第0024話 千人の諾諾は一士の諤諤に如かず

 砦跡とりであとの中、一番奥いちばんおくにある廃屋はいおくには20人ほどの生命体反応せいめいたいはんのうがある。

 その他の廃屋はいおくにはない。


 えず、とりでほうあとからにしよう。

 まずは、こちらへと向かってくる ヤツら を片付かたづけるとするか……。


 えーと、おおよそ20人といったところだな。


 ソルヴェン・ケヴァインと、その手下てしたどもが、馬でこちらへと向かってくる。

 えず俺は、砦跡とりであともんまえでストーカー野郎やろうかまえることにした。


 しばらくすると馬に乗ってヤツらがやって来た! 


 俺はヤツらの方へと進み出て、ヤツらの前に 立ちはだかって やった!


「うっ! だ、誰だ、お前は!? 邪魔じゃまをするな! そこをどけ!」


 手下てしたどももみなうまめてこちらをにらけている!


「お前は誰だってぇ? ふん! こまったにいちゃんだなぁ。

 人に名前なまえを聞く前に、まずは、てめぇが名乗なのるのが スジ ってもんだろうが?

 違うかぁ?」


 いきなり不審者ふしんしゃあらわれて、ふさがっているんだからなぁ、この状況で自分の名前を名乗るようなバカはいないだろう、普通は……


 単に相手を からかう つもりで言ってやったのだ! …が……


「ああ、それは失礼した。 私は ラウロボルムの町 の"ケヴァイン男爵家だんしゃくけ"の五男ごなん、ソルヴェン・ケヴァインである! さぁ名乗なのったぞ、今度はお前の番だ! 名乗れ!」


 あらら? じ、実は真面目なヤツなのか!?

 な~んか調子ちょうしくるうヤツだなぁ……。

 しょうがない、俺が誰なのか教えてやるか……


「俺かぁ? 俺の正体しょうたいを知るとふるえがるぜ? 聞いても大丈夫かぁ?」

「うるさい! 私はちゃんと名乗ってやったんだぞ! とっとと名乗れよ!」


「しかたねぇなぁ、教えてやろう! 俺はこの世界の神だ! ほれ……」


 眉間みけんの "しるし" を一際ひときわかがやかせる!


「はははっ! 神がお前みたいな小僧こぞうであるわけがないっ!

 冗談じょうだんを言うのはやめろ! 本当のことを言え!」


 ああ、ダメだこりゃ……もう、面倒めんどうくせえ……。


「転送!」


 ストーカーおとこ"一味いちみ" が乗っていた "馬だけ" を遠くへと転送してやった!


 走っている馬を転送すると転送先で勢い余って転倒したりして怪我を負ってしまう危険性があるのだが……今、馬はみんな止まっていたので、転送によって、罪のない馬たちが怪我けがをすることはないだろう。


 うわっ! どわっ! ぶひっ! がはっ! ……


 乗っていた急に馬が消えてしまったため、ほとんどのヤツが、"しこたま" ケツを地面に打ちつけたのだ! そいつらはみんな、痛みに顔をゆがめて動けないでいる!


 中には顔面がんめんから地面じめん落下らっかしたヤツもいる!?

 あまりの痛さに目に涙を浮かべている者たちも多い。


「てめぇが、俺の大事だいじな レキシアデーレ につきまとっているクズ野郎だな?」

「もう一度聞こう。 お前は誰なんだ! いとしのレキシアデーレの何だ!?」


「だから俺は神だ! で、俺は彼女の…そうだなぁ……なんというか保護者ほごしゃだな」

「そうか! 保護者ほごしゃか! じゃぁ、レキシアデーレ との 結婚 をみとめてもらおう!

 さもないと……この神官の命が……って、あれ? あれっ!? えっ!?」


 なんたる間抜まぬけ!


 今頃いまごろ、神官の スリンディレ がいないことに気付いたとはなぁ……やれやれ……。


 スリンディレを馬のに、自分のすぐうしろにしばけていたんだから……

 スリンディレがいなくなりゃ分かるだろうが、普通は。


 せめて、馬が消えて地面に落下した時には気が付けよなぁ…ったく。人質のことが気にならなかったのかねぇ? 普通は人質が無事かどうかを確認するよなぁ。


 あきれていると、ストーカー男の手下てしたどもが、俺をかこもうとうごす!


 "見えざる神の手" で、全員ぜんいん真上まうえから地面じめんさえみ……

 平伏へいふくさせ、身動きが取れないようにしてやった!


 今、ヤツらは全員が無理矢理むりやり土下座どげざさせられたかのような状態でいる。


 さあ、それではコイツらを とっとと 始末しまつしようか…と思ったちょうどその時だ!


小僧こぞう! 動くな! ゆっくりとかえってこっちを見ろ!」


 背後はいごから男の野太のぶとこえがした!?


 ん!? なんだ?


 ストーカー男とその手下どもを地面に押しつけたままにして……

 おもむろにゆっくりと振り返る。


「この女どもが目に入らないか!?

 大人しくすぐにわか解放かいほうしなければ、この女どもを殺すぞ!

 さぁ! わかはなせ!」


 若? 声の主は、"ソルヴェン・ケヴァイン" の家臣か何かなんだろうか?

 年格好からすると、このストーカー男のやくかなんかかな?


