第0008話 ぶよぶよオーク野郎を成敗!

 目の前の光景……それはゆるしがたいものであった。


 白くぶよぶよに太ったオークが全裸ぜんら女性の前に立っているっ!

 女性は産婦人科の検診台けんしんだいのようなものに寝かされていた!!


 目の前では女性がオークに凌辱りょうじょくされて……

 いや! 今まさに凌辱されようか! というところだったのだ!


「てめぇ! なにしてやがるっ! その女性から離れろ!」


 さけんだ俺はすかさずおどろいているオークを"見えざる神の手"でつかみ、検診台けんしんだいの前から一番遠くはなれた、この部屋の入り口があるかべへとたたけた!


 グワシャ! ……ズルズルズル……


 オークは壁の上下じょうげなかほどの位置に背中からぶち当たると……

 そこからズルズルと壁に沿って落下した!


 ん? なんでオークがこんなところに? ……いや!? オークではない!?


 オークだとばっかり思っていたが、よく見るとオークではない!?

 オークそっくりではあるが人族の男だ!


 一見しただけでは、"ぶよぶよに太ったオーク" にしか見えない!?

 男は白目しろめをむいてのびている。 全裸ぜんら姿すがたは非常にみにくい……。


 おっと! オーク野郎のことよりも女性の安否あんぴを確認せねば!!


 一瞬、われわすれてしまったが、急いで女性の方を見る!


 オーク野郎の毒牙どくがにかけられそうだった?女性は、まだ少女のようだ!?


 彼女の両手は、検診台に拘束具こうそくぐのようなものでしばり付けられており、動かすことができないようにされている!?


 目はうつろで、薄笑うすわらいを浮かべた口からはヨダレがしたたり落ちており……

 その様子から、なんらかの薬物投与やくぶつとうようたがわれる!


 タオルケットを生成してから少女のもとへ行き……

 彼女の拘束こうそくいて、彼女の上にその新しく生成したタオルケットをかぶせた。


 ステータスを表示させて確認すると、やはり習慣性しゅうかんせい依存性いそんせいの高い薬物やくぶつ麻薬まやくのようなものが投与されていた!


 俺は自分が神なのに、そうでないことを神に願うような気持ちで……

 彼女が "最悪の性的暴行まで" 受けていないかを【魂の履歴】で確認する。


 俺がこの部屋に飛び込んできた時には大丈夫だったように見えたのだが、心配になったのだ。


 ………… ふぅっ! 危なかった!

 もう少し俺の到着が遅れたらと思うと……冷や汗が出てくる!


 さいわいなことに、彼女はヤツに "最後まではけがされてはいなかった" のだ!


 俺はふと、薬物による心神耗弱状態しんしんこうじゃくじょうたいであった彼女の【魂の履歴】が正確であるか不安に思い、念のためにぶよぶよオーク野郎の履歴も確認してみることにした。


 結果に俺は安堵あんどした!


 彼女は身体をで回されるという屈辱的くつじょくてきな性的暴行は受けていたが……

 オーク野郎の履歴においても、最後まではけがされていないことが確認できたからである!



 ねんのために、彼女の身体外部だけではなく、身体内部も浄化じょうかしておこう。

 蛇足だそくとなってしまうのだろうが一応、血液も浄化して薬物を排除はいじょしておくか……。


 血液を含む身体内外すべてを浄化してから、彼女に修復神術を使うことにする。

 修復神術で血液も浄化されるのだが、念には念を入れたのである。


「血液を含む、身体からだ内外ないがいすべてを完全浄化かんぜんじょうか! ……そして、完全修復!」


 別にコマンドを声に出す必要はないのだが……

 念じるだけよりも、なんとなく "しっくり" するのでついつい声に出してしまう。


 彼女は一瞬、あわい緑色をした半透明な光のベールに包まれて……

 その光のベールが消えると拘束こうそくされてできたと思われる内出血やこまかな傷がまたたなおる!


 念のためにステータスで確認してみると……

 なんと! 精神の異常状態までもが完全に回復している!



 その後、下着と毎度お馴染なじみのグレーのワンピースを生成して彼女に装着させた。

 彼女は現在、スヤスヤと寝息ねいきててねむっている。


 そこへ入り口のドアを蹴破けやぶってスケさんとカクさんが剣をかまえて飛び込んできた。


「シンさん! 大丈夫ですか!?」


「おお! スケさん、カクさん! なんとか間に合ったぜ。 お嬢ちゃんは無事だ。

 あ……壁の方は絶対に見るなよ。 目がけがれるからな……」


 見るなと言われると見てしまうのが人の "さが"!。

 スケさんもカクさんも入り口横の壁の方を見てしまう! ま、当然かぁ……。


「「きゃっ!」」


 ふたりは騎士とは思えぬ、かわいらしい声を上げた!


 をゐをゐおいおい! 手で顔はおおってはいるが、隙間すきまからチラチラのぞいているよぉ~。

 ははは、好奇心こうきしんにはてないよねぇ~。



 ふたりの様子に気を許した瞬間! 俺の身体が "ピリッ!" とした!?

 冬、ドアノブを触ろうとしてピリッとくる、あの静電気のような感じだった。


「ん? なんだ?」


「ば、ばかな! 俺の……俺の最大威力のサンダーボールが利かないなんて……

 あ、ありえねぇ!」


 意識を失っているものだとばかり思っていたオーク野郎が驚いている?

