたちもこれから外へ出て、町の者たちに合流してくれ!

 だがいいか! 外へ出るときは慌てず、先を争わず、順番に出ろよ!』


 助けを求める念話を送ることができるくらいだから、彼等の俺に対する信仰心はかなり厚いのだろう……。俺の顔を見て眉間みけんの印に気付いたのか、みんなが一斉に飛び起きて俺に向かいひざまずき、こうべれながら聞いている。


 涙を流している者までいるのか!?


 これだけ注目して静かに耳を傾けているんだから、もう念話で話す必要はない。


「みんな。大変な目にったなぁ……。だが俺が来たからにはもう大丈夫だ!

 あっ!ひざまずかなくてもいいぞ!普通にしろ!

 さっきも言ったが町の者たちはみんな外にいる!お前さんたちが死んだものだと思っているだろうから、早く行って元気な顔を見せてやりな!さあ行ってやれ!

 あ、外に出るときは譲り合って、慌てずになっ!」

 "はいっ!上様っ!"


 彼等はテントから出ていく前に、俺に深々と頭を下げて感謝の言葉を言った。

 出口前には長蛇ちょうだの列ができている……みんな俺の言いつけを守って粛粛しゅくしゅくと歩みを進める。


 彼等が外に出始めるとすぐに外から大きな歓声が上がった。



 ◇◇◇◇◇◇◆



「うう……。あ、あのう……上様。いないんです……いないんですぅ……」


 30歳くらいだろうか……ひとりの女性が泣きながら俺に話しかけてきた。


「ん?どうしたんだ?」

「む、娘が見つからないんです。3歳の娘が行方不明なんです。うう……」


 震災で生き別れになった娘とまだ出会えていないらしい。


「落ち着いて。必ず見つけ出してやるから」


 女性から娘の名前を聞き……


 <<全知師。『パムラ』という3歳の女の子を探してくれ。

 >>承知!

  旧ボラコヴィア内を捜索…………該当者無し!該当する死者も無し!

  捜索範囲をボラコヴィア周辺に拡大…………………遺体を発見!

  念のために母親との親子関係についてDNA鑑定しますか?


 <<ああ。そうしてくれ。

 >>承知。

  親子鑑定かんていを行います。

  DNAサンプルを採取さいしゅ…………両者のサンプルを採取完了!

  DNA分析を開始します……完了!親子である確率は98.7%です!

 <<よし!この子で間違いないな!ありがとう全知師。


 町の北門付近で男に守られるかのようにして、その男共々亡くなっていた。

 防壁ぼうへきの一部が崩落ほうらくして、その下敷したじきになってしまったようだ。


 無惨な死に方だ……蘇生させるとはいえ、母親には見せない方がいいだろう。


「娘さんを見つけたぜ!今から助けに行ってくるからな。お前さんはここで待っていてくれ。いいな?」

「わ、私も連れて行って下さい!お願いします!」


「落ち着け!大丈夫。娘さんは無事だから!心配するな!すぐにつれて戻ってくるからここで大人しく待っていろ!

 娘さんを助け出すのに、お前さんがいると足手まといなんだよ。分かるな?」

「は、はい……」


 娘が無事だというのはうそだが……この場合はうそ方便ほうべんというヤツだ。

 元気な姿の娘を連れてくるんだがら、母親からの視点で見れば娘は無事だったということになる!


 へ、屁理屈へりくつじゃないぞ! ろ、論理的に思考するとそうなるだろう?



「ラヴ。ちょっといいかな?」

「はい」


「今からこの女性の娘さんを助けに行ってくるからこの女性のことを頼む」

「承知しました」


 その話を聞いていたシェリーが申し出る……


「ダーリン。護衛として私も同行します!近衛このえ騎士きしの義務として……」

「そうか。分かった。じゃあ、一緒に来てくれ! 俺につかまれ!」


 シェリーが『にこっ』と笑って俺に抱きついてきた!?