 その男の後ろを見ると、全裸の女性たちが数名と、ガラの悪いクソ野郎どもが数名いた。 女性たちはみな、クソ野郎どもにうでうしにねじ上げられている!?


 その状態で砦跡とりであとから連れられてきたようだ!

 女性たちは真っ青な顔をしながら、苦痛くつうかおゆがめている!?


 かわいそうに。 早く解放かいほうしてあげなければ……



 ストーカー男を解放かいほうするようにせまってきた男は、勝利しょうり確信かくしんしたかのような表情を浮かべながら、ニヤリと笑いやがった!


「おのれぇーーっ! 卑怯ひきょうだぞ! 女性たちを解放かいほうしろっ! この野郎!

 …………と、でも言うと思ったかぁ? ざぁ~んねんでしたっ! …… 転送!」


 砦跡とりであとから連れて来られた、拘束こうそくされていた女性たちを、全員ぜんいん一気いっきに俺のもとへと転送してやった!


 すぐに、転送されてきた女性たちを浄化して、治療し、服を着せてやろう!


「完全浄化! 完全修復! 下着、衣服類装着! …… 」



 自分たちが拘束こうそくしていた女性たちが突然とつぜん目の前から消えて……

 あたりを きょろきょろ と見回みまわしていた男どもは、女性たちが服まで着て俺のそばにいることに驚愕きょうがくした!


 女性たちの魂の履歴に記録されていた映像をチラリと見た限りでは……

 どうやら女性たちは近隣の村々からさらわれて来て、なぐさものにされていたようだ。


 このクソクズゲス野郎どもだけは、絶対に!… 絶対に! 許さん!


 この女性たちを守りながらでは派手に暴れられない。

 えず女性たちを安全なところへ避難ひなんさせることにしよう。


 さゆりに念話回線をつなぐ……


『おい、さゆり! 聞こえるかぁ?』

『はい。シンさん。 何でしょう?』


『今からそっちに女性を数名転送するからさ、その子たちの面倒を見てやってくれ!

 盗賊に拉致らち監禁かんきんされていたようなんだよ。 ケアを頼むわ』

『分かりました!』


「転送!」


 突如とつじょ、俺のそばにいた女性たちが全員、一瞬で消えるのを目の当たりにしたクソ野郎どもは、目が飛び出んばかりに目を見開みひらき、アゴがはずれんばかりに大きく口を開けて驚いている!


 俺は強烈きょうれつ威圧いあつする……


「てめぇらのように、女性を凌辱りょうじょくするようなクソ野郎を俺は絶対に許さねぇ!

 てめぇら、覚悟かくごしろよ!」


 俺に"若を解放しろ"と野太のぶとこえおどした男。その後ろにひかえていたある男が必死に弁明する……


「ま、ままま、待ってくれ! 俺たちは、そ、そこの若造わかぞうかねやとわれただけだ!

 もう絶対に悪いことはしねぇ! だから、か、勘弁かんべんしてくれ! 助けてくれ!」


 この男の魂の色はほぼ黒だ。

 魂の履歴で確認するとどうやらこのあたりをらし回っている盗賊らしい。


 こんなヤツらに容赦ようしゃ無用むようだな。


「はぁあん!? よく言うぜ…ったく、よぉ!

 そう言って改心かいしんしたヤツなんざ、見たことがねぇからなぁ~。

 それに、てめぇたちは……

 『助けてくれ』と言われて助けてやったことがあるのか? ねぇだろうが?

 さっきの女性たちが『助けて』と言っても凌辱りょうじょくしたんだろう?

 なんで、そんなてめぇらを助けてやらにゃ~、ならんのだ! アホかっ!

 許せねぇ! ぜっ・たい・にっ、なっ! …… 爆殺ばくさつ!!」


 ズバババババババババーーーーーーン!!!!


爆殺ばくさつーーーっ!」


 ズバババババババババーーーーーーン!!!!


 まずは、砦跡とりであとほうのクソ野郎どもを、ストーカー野郎の守り役らしき男も含めて全員を爆殺ばくさつし……

 次に、振り向きざまに、フロルセンドゥ村の神殿を襲ったクソ野郎どもを、同じく爆殺ばくさつしてやったのだ!


 もちろん、爆死ばくししたヤツらの魂は、キッチリと! "奈落ならくシステム" へとほうんでやったことは言うまでも無い! 当然だ!


 さてと……残るは、ストーカー男、ただひとりである。


「ひいいいぃぃぃぃぃっ!!」


 あーあ、失禁しっきんしやがった……。だらしないねぇ……。


「許して下さい! 許して下さい! 許して下さい! 許して下さい! 許して下さい!

 もう絶対に、絶対にレキシアデーレには近づきません……許して下さい!

 許して下さい! 許して下さい! 許して下さい!」


「や~なこったぁ! てめぇの言うことなんざ信用できるかってんだ!?