 どうやらヤツが攻撃魔法、サンダーボールを放ってきたらしい……。

 サンダーボールというのはボール状になったかみなりかたまりのようなもののようだ。


鬱陶うっとうしいなぁ~! ぶよぶよオーク野郎が! 静かに寝てろよ!

 ……サンダーボール!! 倍返しだ!!」


 ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 俺は最弱のサンダーボールをお返しした……つもりだったのだが……

 男は真っ黒になってしまい、ピクピクしている!?


 いかん! 10倍返しくらいになってしまったのか!? マズいなぁ~。

 あとでアマゾネス・オークの餌食えじきにしようと考えているので即座に修復神術をほどこす。


「ん……んん……」


 男の意識が回復したので "見えざる神の手" を使って生成したロープでグルグル巻きにしてやった!


 もちろんみにくはだかが見えないように "ふんどし" を装着そうちゃくさせた。

 そう! ふんどし一丁いっちょうだ! あと、ついでに "さるぐつわ" もはめておいた。


「シンさん、あのあたりから何か嫌なにおいがただよってきますわ!」


 カクさんが、少女の寝ている検診台に向かって右方向の壁の方を指さす。

 この部屋の入り口から見て右奥にある壁の方だ。


 俺はマップ画面を表示させた。

 すると壁の向こうには小部屋があり、中に複数の生命体反応が確認できた!


 かなり弱っている生命体反応もあるな……。


「カクさん! お手柄だ!」


「カクさん! スケさん! あの壁を調べてみてくれ!

 どうやら奥に小部屋があるようだ! そこに多数の生命体反応があるぞ!」


「「はい」」


 ぶよぶよオーク野郎は『んぐんぐ』と言っている。

 何か言いたそうだ……が放置ほうちだ!



「シンさん、来て下さい。大変です」


 壁の一部がかくとびらになっている!?

 その扉の向こうに我々が見たものは……言語げんごぜっするものであった!


 犬のように鎖付くさりつき首輪くびわをつけられた全裸ぜんらの女性が、何人も横たわっているのだ!

 ん? 少年か!? どうやら少年もいるようだ!


 鼻をおおって顔をそむけたくなるくらいのひど悪臭あくしゅうがしている。


「完全浄化! そして……完全修復!」


 この小部屋を含むすべてに完全浄化をほどこし……

 すかさず、女性たち、少年たち全員に完全修復を施す!


 彼女たちも薬物を投与されていたようだが、完全浄化と完全修復により回復した!


 先ほどまではうつろな目をしていた彼女等は……

 みんな、スヤスヤと寝息を立てて眠りだす。


拘束解除こうそくかいじょ!」


 彼女たちを拘束こうそくしていた鎖付くさりつきの首輪を外して……

 女性には下着と毎度お馴染なじみのワンピースを!

 少年には下着とTシャツ、ズボンを! それぞれに装着させる。


 次に "見えざる神の手" を使って、彼女等を小部屋から、俺が最初に飛び込んだ部屋へと移動させ……床に大型のマットレスを作成してそこへ寝かせてやった。


 シオリに念話を送る……


『シオリちゃん、聞こえるか? そちらはどうだ? 異常はないか?』

『はい。何事も起きていません。 みんな無事です』


『そうか、よかった! あのさぁ……

 これからそっちに女性数名と少年数名を転送するから、ベッドを生成して、そこに寝かせておいてくんねぇかな?』


『はい。承知しました。 ベッドは何床なんしょう必要でしょうか?』


『えーっと……そうだな10しょうくらいかな?』

『分かりました。 すぐに用意してお待ちしております』


『それじゃぁ、5分後にそちらへ転送するから、よろしくな』

『はい』


 まぁ~シオリのことだから、ベッドの準備には5分もあれば充分じゅうぶんだろう……。


「スケさん、カクさん、5分後にこの娘さんたちを礼拝堂らいはいどうへ転送する。

 お前さんたちは外にいる男女に事情を聞いて、もし、ここにいる娘さんの保護者だったら礼拝堂まで連れてってくんねぇかな」


「「うけたまわりました」」


「俺は今からこのぶよぶよオーク野郎を尋問じんもんして……

 その後アマゾネス・オークにこいつを送りつけてから礼拝堂に戻るから、みんなにそう伝えておいてくれ!」


「「はい。 承知しました」」



 その後、スケさんとカクさんと一緒に部屋の中を調べ、他には仕掛しかけがないことを確認している内に5分は経過した。


『それじゃシオリちゃん、転送を開始する。ベッドは用意できているな?』

『はい。10床を礼拝堂の入り口付近と通路に配置しました』


『ありがとう……よし! マップで確認できた。

 それじゃぁ、ベッドの上に、順にひとりずつ転送していくことにする』


 念話を終え、ぶよぶよオーク野郎に監禁されていた女性たちを順に転送し始める。

 ひとりずつ、シオリが用意してくれたベッドの上に横たえるように転送した。


『どうだ、シオリちゃん。うまくベッドに横たわるように転送できているか?』

『はい。バッチグーです!』


『し、シオリちゃん? お前さんも、もしかして……

 ソリテアの件を……聞いちゃった?』

『はい! バッチグーです!』


『あちゃぁ~』


 バッチグーが今年の神殿の流行語大賞に選ばれそうだなぁ……とほほ。



 すべての被害者を転送し終え、スケさん、カクさん、それに外にいた男女ふたりを礼拝堂へと向かわせると、俺はぶよぶよオーク野郎の尋問じんもんに取りかかる。


「おい、てめぇは統括神官とうかつしんかんの"カルメデオ・ストリドム"じゃねぇよな?