 ま、まあ、いいか。


 ハニーたちの痛いような視線を感じながら、シェリーを連れて転移した。



 旧ボラコヴィアの北門に到着した。即座そくざに娘さんと男を押しつぶした5m四方もあるくずれ落ちた防壁を消す。

 防壁は、石でできたブロックをセメントのようなモノで接着しながら積み上げたようなものだった。ここは日本ではない。当然だが積み上げられているブロックの中には鉄筋てっきんなんて上等じょうとう代物しろものは入っていない。


「うっ……」


 防壁に押しつぶされた二人の遺体はひど有様ありさまだった。完全につぶれてしまっていてグチャグチャになってしまっていた。

 それを見たシェリーは思わず戻しそうになっている……。顔は真っ青だ。


「修復!浄化!」


 二人の遺体は身体のダメージも修復されて、怪我けがひとつ無い綺麗な遺体となる。

 男はまるで女の子を守ろうとしたかのようにおおかぶさっててていた。


「この子を守ろうとしたんですね……立派な男性ですね?」

「なるほど。お前さんにはそう見えるのか……。

 まぁ、状況だけを見るとそう思うだろうなぁ。……まず神眼でこの男の魂の色を見てみな。どうだ?」


「ま、まさかっ!?……ま、真っ黒!?」

「ああそうだ。……人は他者の死を見ると気の毒に思う気持ちが勝つのか、なぜか死者を善人ぜんにんだと思いたくなっちまうんだよな……その考えには全く根拠こんきょがねぇっていうのにな」

「そう。シェリーの判断は非論理的。話の内容に論理的根拠のかけらもない」

「ジー、ひどい……」


 うわっ!びっくりした!

 いつの間にかジーが俺のすぐ横にいた。たった今転移して来たようだ。

 俺のことが気になって仕方が無いようだなぁ……ははは。


「え?あたしはシェリーさんと同じっす。娘を守って死んだ父親かと思ったっす。違うんすか?」


 ジーとウェルリはセットで行動しているなぁ……。


「ああ。まず魂の色を見てみろ」

「うわぁ。真っ黒っす!極悪人ごくあくにんじゃないっすか!?」


「そうだ。魂の履歴で確認したらコイツはやみ奴隷商人どれいしょうにんだった。この女の子をさらってこの門から町を出たところを崩れてきた防壁に押しつぶされたらしいな」

「でも、この子をかばっていませんか?」


「いや。シェリー、かばっているんじゃねぇ。この子を抱いて逃げたんで、たまたまこういう状態になっただけのことだ」


 事件や事故で人が死んだと聞くと人は根拠もなくなぜか同情してかわいそうにと思ってしまう。

 だが、その人の死を人々からしまれるような人なんだろうか?逆に早く死んで欲しいと皆が願っていたような人物ではないのか?

 亡くなった人物に関する詳細な情報がないにもかかわらず……何にも知らないのになぜか気の毒に思ってしまう心理……。人間っていうのは不思議な生き物だ。


 日本人だった俺に特有の感情なのかと思ったのだが、エルフ族のシェリーたちも同じような感じ方をしているようだから、ヒューマノイドは皆、同じように感じるのかも知れない。


 男の死体はすぐに烈火れっかで灰も残らないように焼き尽くしてやった。

 もちろん、コイツは極悪人ごくあくにんだから、魂はとっとと"奈落ならくシステム"へと放り込んでやったことは言うまでもない!


 その後、女の子を蘇生させて、母親のもとへと送り届けた。

 母親と娘の再会は感動的で見ていて"うるうる"してしまったぜ!


 念のために、旧ボラコヴィアの崩れ落ちている防壁の周辺で犠牲者ぎせいしゃがいないかを調べてみたが、幸いなことにそういった者はいなかった。


 これで救助活動は終了と言ってもいいだろう。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 <<全知師。科学技術が発達している俺たちでも地震の予知は不可能なのか?