 後腐あとくされかたをつけるんなら……」


 ストーカー野郎に向かって "ニヤリ" と笑いながら……


「てめぇを始末しまつするのが、一番確実いちばんかくじつだとは思わねぇか? なぁ、そうだろう?」

「ひぃぃぃぃぃっ!」


 とは言ったものの……さてと、どうやって始末しまつしたものかなぁ……。


 そう考えていると神官を救おうと追ってきた神殿騎士3人がようやくやって来た。


「おう! ご苦労くろうさん!」


「あれっ!? う、上様うえさま!? ど、どうしてここに?」


「ああ。お前さんたちの仲間が知らせてくれてな、先回さきまわりしてコイツらをぶっ殺しに来たんだよ。 ちょうど今、コイツの手下どもを、みんな始末しまつしたところだ」


 あたりにはてつさびしゅうただよっている……

 だから、神殿騎士たちも、ここで殺戮さつりくおこなわれたことを理解したようだ。


 神殿騎士たちはみな、驚いている。


「あっ! そうだ! 安心しろよ、スリンディレは無事だぜ。

 助け出したぜ。 今は神殿の方にいる。 怪我けがも治療したし、元気だぜ」


「グラウギンは……コイツの手下てしたられた、私たちの仲間なかま、グラウギンは無事でしょうか!?」


「グラウギン?」


「あ、すみません。 上様うえさま事態じたいを知らせたヤツのことです」


「おうっ! そっちも無事だぜ。 ちゃんと怪我けがは治してやったから、安心しな。

 大怪我おおけがをしているのに必死になって俺に知らせてくれてなぁ。 たいしたヤツだぜ!

 御蔭おかげ先回さきまわりすることができて、コイツらを始末しまつすることができたんだ」


「おお! そうでしたかっ! 仲間をお助け下さり、ありがとうございます!」


 神殿騎士3人全員が頭を深々ふかぶかと下げる。


「さてと……コイツをどうするか……だなぁ?

 誰か、たっぷりと苦痛くつうを味わわせながら殺す、いい方法を知らねぇか?」


あしおもりをつけて、海にしずめてはどうでしょうか?」

「ひいいいぃぃぃぃぃっ!!」


「そんなんじゃぁ、手緩てぬるいんじゃねぇの?

 もっと……なんていうかなぁ、こう、『早く殺してくれーっ!』ってコイツが思うような "エグい" のはねぇかなぁ?」


「か、かかか、勘弁かんべんして下さい。 許して下さい! 許して下さい!」


軍隊蟻ぐんたいありれの中にほうんでやってはどうでしょうか?」

「ひいいいぃぃぃぃぃっ!!」


「ひいひいひいひぃと…うるせぇんだよ! 四肢粉砕ししふんさい!」

 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


「修復!……今度は "ぎゃあぎゃあ" かよ。 かえってうるさくなっちまうか……。

 軍隊蟻ぐんたいありねぇ? 面白おもしろそうだなぁ。 でもなぁ、ありがどこにいるか分からねぇしなぁ。

 さがすことはできるんだが……それもちょっと面倒めんどうだなぁ……」


きたまま棺桶かんおけれて、地中ちちゅうめてやったらどうでしょうか?」

「ひいっ!」


「……あーーっ! もう! 考えるのが面倒めんどうくせえ! 転送!」


 泣きながらガタガタと震えていた"レキシアデーレのストーカー野郎"が目の前から消えた。


「えっ!? ヤツをどうしたんですか? ど、どこへ転送されたんですか?」


「もう考えるのが面倒めんどうくせえからさぁ……海のどなかに転送してやったわ。

 なんかの海洋生物かいようせいぶつ適当てきとう始末しまつしてくれるだろう」


「「「は・は・は・は……」」」


 神殿騎士たち3人は、ちからなく笑った。


 ちょっと面白おもしろくねぇやりかたなんだがなぁ……まぁ、面倒だし、いいっかぁ!

 レキシアデーレのまわりから消えてくれりゃ、えずはOKなんだしなっ!


 もちろんヤツのプライマリーキーの値は "輪廻転生りんねてんしょうシステム" のブラックリストへ登録済とうろくずみだ。


 すでに、マップ画面上で砦跡とりであとには誰もいないことを確認済なんだが……

 ねんのために砦跡地とりであとちを確認しておきたいと言った神殿騎士たちの意見を尊重そんちょうして、砦跡全体を4人で詳しく調べることにした。 真面目まじめなのはいいことだからな。


 当然だがやはり砦跡地とりであとちには俺たち以外、てきも、拉致被害者らちひがいしゃも……誰もいなかった。

 手を抜かず、ちゃんと"自分たちの目"で確認しようとした彼等の姿勢はとても評価できる。 さすが、神殿視察団しんでんしさつだん護衛ごえいつとめる者たちだ。素晴らしい人材である!


「ようし! えず、フロルセンドゥ村へ帰るぞ! 馬を連れて俺のそばに来い」


 彼等は言われるがままに、馬の手綱たづなきながら、俺のまわりのあつまる。


「転送!」



 ◇◇◇◇◇◇◇



 神殿前広場しんでんまえひろばに転移してきた。


 一緒に転送で連れてきた神殿騎士3人は、馬の手綱たずなにぎったまま、ポカ~ンとしている。


 そうだよなぁ、瞬間移動したんだから、まぁ、普通は驚くわなぁ……。


「シンさん! お帰りなさい!」


「おう! みんな! こっちの様子はどうだ?」

「みんなで手分てわけして、怪我人けがにん治療ちりょうをしていましたが、大怪我おおけがをした人はひとりもいませんでしたので、すぐにみました」


 さゆりの報告に耳をかたむけていると、貴族らしきひとりの男性が率先そっせんして火事場の後片付あとかたづけをしているのが目に入った。 念のために魂の色を確認すると "青" だ。


 年齢は43歳。 名前は "カルロス・デイビッド・バウル"。


「まぁ領主様りょうしゅさま。 お久しぶりですわね」

「ああ、ヘルガちゃんか! 久しぶりだな! 元気かい!?