 てめぇはいったい誰だ?」


「俺はこの神殿の統括神官とうかつしんかん"カルメデオ・ストリドム"だ!

 貴様きさまはなにを言っているんだ!」


「ほぉう? しらるつもりかぁ? ケーニッヒさんよぉ!?」


 男が "ギクッ!" とする。

 わざわざ本人に聞かなくても、俺には誰だかはちゃんと分かるんだけどね……。


「な、ななな、なにを寝ぼけたことを言っているのだ!

 そ、それよりも! お前のせいでけがばらいの儀式が失敗しただろうが!

 どうしてくれる!」


「なるほどなぁ……てめぇは盗賊のかしらか?

 しかも、ガランの町から指名手配しめいてはいされているよな?」


 また男が "ギクッ!" とした。

 すでにこいつの【魂の履歴】ですべてを把握済はあくずみだ!


「し、しらん、しらん! 何かの間違いだ! 俺を今すぐ解放しろ!

 さもないと、神のばちがあたるぞ!」


「はははっ! 笑っちゃうなぁ……おい! 神官なら知っているだろう!?

 俺の眉間みけんの "印" をよぉ~く見て見ろ!」


 男は "きょとん?" としている。 ダメだこりゃ。


「これが分からねぇのかぁ? ははは。 馬脚ばきゃくあらわしたなぁ!

 この金色に光り輝く印が何か分からない時点で、でめぇはアウトだ!

 神殿関係者じゃねぇことを白状はくじょうしたようなもんだぜ!?」


「そ、そそそ、そんなもんが何だって言うんだ!?」


「これかぁ? これはなぁ、神の "しるし" ってんだよ!

 つまりなぁ……この俺が "神" ってわけだ!

 だ・か・らぁ~、ばちがあたるのは……罰を受けるのは、てめぇなんだよっ!」


 ぎゃあぁぁぁぁぁあ!!


 俺は言い終えると同時に神術でケーニッヒの四肢しし粉砕ふんさいした!


 男が激痛げきつうえきれず気を失ったので四肢ししの修復を行い、"見えざる神の手"でごく軽く、男のほおって無理矢理意識を取り戻させる。


 ごく軽くったのは、この男の頭を吹っ飛ばさないためだ。


「さぁ~ごまかしても無駄だ! 大人しく白状はくじょうしろや!」


 盗賊のかしら、ケーニッヒはあらいざらい白状はくじょうした。


 といっても、途中で何度か悪事あくじをごまかそうとしたんだが……


 【魂の履歴】で確認済の俺はヤツがうそをつくと、

 手をじゃんけんの "ちょき" の形にしてヤツの両目を"かる~く"突っついたり……

 耳を "ぎゅっ!" と "かる~く" 引っ張ったり……

 鼻を "むぎゅっ!" と "かる~く" まんだり……してやったのだ!


 う、うそじゃないぞ! "かる~く"だ!


 ヤツの心をへしるくらいに "軽く" やっただけだ。

 なんか色々顔のパーツが "取れちゃったり" したけどな……は・は・は…。


 もちろん、"取れちゃっても" ちゃんと毎回修復をほどこしてやったぞ!

 えず……人道的じんどうてきだろう?


 でも、治療を施した本当の理由は……

 アマゾネス・オークのにえにするのに "キズモノ" を送りたくなかっただけなんだけど……な。


 え? どこが人道的なんだ! だって? あ・は・は・は・は……。

 えーと、その話は横に置いておいてぇ、ヤツが白状した内容をまとめると……。


 盗賊討伐とうばつにより部下をすべて失い、ひとりで逃げていたこの男は、この町へと続く街道の途中でだおれになる。


 コイツは悪運あくうんが強いのか、ちょうどそこへ、ここ、ノルムの神殿に統括神官として赴任ふにんする途中の"カルメデオ・ストリドム"が通りがかり……

 彼によってコイツは命を救われたのだ。


 だがヤツはその恩義おんぎも忘れて、命の恩人おんじんの"カルメデオ・ストリドム"を殺害さつがいし……

 しかも、あろう事か、彼とすりわったというのだ! ……ったく!


 本物の統括神官の遺体は、魔物が多く出現する森に放置ほうちしたらしい。


 それは今からおよそ3ヶ月前のことである。

 であるならば、もう蘇生そせいはできない……。


 ケーニッヒは、何食なにくわぬかおでこの町の神殿にもぐみ……

 "統括神官"という身分にかくれて悪事あくじかさつづけてきた。


 たちが悪いのは、コイツは主に凶悪きょうあく悪質あくしつ性犯罪せいはんざいかえしてきたってことだ!


 コイツの手口てぐち巧妙こうみょうで……

 街を歩いていて、自分好じぶんごのみの女性や少年を見つけると、まずは言葉巧ことばたくみに近づいてなんだかんだと理由をつけて麻薬まやくを飲ませて立ち去る。 状態異常を引き起こさせるためだ!