 >>可能です。しかし、今回の地震は予知不可能でした。

  惑星管理システムの地震発生スケジュールにも入っていませんので、何者かによって人為的じんいてきに引き起こされた可能性が高いです。


「なにっ!?」

「どうされましたか?」


 マイミィが俺の声を聞いてたずねた。


「おお!ちょうどよかったぜ!マイミィ、お前さんはこの地震について何か知っていることはねぇか?」

「はい。多分ガギガガ師の仕業しわざだと思います。正確には彼の一番弟子いちばんでしですが。

 第4階層のスケルトンが殲滅せんめつされてしまったので新しく調達しなくてはならないから、そのために町をひとつほろぼすと言っていました。

 重力系魔法で地震を引き起こすことは可能でしょうか?可能だとしたら、恐らく彼等の仕業ですよ」


 ガギガガ師とやらの命令でヤツの一番弟子というヤツがこの地震を引き起こしたらしい。生存者の中にヤツの一番弟子とやらがまぎんでいる可能性がある。


 要注意だな……。

 あのクソ野郎めっ!とんだ置き土産みやげをしてくれたもんだ!


「マイミィ。いつも貴重な情報を教えてくれてありがとうな。ホント助かるぜ!」

「あ。いえいえ。お役に立てたのなら嬉しいです。うふ」


 <<全知師。魔法陣の痕跡こんせきがどこかに残ってねぇか?

 >>サーチします…………………サーチ完了!

  今回の地震を引き起こした活断層かつだんそうの真上にあたる地表に、2つの魔法陣らしき痕跡を発見しました。この2つは活断層をはさむ位置に配置されていたようです。

  これによって重力系魔法が発動された確率は80.2%です。痕跡のため断定は不可能です。

 <<ありがとう、全知師。


 これでほぼ確定だな。シオン教徒の仕業しわざに多分間違いねぇな。

 しかし、俺への信仰心が厚い人々が住んでいる町をねらいやがって……ガギガガのヤツめっ!楽に殺すんじゃなかったな!くそっ!



 ◇◇◇◇◇◆◆



「ああ、上様。私たちはこれからどうすればいいのでしょうか?今夜寝るところもありません。……全財産を無くしてしまいました……もうおしまいです、うう……」


 大きな災害に見舞みまわれて家も家財も……何もかもを無くして、仕事だって失ってしまったのだろう……。今後の生活を考えると絶望しない方が不思議だ。

 時折ときおりおそってくる余震よしんがそういった気持ちに更に拍車はくしゃをかけるのだろうな……。


「大丈夫だ。俺が絶対になんとかしてやるからなっ!心配するな!前向きに考えるようにしろ!マイナス思考はダメだぞ!」


 全町民に念話をつなぐ……


『みんな!これからどう生きていったらいいか不安に思っているかも知れねぇが、大丈夫だ!俺が絶対になんとかしてやるから!心配するな!思いめるなっ!

 今からお前さんたちが住む場所を……暮らしていく場所を創る!見ていろ!』


 予め全知師に探査させて地盤のよい場所を選定させてある。

 その場所に新しい町を創るつもりだ。


 この町では、一世帯あたり平均6人が寝食を共にしている。

 6LDKの家を840棟ほど建設すれば良さそうだ。


 碁盤の目のように南北に15、東西に14、計210のブロックに分ける。

 市街地の北には、広大な延焼えんしょう防止用の空き地を含む神殿用地を確保する。


 各ブロック同士は10m道路でへだてられるようにし、神殿用地へとつながる中央の道路だけは50m道路とした。各道路はゆるやかなアーチ状になっていて、両端にはU字溝ゆーじこうを配置。そこへ雨水うすいが流れるようにしておく。


 そして、道路の地下には下水管をめぐらせて汚水おすい生活せいかつ雑排水ざっぱいすいを流すようにする。

 もちろん上水道も完備だ。新しい町の近くを流れている川から取り入れた水を、浄水場を経由して町中に張りめぐらされた水道網へと送り出す。

 なお、災害時に備えてすべてのブロックにはその中央に井戸が掘ってある。



 道路はバジリドゥに頼んで、コンクリートで舗装ほそうしてもらった。

 超速乾性コンクリートは短期で仕上げたい、こういった土木工事には最適だ!


 バジリドゥも、役に立てることが嬉しいのか上機嫌だ!