 でも、どうしてここに? 神様の后候補きさきこうほに選ばれたきみが……はっ! 上様うえさま!」


 カルロスという男性が俺に気付いてひざまずく。


「あ、ひざまずかなくてもいいぜ。 俺たちはしのびのたびをしているからな。

 普通にしていてくれていいぜ」


「恐れ多いことではございますが……わ、分かりました。 おっしゃとおりにします。

 あ、おくれましたが、私は前領主ぜんりょうしゅをしておりました、カルロス・デイビッド・バウルと申します。 よろしくお願い致します」


「ありがとうな、率先そっせんして後片付あとかたづけをしてくれて。 助かるぜ」

「いえ、恐縮きょうしゅくです。 これは貴族きぞくたる者の使命しめいのようなものです」


「"ノブレス・オブリージュ" っていうやつか……。

 お前さんのような貴族ばかりだと助かるんだけどなぁ……。

 実際はクソ貴族ばかりだからこまるぜ。

 この火災かさいこしたのも、男爵だんしゃくのクソ5男坊ごなんぼうだしなぁ……」


「はい。なげかわしいことです」


 彼は、にこにこ しながら俺たちの会話を聞いていたヘルガに話しかける……。


「ヘルガちゃんはちいさいころからの夢がかなったんだね? よかったね!

 神様のお后様きさきさまに選ばれたんだね……本当によかったね!」


「ふふふ。 さすがの上様うえさまも、私の魅力みりょくに イチコロ でしたわ。 ふふっ!」


「は・は・は……。 ヘルガにゃぁかなわねぇなぁ~」


 この男が神殿しんでんいかりをったとかいうのか? 信じられないな……。

 こんな立派りっぱ人物じんぶつがどうして クビ になったんだ……こりゃ、なにうらがあるな?


「お、そうだ。 今からこの焼けちまった神殿を修復するから、お前さん、悪ぃが、みんなを神殿から遠ざけてくれねぇか?」


「はい。 承知しました。 では、少々お待ち下さい」


 元領主もとりょうしゅ、カルロスは後片付あとかたづ作業さぎょうをしている者たちのところへと足早あしばやかい、テキパキと指示しじを出す。 …… やはりできる男だ!


 かなり人望じんぼうあつい。みんなは彼の指示しじしたがって、あっという間に神殿から距離きょりをおく……。 さぁ、これで神殿の "完全修復" が可能になったぞ。


「完全修復!」


 あわい緑色をした、美しい半透明はんとうめいな光のベールにつつまれる神殿を見て、遠巻とおまきに見ている人々が、みな感嘆かんたんする。 いつ見ても美しい光だ。


 光は一瞬で消え、神殿が焼ける前以上まえいじょうに美しくよみがえる!

 人々からは大歓声だいかんせいが上がった!


「いやぁ~、上様うえさま! お見事みごとでございまする!」


 そう言いながら、ぶよぶよに太った男が近寄ちかよってくる?


 魂の色は "赤" だ。 警戒けいかいしておいたほうがいいな。

 男はゆっくりと、そして、おおげさに拍手はくしゅをしている……。


「ん? お前さんは誰だ?」


「ははは。 まさかご存じないとは。 遺憾いかんですなぁ。

 私は統括神官とうかつしんかんの "ジーノ・イスト・ギューノ" です。 どうかお見知みしきを」


 元領主もとりょうしゅ、カルロス・デイビッド・バウルの表情がけわしくなる。


「ジーノ、ちょっと教えてくれるか? お前さんは何でこのカルロスを領主のから引きずり下ろしたんだ?」


きずりろすとは、人聞ひとぎきがわるいですねぇ……。

 この男は、神殿への寄進きしんしぶったのです。

 上様うえさまのご結婚けっこんのおいわいとして、全村民ぜんそんみんからおいわきん徴収ちょうしゅうするようにと、お願いしたのに、この男は、それをっぱねたんですよ。

 神殿しんでん意向いこうにしたがってくださらないから、めていただいたにぎません」


「おいわごとは、当人とうにんたちの気持ちの問題です。

 おいわいの金品きんぴんおくる、おくらないは、それぞれ個人こじん判断はんだんゆだねるべきだと私は申し上げただけです。

 税金ぜいきんのように徴収ちょうしゅうするものではないと、私は今でも思っています。

 この考え方は間違っているのでしょうか?」


「間違っているからクビにしたんです。 神殿の意向いこうさからうのは不敬ふけいです!

 商業ギルドも、冒険者ギルドも……他のどの団体だんたいこころよ寄進きしんしましたよ!

 貴方あなただけですよ。 ごねたのは!」


 ああ……なんということだ!


 千人せんにん諾諾だくだく一士いっし諤諤がくがくかず!

 この元領主もとりょうしゅは、稀代きだい賢人けんじんだ! これほどの人材じんざい手放てばなすなんておろかだ!


 元領主もとりょうしゅとコイツが話している間に……コイツ、"ジーノ" の魂の履歴をざっと見て色々なことが分かっている。


「おい、統括神官の ジーノ・イスト・ギューノ とやら、てめぇはクビだ!