 次にコイツは、麻薬を飲まされて異常行動をとるようになった女性や、少年を心配した家族、縁者えんじゃが神殿に相談するように仕向しむける。


 目をつけていた "獲物" が相談をしに神殿をおとずれると恩着おんきせがましく……、


『統括神官の私は、普段ふだん診察しんさつを行わないんだがなぁ……

 今回だけは "特別に!" 私みずからがしんぜよう!』


 と、えらそうに言ってありがたがらせ、被害者である"獲物"の身体を品定めしながら診察をし……『魂がけがれている』と断定する!


 そして『けがばらいの儀式』をするようにと強要きょうようするのだ!


 最後は『けがばらいの儀式』をするとしょうして女性や少年を凌辱りょうじょくし……

 特にヤツが気に入った被害者は、手元に置いておくために更に麻薬を投与して、


『一度の治療では完治しないから、入院治療が必要だ』


 といつわって家族を無理矢理納得させて、被害者を小部屋に監禁かんきんして、性奴隷せいどれいとして虐待し続けてきたのだ!


 とんでもないクソクズゲス野郎だ!


 また、金貨25枚を寄進きしんした神殿騎士を目指す女性冒険者等には、『身体検査』としょうしていかがわしい行為をし……

 特にヤツが気に入った者には更に『検査は合格だから、身体浄化儀式しんたいじょうかぎしきおこなう』としょうして、先の手口と同様に薬漬けにした上で凌辱し……その後は他の被害者たちと同様の目にわされたのだ。


 なお、今回俺たちが助け出した者たちが被害者のすべてであった。

 死んだものがいなかったのが幸い……と言っていいのか……。


 本当にむなくそが悪くなる!



 なにも考えずに全被害者に対して "完全修復" をほどこしたので、それぞれにとって、良かったのかどうかは別にして、女性たちはみんな "生娘きむすめ状態" に戻っている。


 麻薬まやくによる "意識混濁いしきこんだく状態" で凌辱行為りょうじょくこういがなされたことから……

 ひょっとすると凌辱りょうじょくされた苦痛や屈辱的くつじょくてきな思いをおぼえていない可能性もある。


 せめて、心のダメージが軽いといいのだが……俺は心底そう思った。

 スケさんのケースを見ているから被害者たちのことがとても心配になる。


 もしも彼女、彼らがえられないほどつらいというのなら、記憶を消してやろうと思うのであった。



 しかし……シェリーたちがこの話を聞いたら真っ青になるだろうな……。


 コイツも本当に許せないクソ野郎だ!

 この世界に来てからは、なんかクソ野郎ばかりに出会うな!


 本当の統括神官 "カルメデオ・ストリドム" の遺体は、"今ある場所" が分からない上に、たとえ分かったとしても3ヶ月も前では、既に"輪廻転生りんねてんしょうシステム"に送られてしまっているから、蘇生そせいができない。


 せめて良き転生ができるようにと、"輪廻転生システム"に対して"所見しょけん"を送信しておこうと思う。


 シオリに協力してもらって調べると、彼、 "カルメデオ・ストリドム" の身内みうちは、14歳になる "ひとり娘" だけであった。


 彼女は中央神殿で神官見習いをしている。


 シオリと相談して、"カルメデオ・ストリドム"の娘には、俺たちが神殿に到着してから彼の死をげることにした。


 また、"カルメデオ・ストリドム"を聖人せいじんとして認定することに決めて、シオリにも了承りょうしょうを得た。


 彼の娘にも、【魂の色】を見た上でだが、神子みこたちほどではないにしても何らかの加護かご付与ふよしようと思っている。


 この世界でも "いい人" ってのは早死はやじにしちまうんだな……

 しかも無残むざんに殺されてしまうとは……な。 せつないな……。



 ◇◇◇◇◇◇◇



『もしもし、クイーン! 聞こえるか?』

『はい、もしもし! 上様!』


『おっ! いい感じで"もしもし"が使えてるじゃねぇか? いいねぇ~!』

『きょ、恐縮です』


『あ~それでな、今回もクソ野郎1名をそっちへ送りてぇんだが…いいかなぁ?』

『はい。ありがとうございます! みんなも喜びます!』


『もうちょっとしたら、例によって広場の方へ転送するから頼むな!』

『はい。お待ちしております』


「さて……ケーニッヒ! てめぇをアマゾネス・オークへのにえけいしょする!

 抵抗ていこう無意味むいみだ!!

 凌辱りょうじょくされるがわの人間の気持ちを、た~っぷりと味わいながら……

 生きたまま食われて死んでこい!! 以上だ!」


「ま、まま待ってくれ! 頼むよぉ。 お願いだ。

 せ、せめて……せめて裁判を受けさせてもらえねぇか?」


「てめぇのつみ明白めいはくだ! 裁判のために無駄な経費けいひは使えねぇなぁ!

 それに……てめぇは『殺さないでくれ』と懇願こんがんした者も、なさ容赦ようしゃなく殺しているよなぁ? ちゃんと調べて分かっているんだ!」


「そんなことはないぜ! 命乞いのちごいしたヤツは殺さねぇようにしてきた……

 ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!」


 魂の履歴を見て俺は知っている!

 今ヤツが言ったことがうそっぱちであることを!


 ケーニッヒの鼻を "かる~く"まんでひねってやった!

 "かる~く" だ! "かる~く"! あれ? なんか取れちゃったな……。


「まだ分からねぇのか? 俺は神だ! てめぇのうそは通じねぇ!」


 俺はヤツの鼻を修復してやる。

 だってさぁ、アマゾネス・オークには、新鮮で "イキ" のいい "おもちゃ" を上げたいからなぁ!