 ブロック内は4区画に分割する。1区画は330.58平米へいべい…100つぼとしよう。 その各区画には、それぞれ1棟の住宅を建てる。


 液状化や地盤沈下等の心配はない場所であるが、念のために建物の基礎工事前に各区画それぞれの建物の基礎工事施工予定地にコンクリートパイルを南北に3本、東西に4本、計12本打つことにした。

 そして、その上に建物を建てるための基礎をベタ基礎で施工する。別に布基礎ぬのぎそけたかった特別な理由があるわけではない。


 建物は2×6ツーバイシックス工法にしておこうかな……。


 2階建てにして、建物の床面積ゆかめんせきは52坪くらいで6LDKにする。

 時間も無いことから、敷地が接している道路位置によって異なる4つのタイプの間取りプランを用意した。


 すべてが構造的な強度を重視。外見は二の次!東西にちょっとだけ長い長方形の総二階造そうにかいづくりで、屋根もシンプルな切妻屋根きりづまやねだ。複雑な形状の屋根にすると雨漏あまもりのリスクが増加するからシンプルな屋根が一番!


 断熱材はセルローズファイバーにした。内断熱うちだんねつだ。外壁、内壁とも耐火たいか仕様しよう


 間取りは家事動線等、使い勝手の良さを重視した!

 ここは日本じゃないから、鬼門きもんがどうだとか、裏鬼門うらきもんどうだとかというのは全く無視だ!


 もちろん、全戸バス、トイレ完備!トイレはシャワートイレだ!

 もう余所では暮らせなくなるだろう!ふっふっふっ!



 工期短縮と住み心地を重視したので面白みが全くない町並みとなってしまった。

 すべてのブロックに、他と全く同じ4タイプの住宅が同じ相対位置に建っていることになる。


 これはある意味迷路みたいだ。どのブロックを見ても同じ風景である。自分が今いる場所がどこなのか分からなくなる。

 取り敢えず、ブロックを囲む四方の道にブロック番号を大きな文字で書いておくことにしよう。

 例えば、北から5番目、西から11番目のブロックだったら『N05W11』と表記しておくことにしようかな。なんか格好悪いけど……。

(※実際はN、Wという文字はこの世界で北と西を表す頭文字になっている。)



 しかし、敷地面積が100坪で、建物面積が52坪か……日本だったら、俺の薄給はっきゅうじゃぁ、とても建てられない家だよなぁ……。

 どこかの住宅展示場のモデルハウスのようにデカいな。



 バジリドゥの大活躍もあって、1時間ほどで何も無いところに新しい町がひとつ出来上がったのである。

 なお、商業施設や工房街等は神殿前の広大な空き地の一角に創るつもりでいる。


 新しくできた町の周囲に魔物避け用にSRC、鉄骨鉄筋コンクリート製の防壁を建設しておいた。高さは20m。これくらいあれば……まあ大丈夫だろう。


 なお、日照を考えて防壁から最も近い住宅までの距離は100m離してある。

 下手をすると、いや確実に旧ボラコヴィアの町よりも住みやすいはずだ!


 人々の顔には最早もはや絶望感ぜつぼうかんただよっていない。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 見る見る内に住宅街が出来上がっていくのを見て人々は驚愕きょうがくする。

 ひざまずき、涙を流しながら胸の前で両手を組み、俺に祈りをささげている者たちもいるようだ。


 新しい町を創る時間よりも、人々が住む家を話し合って決める時間の方がかかるだろうとんでいた。人数が多い……。おおよそ5000人の住処すみかを新たに決めるわけだから、時間がかかるものだとばかり思っていた。

 区画ごとに希望者を募り、競合した場合はじゃんけんで決めさせようとか色々と考えていたのだが……住む場所を決める作業は2時間ほどで決着がついたのだ!


 驚くべき早さだ!

 前町内会の代表者同士が話し合ってブロック範囲を決める。そして、各町内会で話し合いを行い、人々の住む家がほとんどトラブルもなくあっという間に決まっていった!