 とっとと、この村から出て行きやがれ!」


「な、なななな、何をおっしゃるんですかっ! おそれながら……頭は大丈夫ですか?

 どうか なさったんじゃないですか!?」


「てめぇ、失礼しつれいなヤツだな!? 殺されてぇのか!?」


 強烈きょうれつ威圧いあつした。


「ひぃ~っ!」


「これだけの賢人けんじん領主りょうしゅからきずりろしやがって……お前はバカか?

 しかも! 寄進きしんさせた金品きんぴんは、すべててめぇがわたくししてるじゃねぇか!?

 俺がそのことを分からねぇとでも思ったか!? このクソぶた野郎がっ!

 てめぇの全財産ぜんざいさん没収ぼっしゅうだ! ひとつでこの村からとっとと出て行きやがれっ!

 このスットコドッコイがっ!」


「おのれぇーーーーっ! 言わせておけば……ファイヤーボー……ぐはっ!」


 ぶた野郎が俺に向かってファイヤーボールをはなとうとしたようだ……。

 だが、この男は、最後まで言葉をはっすることはできなかった。


 男が言葉を言い終える前に、スケさんとカクさんが男の前へと高速移動し……

 二人は男の前で走る方向をクロスさせながら、男の身体の直前で剣をいた!


 直後、男の身体は水平すいへいに3つの "かたまり" に切断せつだんされる!


 スケさんが、男の右から左に移動しながら水平にぶった切り……

 カクさんが、男の左から右へと移動しながら、水平にぶった切ったのだ!


 見事みごとなコンビネーションだ!


 切り口は相変あいかわらず素晴すばらしくあざやかである。


 その様子を見ていた者たちから悲鳴ひめいがあがる!

 あたりには強烈きょうれつてつさびしゅうただよう……。


 スケさんとカクさんが、剣を一振ひとふりし、剣についた血をはらい、剣をさやおさめてこちらへと歩き出した。


「スケさん! カクさん! 危ねぇ! しゃがめ!」


 俺の声に反応はんのうしてスケさんとカクさんがその場にしゃがむ……

 直後! 二人の頭上ずじょうを何かが高速こうそく通過つうかした。


「シールド展開てんかい!」


 俺はまわりにいる人たち すべてをおおう ようにシールドを展開てんかいする!


 統括神官の "ジーノ・イスト・ギューノ" は死んでなかったのだ!


 分断ぶんだんされた身体からだの "部分ぶぶん" がもともどっただけではなく、身体からだ巨大化きょだいかし、オーク・キングのような魔物に変身したのだ!


 そして、その "もの" となった "ジーノ" が、スケさんとカクさんの頭をねらってるったうでが、彼女たちの頭上ずじょう高速こうそく通過つうかしたのだった。


「がはははははっ! 女神シオン様から加護かごさずかったこの俺をそう簡単に殺せるとでも思ったか! おろものめ! …… らえ!」


 なーんか攻撃こうげきしてくるけど、シールドがあるから平気だ。 全然問題ない!


 しかし……女神シオンの加護? なんだそりゃ!?

 神殿の統括神官がシオン教徒だったのか? うわぁ、ダメダメじゃないかっ!


 ジーノをターゲット指定して開発環境かいはつかんきょう起動きどうし、ヤツの情報を確認してみた。


 なるほどぉ、コイツのプロパティとイベントに編集へんしゅうされた痕跡こんせきがあるな。

 プロパティ値は……ふむ。変更可能だな。よし。


 ん? イベントハンドラは、全部難読化なんどくかされて外部に保存されているぞ!?


 外部に保存されたコードを、インタープリターらしき外部プログラムへ渡すようになっているな。 ったことをしやがるな!


 イベントハンドラをのぞけないようにしているのかぁ?


 多分、イベントハンドラ内で、死からの復活ふっかつと、怪物化かいぶつかを引き起こすようになっているんだろうな。


 コイツを何度殺しても、イベントハンドラが呼び出されて、コイツを怪物化状態で復活させるようにしてあるから、イベントハンドラを修正できないようにしているのだろうなぁ……。


 ……だが! 笑っちゃうよなぁ。


 コイツの "復活ふっかつ" を"阻止そし"するのに、何もわざわざ、コイツのイベントハンドラを修正する必要がないことくらい、分かりそうなものなのになぁ……。


 イベントとイベントハンドラとのつながりを、ってしまえばいいだけだ。

 だから、サクッとイベントハンドラを削除さくじょしてやろう!


 女神めがみシオンってのは、間抜まぬけなのか?

 それとも……俺がこうすることまで考えて、なにかわなでも仕掛しかけてあるのか?


 イベントハンドラに、"インタープリター"を"ワンクッション"かませる技術があるというのに、なんだかやっていることが "とんちんかん" なんだよなぁ。


 だから、きっとわな仕掛しかけられているに違いない! な~んか、わくわくする!


 えず "魔物まものっぽく" なったぶた野郎の "イベントハンドラ" を全消去ぜんしょうきょして、プロパティ値も、ただの "オッサンレベル" に変更してやった。


「リブート!」

「ふへっ!?」


 ぶた野郎のシステムをリブートしてみた! さぁ、どうだっ!?


 シオンのわな発動はつどうするんじゃないかと、わくわく しながら待っていたのだが……

 何も起こらない!? 何も起こらずに、無事ぶじ再起動さいきどうしてきた!?