「それじゃあなっ!

 凌辱りょうじょくされる者、殺される者の苦しみを、たっぷりと味わってくるんだぜ!

 ばっははーい! ……転送!!」


 ケーニッヒは泣きながら消えた。 が……


 しばらくするとアマゾネス・オーク・クイーンから念話ねんわが届く……


『あーもしもし! クイーン? どうした?』

『あ、もしもし上様! 大変申し訳ございません!』


『どうしたんだ?』

『はい……今転送されてきた男なんですがぁ……』


『どうしたぁ? 歯切れが悪いなぁ~。 怒らねぇから話してみろ』


『はい。転送されてきた男を"ぶよぶよの体をした気持ち悪いオーク"が襲ってきたと勘違かんちがいした部下が、あやまって殺してしまいました』


『へ?……ああ、なるほどぉ、そうだよなぁ~、オークそっくりだったもんなぁ~。

 そりゃぁ、しょうがないわなぁ。

 じゃぁ、死体はアンデッドにならねぇようにそっちで処分してくれねぇか?』


『はい。承知しました。 本当に申し訳ありませんでした』


『いや、いいよ。 気にするな。 それに……

 あれだけオークに似ていると気持ち悪くて、お前さんたちだって相手あいてをしたくねぇだろうしな?』


『まあ……確かにそうですね。 でも本当にすみませんでした』


『いいって! いいって! 気にするなよ! 俺とお前さんの仲じゃねぇか!

 これからも色々面倒めんどうをかけるかも知んねぇが、よろしく頼むな!』


『はい! 喜んで!』


『それじゃぁ! またな!』

『はい。 失礼します』


 そうだよなぁ~、あそこまでオークにていると間違えちゃうよなぁ~。

 しかも、白くてぶよぶよでキモいオークだから、速攻そっこうで殺したくなるわな……。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 礼拝堂らいはいどうに戻ると、被害者の娘、少年たちは目を覚ましていた。


 やはり薬のせいなのか、だれも凌辱りょうじょくされたことを覚えていなかった。

 それがせめてもの救いだ。



 神殿騎士希望の女性の3名と今回最初に助け出した商家の娘さん親子以外、転移でそれぞれの家へと送り届けてきた。


 今回の犯罪被害については、後で神殿の方から説明に行かせることにしてある。


 神殿騎士希望の女性たちが望んだので、彼女たちを一緒に中央神殿まで連れて行くことにした。 彼女たちは神都で神殿騎士試験を受けるつもりらしい。


 なお、彼女たちには、ケーニッヒがため込んでいた財宝からそれぞれ金貨30枚を与えることにした。 彼女たち自身が支払った25枚の金貨プラス、慰藉いしゃの気持ちを込めた金貨5枚、計30枚である。


 彼女たちもすごい美人だ! この世界は美人とクソ野郎が多いような気がする。

 魂の色はスカイブルーではないが、かなり綺麗きれいな青色である。


 彼女たちが無事に試験を通過つうかして神殿騎士になれるといいのだが……。


 スケさんは彼女たち神殿騎士希望者にとても優しく接している。

 気にかけているようだ。


 彼女のつらい体験が……同じような目にった受験希望者たちに対してそうさせているのかも知れない。



 危うく最悪の被害はまぬかれた商家の娘さん親子には、統括神官が実はニセ者で……

 元は盗賊の頭だったこと等、事件のあらましを説明した。


 危機一髪であったことを知って、一瞬、真っ青になったが、その後3人は涙を流しながら娘が無事であったことを喜び合ったのだった。


「神様……ありがとうございました!

 娘をお救い下さり……なんとお礼を言ったら良いのか……。

 ありがとうございます、ありがとうございます……」


 父親が何度も何度も礼を言う。


「ああ、気にするな。 とにかく無事で良かったぜ。

 娘さんはクソ野郎に "乱暴" はされていねぇから安心しな!

 薬も完全に抜けたからな、もうおかしくなることもねぇぞ」


「「ありがとうございます……ううう」」


 今度は母親と娘が礼を言う。


 正確に言えば乱暴はされている。 最後まではけがされていないだけだ。


 身体をで回されるという屈辱的くつじょくてき性的暴行せいてきぼうこうの被害にはっているのだが……

 娘さんには記憶はないし、こまかく言うことでもあるまい……。


「それじゃぁ、家まで送ってやろう。 場所を教えてくれ」


 彼等の家の場所を確認してから、彼等を転送で送った。

 彼等の家は結構な豪邸であった。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 神殿の礼拝堂に戻ると、そこには、シェリーたち冒険者がギルドへの報告をえて待っていた。


「おう! お疲れ! それより統括神官のことは聞いたか?」


「「「「はい……」」」」


 そう言うなり4人は真っ青になってガタガタふるえている。


「びっくりしただろう? お前さんたちもひょっとすると、あのオーク野郎の餌食になってたかも知れねぇんだぜ! みんなすげぇ美人なんだからな!」


「「「「すげぇ美人!?……」」」」


 ん? 4人はほおめて "もじもじ" しだしたぞ?

 美人という言葉に反応しているのか?



