第37話
少年は凹んでいた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
後悔と羞恥、そして無力感に全身が支配された末に、演習で荒れた唇から情け無い呻き声を漏らしていた。
「真木さん、雪村さん……」
仲間だった二人は今、このバスに乗っていない。行きも帰りも座席は同じ筈なのだが、どうもこれには理由があるらしい。
一週間にも及ぶサバイバル演習が終わり、今は帰りのバスの中。斎藤の隣だけでなく、席がまばらに空いている。
幸い死者が出なかったものの、数多くの重軽傷者を出した今回の演習。怪我の程度により、バスでの移動が困難と判断された生徒は少なくなく、参加者の約三割が既に、医療科病棟へ運び込まれた。
その中には、疲労と怪我の癒えきらぬ中の強行軍によってズタボロだった、真木と雪村も含まれている。
「はぁ……」
酷く重い溜息が膝に落下する。
戦闘では守られてばかりで、肝心の医療魔術も半人前。その上錯乱して足を引っ張る始末。これで凹むなという方がどうかしてるだろうーー
というのが彼の認識である。自己評価が低いのか、理想が高すぎるのか。こっそり見ていた明石としては、
「いや、前線出過ぎ。囮なんてそんなリスキーな……待て待てなんで縫合使わずに塞げるんだよ」
と、冷や冷やさせる程度には貢献していたわけだが。
「縫合さえ出来れば……」
「なーにをへこたれてんの?」
「ゔぇっ!?」
車窓から流れる景色に身を投げ打つというぞっとしない想像をしていたら、耳を何かがひゅっ……と擽った。
驚き身を跳ねる彼の横に座ったのは、ここにいる筈のない少女……明石だった。
「そんなびっくりするー?傷つくな〜」
「いや、お前別のバスの筈だろ!?」
というか、別の演習場にいた筈なのに、何故このバスにいるのかまるでわからない。一人で来たのか?それとも誰か巻き込んで……?
「そんな細かいこといいって。私は斎ちゃんと、楽しいおしゃべりがしたいんだよ」
足をぶらぶらさせて子どものように甘えてくる彼女に、しかし斎藤は慣れてるのかそっけない。
「そんないきなりすべらない話振られてもストックないよ」
「違う違う。痛い話とか、絶望した話とか、後悔した話とか。そういうの聞きたいのよ」
「たまに悪魔みたいなこと言うよなお前」
慰めるのか落ち込ませるのかどっちかにしてほしい。内容の高低差に、感情が置いてけぼりをくらう。
「まーへこたれるのもわかるよ?本当は男の子なのに、まーったくバレなかったもんね」
「あぁぁぁそれもあったぁぁぁぁぁ」
「あー、忘れてたのね。ごめん」
次から次へと、落ち込む要素が多すぎてメンタル回復の見込みがまるで立たない。忙しいやつである。
「で?ホントのところは?」
「………………」
「特訓に付き合ったげたのに、冷たくはないかな〜?」
「…………それを言われると痛い」
なんだかんだで、あの特訓のお陰で救われた場面は多くあった。明石には、返さなきゃいけない恩がある。
「色々あるんだけどさ」
「いいよ。ぜーんぶ聞かせて」
スッと細められた目が、まるで母親のように優しく見えて。
ぽつり、ぽつりと、話し始めていた。
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