 この世界は常に死と隣り合わせだからなぁ……。人々は、互いに助け合いながらじゃないと生きてはいかれないから、こういった町内会がちゃんと機能しているんだろうなぁ。


 てきぱき物事が片付いていくさまを見ながら、人々へ提供する夕食の準備をおこなっている。さすがに人数が多いので、いつものようなバイキング形式で夕食を提供することはできず、仕切りがついた40cm四方くらいのワンプレートに料理をのせて提供することにした。仕出しだし料理みたいだ。


 それとは別に各種飲み物が入ったドリンクディスペンサーを100台設置した。

 各人には空の紙コップを渡してドリンクはセルフサービス。おかわり自由ということにする。


 プレートには、コッペパンに野菜炒め、ハンバーグにナポリタン、鶏の唐揚げにフライドポテト等々をのせて提供することにした。

 それとは別に、キッチリとふたが閉まる、ちょっと大きめの紙コップにオニオンスープを入れて提供する。


 今夜は夕食を提供するが住む家を提供した以上、これからは各自で食事はとってもらうつもりだ。

 それで、食材や生活必需品等が購入できるように神殿前の広大な空き地の一部に大型ショッピングセンターを建設した。

 また、そこから西に少しだけ離れた場所には、鍛冶かじ職人しょくにん他のための店舗兼工房が整然と建ち並ぶ職人街も建設しておいた。


 住宅街と神殿や商業施設等々をめぐる巡回馬車も複数台用意しておく。馬はすべて震災で焼け死んでしまったため、馬車はゴーレムに引かせる。


 それぞれの運営は各町内会の代表者で構成される代表者会議に丸投げすることにした。俺たちがこの町の面倒をずっと見ていくことは不可能だからだ。

 ただし、町が機能するまで……これから1ヶ月程度は無償で食材や生活必需品をショッピングセンター内他の販売スペースに提供することにした。

 その間は、食材等は相場よりもかなり安く販売してもらうことになっている。

 食材等を無償提供しないのは……なんというか人というのは欲深よくぶかい生き物だし、この町に暮らす人々、そのすべてが必ずしも善良な人というわけではないからだ。


 なお、販売等で得た収益は町を運営するために使ってもらうことにする。


 職人たちが工房で使う工具等々の道具は、彼等が必要とするものはすべて無償で提供することにした。もちろん、必要な材料も無償で提供するつもりだ。



 管理助手たちからは"過干渉"だと言われるかも知れない。人族には甘すぎるとも言われるかも知れない……だが、目の前で苦しんでいる人がいるのに、しれ~っとして黙ってみているだけなんてことは俺にはできない!



 ◇◇◇◇◆◇◆



「ねぇ、シン。教えて。平方メートルと坪ってどうやって変換するの?」

「ああ。平方メートル単位の面積を坪に直すには0.3025をかけるんだ。

 そして、小数第2位までを有効数字とし、それよりも小さい桁はネグるんだ」


「ネグる?」

「あ、ごめん。切り捨てちまうってことだ」


「なるほど。100平米が30.25坪ってことね。でもあなたなぜそんなことまで知っているの?」

「ああ、昔ある不動産会社の業務システム開発の仕事にたずさわったことがあってな。その時に色々と教えてもらったんだよ」


「ふぅ~ん。なんか建築の知識とかも豊富ね?」

「まぁ豊富ってわけでもねぇんだが、不動産業務システムを組んだ時に、発注元の会社の人に教えてもらったのと、知人が家を建てるときに相談されて色々と覚えたくれぇだけどな。聞きかじりの知識だぜ」


「そっかぁ……それで、不動産業務システムってどんなの?」

「難しい質問だな……うーん、うまく一口では言い表せねぇなぁ。

 不動産業務全般について事務的作業をPCでできるようにしたって感じかな?」


「事務的な作業?」

「ああ。事業計画立案、建築工程管理、販売管理、営業マンの報酬計算……

 お客さんに提案する住宅購入資金計画立案、重要事項説明書や契約書作成……。

 その他、不動産に関するありとあらゆる業務に係る作業だよ」


「ふぅ~ん。すごく作るの大変そうね?」

「まぁな……当時はオフコンが主流でな、PCによる社内LANがまだ一般的じゃない時代に各PCをLANで結んで業務連動とデータ共有させたんだが、D○Sの時代だったんで結構ぉ~苦労したんだぜ。なんせメモリーがなぁ…って、すまん。分かんねぇよな」


「コンピュータープログラムなんて……文系の私には全く分からない話ね」

「いや。お前さん、文系だから分からないねぇって論理はちょっと違うと思うぜ?