 え? 何も起こらないのか? な~んだよぉ、つまらねぇなぁ!


 統括神官とうかつしんかんのジーノは怪物のままだ! 変化はない。


 突然とつぜん意識いしきんだからなのか、なんか戸惑とまどっているみたいで、ジーノの攻撃の手が止まっている。


「さてとジーノや。 簡単に殺せねぇっつうんなら……これでどうだっ!

 ウインドカッター!」


「ぎゃ……」


 風属性かぜぞくせいの攻撃神術、ウインドカッターで、かぜやいばをぶた野郎にかましてやった!


 ジーノは激痛げきつうによる絶叫ぜっきょうはっはじめると同時にぷたつに切断せつだんされる……。


 よし! さぁ、どうだ!? 今度こそシオンのわな発動はつどうするぞ、きっと!

 …………

 …………

 …………

 ……へっ? なにも起こらない。ぶた野郎のジーノは死んだままだ。復活しない?


 ん~~!! 理解りかいくるしむぅ~!

 女神シオンとやらは、やはり間抜まぬけなのかぁ???



 ◇◇◇◇◇◇◆



 ぶた野郎の魂の履歴を確認する前に、元領主と話をする。


「このたびは申し訳ねぇ。 俺の目がとどかなかったばっかりに……。

 どうかもう一度この村を初めとする6村の領主になってもらえねぇか?

 頼む! この通りだ!」


 俺は素直しなおに頭を下げた。


「どうか頭をお上げ下さい。 喜んでお引き受け致します。 だから、どうか……」


「ありがとう! よろしく頼む! お前さんの好きなようにやってくれていいからな。

 神殿の意向いこうなんて完全に無視むししてもいいからな。

 まずは領民りょうみんこと第一だいいちに考えてくれればそれでいいから」


「はっ! 身命しんめいしてはげみます」


 あのクソぶた野郎めっ! 優れた人材を下野げやさせやがって。

 この国にとって大損失だいそんしつになるところだったぜ……。



 新しい統括神官には、この神殿で唯一ゆいいつ魂の色が"スカイブルー"だった30代の女性神官を抜擢ばってきした。 彼女は、初めは固辞こじしていたが、なんとか頼み込んで最終的には承諾しょうだくしてくれた。


 これで、この村も安泰あんたいだな。 めでたし、めでたし!


 この男が領主りょうしゅである限り、ヘルガの家族がこの地に住み続けても、不当ふとうあつかいをけることはまず無いだろう。 よかったぁ!



 ◇◇◇◇◇◆◇



 統括神官だった "ぶた野郎"、ジーノ・イスト・ギューノ の魂の履歴を確認する。

 ヤツ自身が言っていたように、ヤツはシオン教徒であった。


 裕福ゆうふくなこの村をシオンきょう資金源しきんげんにせよ……という使命しめいびていた。


 最終的にはこの村と近隣きんりん村々全体むらむらぜんたいをシオン教の手中しゅちゅうおさめる計画が進められていたのだ。


 俺たちの結婚祝けっこんいわいとしょうして人々から集めた金品きんぴんは、ほとんどがシオン神聖国へと送られてしまっていた。


 複数の商人ギルドや冒険者ギルドを経由けいゆし、シオン神聖国とのつながりを巧妙こうみょうにぼかそうとしていた。


 金品きんぴんのみを追跡ついせきしていたら、おそらく金品きんぴん行方ゆくえがシオン神聖国だとは気付きづくことはできなかったであろう。 魂の履歴を見たから分かったのだ。


 レキシアデーレのストーカーである、"ソルヴェン・ケヴァイン"を、この村に呼び寄せたのもヤツの仕業いわざかとうたがったが……


 そのことについては、一切いっさい無関係むかんけいであった。 これは意外だ。


 しかし……ゆるせんのは、このクソぶた野郎は、美人信者びじんしんじゃの情報を、なんと金とえに、ニセ領主りょうしゅだった "バルテック" に流していやがったことだ!


 コイツの魂は "輪廻転生りんねてんしょうシステム" に俺の "所見しょけん"つきで送ろうと思っていたのだが、この事を知って頭にきたので、即刻そっこく、"奈落ならくシステム" へとたたんでやった!



 ◇◇◇◇◇◆◆



 今回の件で、シオン教徒が神殿組織内部しんでんそしきないぶにもかなりの数が潜り込んでいる可能性が出てきた。 こうなると、地方神殿ちほうしんでん視察しさつ重要じゅうようになってくる。


 だから、神殿の視察官しさつかんつとめている、スリンディレ・クラルケに、もっと活躍かつやくしてもらわねばならないだろう!


「スリンディレ。 俺はお前さんにも、レキシアデーレにさずけた加護かごと、転移能力を付与ふよしてやろうと思っているが……どうだ?」

「え?」


「今回の件で、お前さんたち、視察官しさつかん役割やくわり重要度じゅうようど大幅おおはばにアップした事は分かると思う」

「は、はい!」


「だからな、お前さんが活躍かつやくしやすいように、俺は加護かごしてやりてぇんだよ。

 どうだ? どうしてもいやだってんなら、無理むりにとは言わねぇがな?」


「ありがとうございます。 私も今回の件では危機感ききかんおぼえました。

 ですから、加護かごしていただけるのでしたら、ありがたいかぎりでございます。

 大変たいへん恐縮きょうしゅくでございますが、お願いしたくぞんじます」


「そうか! よかったぜ!」


 早速さっそく、彼女に俺のフィアンセと同じ加護かごと、転移能力をさずけた。


 転移能力があれば、一気いっき目的地もくてきちまで行けるので、視察しさつ効率こうりつも上がるだろうとの判断だ!