 しばらく4人と雑談していると、ドワーフの女性、ミューイが突然話題を変えた。


「シンさん、聞いて下さいよぉ~。 ラヴちゃんたら……」

「だめぇ~! 言わないでぇ~! おねがーい!」


 ミューイは、なにやらラヴの秘密を暴露ばくろしようとしている?

 それをラヴが必死で口止めしようとしているようだ。


「なんだぁ? なにがあったんだ? 誰かの首でも引きちぎっちまったか?」


「「「「……!」」」」


「えっ? もしかして本当に誰かを殺したのか?」

「いえ……実は……」


 観念かんねんしたのか、ラヴが何があったのかを語り出した。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 彼女等の話によると……


 ギルドへ魔物の森と魔物あふれの件の調査報告をえ、彼女たちはギルドの建物から出て神殿への近道となる、人通ひとどおりの少ない裏道うらみちに入ったそうだ。


 すると、そのタイミングを見計みはからったようにひとりの男がからんできたらしい。


「あれぇ? おめぇらだけか? ダミアーノはどうした?

 ん? 隷従れいじゅう首輪くびわもしてねぇじゃねぇか?

 まさか! てめぇらダミアーノを殺したのか!?」


「ダミアーノって誰です? それにあなたのことも私たちは知りませんが?

 あなたはいったい誰なんですか? 言いがかりをつけるのはよして下さい!!」


 人族のラヴが言った。


「なんだとぉ! このアマぁ! ぶっ殺すぞ!

 ダミアーノのヤツめ、えらそうなことを言ってやがったが失敗しやがったな!

 ゲヘヘ……ならばこの俺様がお前らをいただくことにするぜ!

 ヤツの代わりに、おめぇらを俺の性奴隷にしてやる! ガハハハハッ!」


「あんた! ひょっとしてあたしたちを襲った男の仲間なのか?

 だったら衛兵に突き出してやる!」


 ドワーフのミューイが言う。


「やれるもんならやってみな!

 女のおめぇらが俺様に勝てるとでも思っているのか?

 こう見えて俺はランクBの冒険者だぜ!?」


 男はアイテムボックスから隷従れいじゅう首輪くびわを取り出して……

 4人の中で一番弱そうに見える "ラヴ" の右腕を右手でつかみ、自分の方に引き寄せようとする!


 昨日、ダミアーノと呼ばれている男が彼女たちにしたように、ラヴを人質ひとじちにして、みんなに隷従の首輪をめさせようとしたらしい。


『まったくどいつもこいつも……クソゲス野郎の考えることは同じなんだな!?』


 だが! ラヴはびくともしない!


 昨日のことが脳裏のうりぎり恐怖を感じたラヴは体を回転させながら、右腕をつかんでいる男の右手をうまく外すと、両手で男を突き飛ばした。


 ………………ズガガガガガガガーーーン!!!


 男は空中を吹っ飛んで行き、道の突き当たりにある民家の壁にぶち当たった!

 だが! 勢いはおさまらず、男は壁を突きやぶって飛んで行ってしまったらしい。


「「「「……」」」」


 その光景を見て4人は固まってしまった。

 すると彼女等の後ろから不意ふいに声がかけられる?


「君たち、大丈夫か? 怪我はないか?」

「「「「は、はい! 大丈夫です!」」」」


「あー、私は衛兵だが、今のはちゃんと見ていたからな。君たちにはがないことは私が証明する。 だから安心しなさい」


 どうやら通りがかりの人が、女性が人相にんそうの悪い男にからまれていると、衛兵えいへいしょまで知らせたらしい。


 衛兵が現場にけつけると、ちょうどラヴが腕をつかまれている場面だったそうだ。


 彼女たちは安堵あんどした。


 幸いかどうかは分からないが、4人にからんできた男、ケリムも大怪我おおけがはしたものの命には別状べつじょうがなく、治療のためにこの神殿に運ばれてきたということだった。



 ◇◇◇◇◆◇◇



「まぁ、しょうがないわな! 咄嗟とっさのことだしなぁ……

 大事な大事なお前さんたちがみんな無事で良かったぜ! ラヴ! 良くやった!」


「は・は・は・は……」


「さてとケリムというヤツをらしめるとするか!」

「「「「えっ!?」」」」


「そりゃぁそうだろう?

 大切な大切なお前さんたちを性奴隷にしようとしたんだぜ?

 それをこの俺が許せると思うか? 思えねぇだろう?」


「「「「……はぁ……」」」」


「そいつはどこにいる?」


「礼拝堂左奥にある扉の向こうが廊下になっているんですが……

 その一番手前の診察室で、神官様の治療を受けているそうです」


「ん! 分かった! ちょっと行ってくるわ!」


 診察室に入ると年配の女性神官がケリムの治療を行っているところであった。

 やはり想像した通り、ケリムのカーソルの色はほとんど黒に近い赤色であった。


 クソ野郎確定である!


「お嬢さん、ちょっと席を外してくんねぇかな?」

「は、はは、はい! 上様」

「悪ぃな!」


「おい! クソ野郎!

 てめぇよくも俺の大事な女の子たちを手込てごめにしようとしてくれたな?

 覚悟かくごはできているんだろうな!」


「なんだてめぇ! クソガキが偉そうに! 覚悟だとぉ? やれるもんなら……」


四肢粉砕ししふんさい!」


 ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


「修復!」


「はぁはぁはぁ……な、な、ナニモンだてめぇは!? 目的はなんだ!?」

「俺か? 俺はな……この世界の神だ! てめぇを処刑しょけいしに来てやったぜ」


「ふざけたことを……ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 俺は"見えざる神の手"を"ちょき"の形にして、男の両目を"かる~く"突っついてやった。 "かる~く" だ!