 そんなんで自分の可能性に自分で線引きするのはもったいねぇぜ」


「でも、プログラムって文系の私には難しいんでしょ?」

「そんなことはねぇよ。文系だからダメだっていう決めつけはナンセンスだぜ!

 俺は実際に文系学部出の優れたプログラマやSEをいっぱい知っている」


「ふぅ~ん、そうなんだぁ」


 ユリコは口元、あごのあたりに右手人差し指を添え、うつむき加減にしばらく何か考えていたが……


「私が知らないあなたの時間……か…。な~んか私だけ取り残されちゃったようでなんとなく寂しいわ」


 どうやら文系とプログラマが……ということを考えていたのではなく、ユリコの知らない俺、シンが過ごした時間に思いをめぐらせていたようだ。


「お前さんと共有できなかった年月はかなり長かったからなぁ……当然その間には色々なことがあったさ。お前さんと共に過ごしたかった時間だったんだがな……」

「私が死んだ後にあなたがどんな風に生きたのか知りたくなってきちゃったわ」


 俺がユリコの立場であってもそう思うだろうな。

 ん?でもユリコは俺に興味をいだいているのか?俺のことなんか、なんとも思っていないんだとばかり思っていたぜ?


「ああ。今度ゆっくりと語ってやるぜ。

 お前さんが亡くなった後の俺がどんな人生を歩んだのか、魂の履歴に記録されている映像を見ながら……な。 涙をぬぐうハンカチは必須ひっすだぜ。ははは」


「へぇ~。その時に、私が死んだ後にあなたがどんな女性と付き合ってきたのかもちゃんと見せてね?うふふ」


 俺は『ふっ』と鼻で笑い……


「あのなぁ……日本人だった頃の俺はお前さん一筋ひとすじだったんだ!死ぬまでな!」


 ユリコが肩をすくめ『またぁ、うそばっかり』とでも言いたげな表情を浮かべ……


「今のあなたを見ていると、ちょっと信じられないわね。

 だって、あんなに綺麗なお嫁さんたちをいっぱいはべらせている人の言うことよ?

 全く説得力がないわね? そう思わない? でしょ?」


 は・は・は……まあ確かになぁ。俺は真剣に全ハニーたちを愛しているが……

 俺たちのことをよく知らない人たちからすると、俺は『女誑おんなたらし』にしか見えないかも知れないわなぁ……。


「そ、そう言われちまうとなぁ、返す言葉もねぇんだが……

 日本人だった頃の俺はとにかくお前さん一筋ひとすじだったことはまぎれもねぇ事実だ!

 他の女性と付き合おうだなんて気持ちには全くなれなかった。本当だぜ。

 女性から告白されたことだってあるし……いい年こいて独身でいるのを見かねた周りからは何度も見合いを勧められたんだがな……全部きっぱりと断った!

 俺は死ぬまでお前さんへの思いだけをつらぬいたんだ!これはうそじゃねぇ!」


 ユリコは、はにかむようにうつむき……


「ま、えずそういうことにしておいてあげるわ。うふふ。

 でも約束よ。私の死んだ後の日本のことも含めて色々、ちゃんと教えてね?」

「ああ、約束するよ」


 ユリコはハニーたちが夕食をとっているテントへと去って行った。



 ◇◇◇◇◆◆◇



 >>マスター。警告します。

  92名の盗賊らしき一団が馬と馬車でこちらへと向かってきています。

 <<ありがとう、全知師。


 日本でもそうだったが、人の苦難に追い打ちをかけるように、つけ込んで悪さを働くやからはどこにでもいるなぁ……。


『ここでは俺がルールだ!災害時に悪さを働くようなヤツには一切容赦なしだっ!

 全員ぶっ殺す!ウジ虫どもめっ!さあ来やがれっ!』


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