 それと、俺たち管理者へのホットラインとして念話ねんわが使えるようにしてやった。

 スリンディレがのぞんだ時に、俺、シオリ、さゆり に限定げんていして念話ねんわを送れる。


「おエン! いるか?」

「はっ! ここに……」


わりぃんだがな、お前さんのところの"優秀なもの"を、このスリンディレの護衛ごえいにつけてやってくれねぇか?

 本来なら、俺から隊長のおギンに頼まねぇといけねぇんだろうがな……どうだ?

 お前さんの直属ちょくぞく部下ぶかの中から、都合つごうつけてもらえねぇかなぁ?」


「はっ! 喜んでお引き受けいたします。

 では、"夜叉王丸やしゃおうまる" という者をお付けしましょう。

 彼は非常に優秀ですから、きっとお役に立つことでしょう」


「"鳴神なるかみ夜叉王丸やしゃおうまる" がいるのか!!」


「なるかみ? いえ、二つ名ふたつなはなく、ただの "夜叉王丸やしゃおうまる" です。

 すぐにつれてまいります。 …… 転移!」


 夜叉王丸やしゃおうまるという言葉に反応はんのうした"さゆり"も俺のそばにやって来た。

 彼女も ワクワク しながら、夜叉王丸やしゃおうまるあらわれるのを待っているようだ。


 そうだよな。 鳴神なるかみ夜叉王丸やしゃおうまる って、クールで格好かっこうかったからなぁ……。


 待つこと数分……。


上様うえさま夜叉王丸やしゃおうまるれてきました。 夜叉王丸やしゃおうまる、ここへ!」

「はっ!」


 夜叉王丸やしゃおうまるあらわれた! …… さゆりは …… ちょっと残念そうだ。

 キリッ としたほそめの眉毛まゆげに、ながすずやかな目を想像していたんだろうなぁ。


 覆面ふくめんからのぞく、彼、夜叉王丸やしゃおうまるもとは……


 実際には漫画の中では一度も言っていないセリフだが、『俺の後ろに立つな!』で有名なスナイパー、ゴル○13のようだ!?


わりぃが、覆面ふくめんはずして、よく顔を見せてくれねぇか?」

「はっ!」


 あ……デューク○郷のように、鼻筋はなすじとおっている顔を期待していたんだが……。

 なんというか……彼には悪いが、なんか微妙だなぁ。


 さゆりは、かたをすぼめて『ダメだこりゃ』とでも言いたげに首を振りながら、この場からってった。


 こら! さゆり! 夜叉王丸やしゃおうまるくんに 失礼しつれい だろ! その態度たいど


「あー、夜叉王丸やしゃおうまる! お前さんにこの忍刀しのびがたなさずけよう!

 シールド展開てんかい機能きのうもあるから、あとでおエンから使い方を学ぶとよい」


「ははっ! ありがたき幸せ!」


 俺はおエンが持つ忍刀しのびがたなよりも"ワンランク"品質ひんしつとして、ミスリルで作成した忍刀しのびがたなを、夜叉王丸やしゃおうまるにはあたえた。


 シールド発生機能の方は、おエンの持つものと同じにしてある。


「……ということでだなぁ、お前さんに来てもらったんだよ。

 これからは、スリンディレたちを、かげながらまもってやってくれ! 頼んだぞ!」

「はっ!」


「スリンディレ。 お前さんの任務にんむは、各地神殿かくちしんでん査察ささつほかに、神殿組織内しんでんそしきないのシオン教徒きょうとあぶすこともふくまれる。

 ヤツら、シオン教徒が、なに仕掛しかけてくるかも知れねぇ……大変たいへん任務にんむになるとは思うが、どうかよろしく頼むな」


「はい。心得こころえました。 おやくに立って見せます」


「ああ、頼む……だが、ひとつ約束してくれ!」

「はい。なんでしょうか?」


「命を粗末そまつにするな。 自分の命を第一だいいちに考えて行動しろよ。

 死んだらゆるさねぇからな! いいな!?」

「はい。分かりました」


夜叉王丸やしゃおうまる! お前もだぞ!」

「はっ!」


 さてと……ここでも、なんか知らんけど、色々なことがあったが、そろそろ神殿に帰るとするかぁ……。


 あ、そうだ。スケさん、カクさん、さゆりに渡した剣はもう不要だよな?

 回収かいしゅうして分解ぶんかいするか。


「スケさん、カクさん、さゆり!」

「「「はいっ!」」」


「今日、護身ごしんのために渡した剣なんだが……あとは家に帰るだけだから、もう必要ねぇだろう? 俺が処分しょぶんしてやるから、こっちにもらおうか」


 ん? スケさんもカクさんも……さゆりまで、さやに入った剣をギュッときしめてものすごい勢いで首を左右に振って拒否きょひしている? 目に涙まで浮かべている!