 目からは血の涙を流している?

 か、"かる~く" ちょんと突っついただけだ! う、うそじゃないぞ!


 しばら放置ほうちしてから修復してやる。


「お、おお、俺が悪かった。 あやまるからゆるしてくれよぉ……

 おめぇの女たちだとは知らなかったんだ。 頼む! 許してくれよぉ」


「や~なこった! てめぇ、他にもいっぱい女性を犯して殺してるだろう?

 そんなヤツを俺が許すとでも思うのか? バッカじゃねぇの?」


「た、頼む、心を入れ替えるからさぁ、見逃してくれよぉ~。 頼むよぉ~」


「てめぇ……3ヶ月程前にも、『助けてくれ』と懇願こんがんしている女性を無理矢理犯して殺しているよなぁ? てめぇは、懇願する女性を助けなかったじゃねぇか?」


 ケリムは "ギクッ!" とする。


「そんなクソ野郎のてめぇが、都合つごう良く助けてもらえるとでも思っているのか?

 あめぇなぁ~。 ちゃんちゃらおかしいぜ! あ~笑える!」


「い、いや……あ、あのときは殺すつもりはなかったんだ! ちょいと首を絞めたらおっんじまったんだよ! 俺は悪くねぇ! ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!」


 胸くそが悪くなってきたんで、耳を "かる~く" まんでひねり……

 鼻を "かる~く" 摘まんで引っ張ってやった!


 なんか "ブチッ" という音がして血が吹き出てきたんだが……

 "かる~く" 摘まんで動かしただけなのだ!


 そして、またしばらく放置してから修復してやった。



「判決を言い渡す! てめぇをアマゾネス・オークへのにえの刑に処す!

 抵抗は無意味だ!

 凌辱りょうじょくされる者の苦しみをた~っぷりと味わいながら、生きたまま喰われて死んでこい! これは決定事項だ! 以上!」


『もしもーし! クイーン! 今ちょっといいか?』

『はい、上様』


『新しいクズ野郎が手に入ったんで、今からそっちへ送ろうと思うが大丈夫か?』

『はい。ありがとうございます! 今度は誤って殺さないように気をつけます!』


『今度のヤツもな、所謂いわゆる女のてきってヤツだ。

 容赦ようしゃらねぇ! たっぷりと、かわいがってやんな!

 で、楽しんだあとは喰っちまってもいいからな!

 そんでもってな、いつものようにな!

 アンデッドだけにはならねぇように、後片付けだけは気ぃつけてくれよ?』


『はい。 承知しました!

 それでは、送られてくるのをお待ちしておりますので、いつでもどうぞ!』


『おう! 今からすぐそっちへ転送する! ……じゃぁ頼んだよ』

『はい』


「じゃぁな、クソ野郎! ばっははーい! ……転送!」


 クソ野郎、ケリムは真っ青な顔をしながら消えた。



 ◇◇◇◇◆◇◆



 クソ野郎を始末した後、俺は礼拝堂へ戻ろうと診察室から廊下へ出た。

 すると、そこにはどこかで見た衛兵えいへいが立っていた。


「お前さんは検問所で『伝染病の恐れがある子供は町には入れられない』と拒否していた門衛もんえいか?」


「はい。そうです」


「あっ、そうか、お前さんなのか? ウチの大事な女の子たちがクソ野郎にからまれているところに駆けつけてくれたのは?」


「はい。そうです」


「ありがとうな!

 お前さんの御蔭おかげであの子らの正当防衛が立証されたんだってな。 礼を言うぜ」


「いえ、私は事実を言ったまでです」


「まぁ、たとえあの子たちが有罪だと言われても、俺は絶対にあの子たちを最後まで守り抜くけどな。 いちゃもんを付けてくるヤツらは皆殺みなごろしにしてやる!

 この国をこの惑星上から消し去ってでもあの子たちを守り抜くぜ! ははは」


 衛兵の顔は真っ青になっている。


 この星に帰ってきて?初めて、クソ野郎じゃないまともな男に出会った気がするなぁ……。 この男の魂の色は綺麗きれいな青色をしている。


「それで俺に何か用か?」


「はい。ケリムをらしめるというお言葉を耳して……

 ヤツの処罰しょばつは我々にまかせていただけないかと頼みに来たんですが……」


「悪ぃな。 ヤツは俺の判断でアマゾネス・オークのにえにしたぜ。

 凶悪犯罪を、したおしてきたようなヤツだからな」


「恐れながら…そんな人間でもここが法治国家ほうちこっかである以上は、ちゃんとほうのっとって処罰しょばつされるべきだと思います」


「まぁ、正論だな。で、ヤツはほうとやらでさばいた場合に、どうばっせられると思う?」

「今回の件ですと……科料処分かりょうしょぶんで金貨50枚というところでしょうか」


「で、罰金とってヤツを解放しちまうのか?

 じゃぁ、ヤツが今までさんざんヤリらかしてきた凶悪犯罪はおとがしか?」


「証拠が集められませんので……くやしいですけど立件りっけんできないでしょう……」


 門衛もんえいの男はくやしそうにくちびるむ……。


わりぃヤツがのさばり放題ほうだいの、たいした法治国家ほうちこっかだなぁ?