「どうした? 手放てばなすのがいやなのか?」

「はいっ! シンさんからいただいた大切な剣です。家宝かほうにします。

 ですから、どうか取り上げないで下さい。 ぐっすん……」


「「「お願いしますっ!」」」


 あらら、泣くことはないのに……。


「あ、いいよ。 必要ならあげよう。 じゃぁ……これもあげよう」


 彼女等の目の前に、なか亜空間収納あくうかんしゅうのうへとつながっている "ポシェット" を生成して出した。 えず、7点生成しておいた。


 さゆり は亜空間倉庫あくうかんそうこを持っている。


 だけど、ひとりだけあげないのはかわいそうだから、ちゃんと彼女の分もある。

 家に帰ったら、他の子たちにもあげよう。


 スケさんに、カクさん、おエン、ヘルガ、レキシアデーレに、スリンディレ……

 そして、さゆり に "ポシェット" 手渡す。


 ん? 夜叉王丸やしゃおうまるうらやましそうに見ている!?


 ダメだ! ダメだ! これは女の子限定だ! あきらめろ!


「これはなんですの? ただのポシェットということはありませんわね?」


「ヘルガ、これはなぁ……実はこのなかで "亜空間収納あくうかんしゅうのう" につながっているんだぜ。

 だから、ものすごくたくさんのものが入れられるポシェットなんだ。

 ほら。 お前さんもだが、スケさんやカクさんのような、あんなにすごい美人が、でかい剣 をこしにぶらげてちゃ、無粋ぶすいってもんだろう?

 だから、剣とかの持ち物を全部、こいつに入れておくといいかなぁ…と思ってな。

 これが1つあるとすごく便利べんりだとは思わねぇか?」


「なるほど。そうでしたか。 ありがとうございます」


 あれ? スケさんとカクさんがほおめている?


 みんなは嬉しそうに早速身につけてくれた。

 デザインセンスが皆無かいむの俺が作ったものでも喜んでくれている……嬉しいなぁ。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 砦跡とりであとでストーカー野郎、ソルヴェン一味いちみとらわれていた女性たちについては……


 新領主しんりょうしゅのカルロスが、責任せきにんを持って、彼女たちを家まで送っていく… と申し出てくれたんだが、彼女たちを少しでも早く家に帰してやりたくて、俺が直接それぞれの家へと送ることにした。


 ちょっとおそくなるが、中央神殿にはそのあとで帰ろう……。


 俺が彼女たちを送って行っているあいだ、レキシアデーレ、スリンディレ、さゆり、そして、俺のフィアンセたちには、野営用やえいようのテントの中で、みんなでティータイムを楽しんでもらうことにする。


 そのためにもの洋菓子類ようがしるいをたくさん用意よういしておく……。



 敵と対峙たいじしている最中さいちゅうであったことから……

 とらわれていた女性たちにはその意思を確認することなく、完全なる浄化と完全なる修復を施した。


 つまり、身体からだ否応いやおうなく "生娘状態きむすめじょうたい" に戻ってしまっているのだ。

 肉体年齢にくたいねんれいほうも、最盛期さいせいきの状態になってしまっている。


 このこと不満ふまんを持つ子がいるかも知れないと、少々心配もしていたのだが……

 この事を説明したら、彼女たちは "完全浄化" と "完全修復" を喜んでくれたからホッとしたのであった。


 今回も、彼女たちの傷ついた心の方は何もできていない。 それが悔しい……。


 彼女たちの中にはさらわれた際に家族を失った子もいた。


 帰っても、まわりからは偏見へんけん眼差まなざしで見られるであろうことを危惧きぐして、ひとりで村でらすことがこわくてできないとうったえる子もいた。


 彼女たちは犯罪被害者はんざいひがいしゃなのになぁ……かわいそうに。


 ちいさなコミュニティーでは全員ぜんいんが知り合いみたいなものだからなぁ。

 そんな中じゃ、生きづらいんだろうかなぁ……なんにも悪くないのになぁ。


 そういった子たちは、カルロスがフロルセンドゥ村に残れるようにしてくれた。


 領主りょうしゅみずからが住む場所と仕事を世話して、この村でちゃんと暮らしていけるようにしてくれることになったのだ。 本当にこの男はナイスガイだ!


 この村に残ることにした子たちは、涙を流して彼に感謝かんしゃしていた。


 帰ることを希望きぼうした子たちを……

 彼女たちをっている、大切たいせつな人たちのもとへとじゅんおくとどけてく。


 もう二度と会えないことを覚悟かくごしていたんだろう……


 もしも俺と出会わなければ実際に、この世界なら確実かくじつにそうなったのであろうが、そういったあきらめの気持ちにこころ支配しはいされていた中での再会だ。


 たがいに涙し、再会を喜び合う姿すがたは、俺の涙腺るいせん強烈きょうれつ刺激しげきした!


 全員ぜんいんおくえるころには、俺のに……

 まわりはれてしまったのだった。



 ◇◇◇◇◆◇◆



 とらわれていた女性たちを無事ぶじおくとどけて、神殿前広場へと帰ってきた。


 自身に修復神術をほどこし、かがみで目や鼻は赤くなっていないか?

 目の周りが腫れていないか? を、念入ねんいりに確認してから、みんなが野営用やえいようのテントへと向かう。


 これからみんなを連れて中央神殿へと戻ろうと考えている。

 テントの中に入り、俺を待っていたみんなに、俺は明るい声で言う……


「さあ! みんな! それじゃぁ、中央神殿に戻るとするか!」




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