 "悪人放置国家あくにんほうちこっか" の間違いじゃねぇのか?」


「……」


「俺は正直もんがバカを見るような世界にはしたくねぇ!

 せめて、俺の目に入ったクソ野郎くらいは、キッチリと! 落とし前を付けてやらねぇとな! 俺には誰がどんな罪を犯してきたかが一目で分かる力があるからな」


「でも……」


「お前さんさぁ? 最愛の人が……そうだな、たとえばお前さんの恋人が、ケリムのような男に凌辱りょうじょくされた上に、性奴隷せいどれいにされたらどうする?」


 門衛もんえいの男は苦虫にがむしをかみつぶしたような顔をする。


「で、その恋人が、ボロボロになるまでもてあそばれ、なぶられたに殺されて……

 証拠が出ねぇように死体を魔物たちに喰わせられたら? どうする?」


「……」


「しかも、証拠不十分で、法律ではさばけねぇからと無罪放免むざいほうめんになってもお前さんは、

 『はい。分かりました』と納得できるというのか?

 ……だとしたら、たいしたもんだがなぁ? どうだ?」


「うっ……そ、それは……」


「あのな、俺はこの世界の神だぜ?

 俺がルールだ! 俺は俺が正しいと思ったことをやる!

 お前さんたち人間ごときには邪魔じゃまさせねぇ!

 お前さんたちの手にあまるような悪を、俺はらしめてやるつもりだぜ。

 文句は言わせねぇ! 分かるか?」


「そ、それは神のエゴイズムじゃないですか?」


「ほう? お前さんは勇気があるなぁ?

 俺を前にして、この俺を利己主義りこしゅぎと批判するのか?

 ふっ。だがなぁ……神なんてもんは、所詮しょせんそんなもんだぜ? 利己的りこてきなもんだ。

 そして、そうすることが許される存在だ!」


「あなたが善悪ぜんあくの判断をあやまったらどうなるんですか?」


「その発想がすでにおかしい! 俺が "ぜん" と判断したら、それが "善" だ!

 たとえお前さんたちにとっては "あく" であろうがな!」


「……」


「ところで……お前さんが言う "ぜん" ってなんだ? 説明できるのか?

 いや、説明じゃ足りん、明確に定義付ていぎづけできるんだろうな?」


「善とは道徳どうとく沿ったおこないじゃないでしょうか?」


「じゃぁ道徳ってなんだ?」


「……みんなが遵守じゅんしゅすべき、社会生活の秩序ちつじょたもつために必要となる……

 行為の規準じゃないでしょうか」


「ややこしいなぁ……

 で、それは少なくともこの惑星内では普遍的ふへんてきとなっていると思うのか?

 この惑星のすべてのヒューマノイド種族についてまるんだろうな?

 規準きじゅんがぶれてちゃぁダメだからなぁ?

 じゃねぇと、場所や種族によって"善"の意味が異なる可能性が出てくるからな?」


普遍的ふへんてきだと思います」


「ほほぅ? ヒューマノイド種族の国家でも……

 奴隷制度のある国と、奴隷制度を認めねぇ国とがあるがそれはどうだ?

 お前さんの言う道徳ってのが、どこの国にでも通用すると……

 同じだと言い切れるのか?」


「それは……異なっていると思います。 国が違うんですから」


「じゃぁ、この惑星全体を管理している俺が、善悪の判断を誤ったかどうかを、どうやって見極めるんだ? 普遍的、絶対的基準も無しに誰がそれを判断できるんだ?」


「そ、それは……」


道徳どうとくだの、常識じょうしきだのってモンは、確かなようで、実はいい加減なモンだぜ。

 まぁ、じっくりと考えてみるこったなぁ……」


「……」


「だがな! 俺は誰がなんと言おうが、我が道を行くけどな!

 抵抗は無意味だ! 干渉かんしょうも無意味だ! ははは。じゃあな!」


 まぁ、言いたいことは分からないでもないんだけどねぇ……

 そもそも、神と人間を同列どうれつに見ているところがなぁ……。


 男はまだ何か言いたそうだったが、俺は無視して礼拝堂にいる仲間たちのもとへと戻る。



 ◇◇◇◇◆◆◇



 今回の事件があって、これで中央神殿へ一緒に向かうのは、計18名となった。


 神子が7人に神殿騎士が2人……

 魔物あふれ事件で仲間になった冒険者で神殿騎士見習いでもある4人に、今回新たに加わった神殿騎士受験生が3人。 そして、俺とシオリの"計18人"である。


「それにしてもにぎやかになったなぁ……」


「はい。 しかもシンさんをのぞいて "すべてが女性" ですわよ?

 ハーレムですわね? 男のロマンですわね? うふふ」


 俺のつぶやきにヘルガが乗っかってきた。


「は・は・は」


 俺はなにも言い返せなくて力なく笑うしかなかった。



「さあ~、それでは中央神殿に転移することにするか?

 みんなここを出て、神殿前の広場に集まってくれ!」


 みんなと一緒に神殿入り口から表へ出た瞬間、俺に助けを求める声が……

 "強い思い" が頭の中に流れ込んできた!


「神ちゃま、たすけて……

 妹がころされちゃうの、ピンチなの…たすけてなの……お願いなの……」




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