第3話 空城と桜

 初めて出会ったあの日――― 一眼見ただけで「お人好しなんだな」って、俺は直感した。


 俺は1年前に事故―――に見せかけたFHの連中が引き起こした事件でオーヴァードになった。偶然、協力してくれたUGNのエージェント達によって被害を最小限までに抑え込めたその事件で俺は自分から他の奴らから距離を取ろうと考えた。


 「事故の怪我による後遺症」と嘯いて仲間達が被害を受けないように大好きだった野球を捨てて、UGNのエージェント(正確には『チルドレン』)に登録して最初の任務であの街から去っていった。

 あのお節介でムカつく幼馴染(ヒーロー)は俺が何も言わずにさろうとしたら、「自分も一緒に行く」と宣言してハーレム面子(取り巻き)に止められて揉みくちゃになる間に去った時はなんとなくいい気分がした。


 ただ、幼馴染はよく俺のことを「見た目が無愛想だし、性格も不器用だから誰かが声かけないと友達ができない」と失礼なことを言っていた。んなもの俺が一番よく知ってるわ。直せたら苦労はしねぇんだよ。

 まぁ、長年そばにいたお節介焼き(幼馴染)の言葉は偉大で転校初日の昼休みまでは俺に声をかける奴は1人しかいなかった。当然だった、どうやらこの学校は小中高と一貫の形式の学校故にとても仲がいいグループで固まっていた。まぁ、当然の如くぼっちになった。クソッタレ。


 だけど、そんな中で1人だけグループを外れてまで俺に声をかけてきたやつがいた。名前が『桜崎 優輝』、このクラスの中心と思われる少女だった。品行方正で心優しい人物で俺が午前中にクラスメイトを観察していると必ずと言ってもいいくらい彼女に声をかける奴が多かった。

 それは見た目が可愛いからとか頼りになるという理由からではなかった。見た目や体格はアイドルみたいに目立つようなタイプでもない、頼りになるというよりは「誰かが彼女の助けをしている」というような至って普通な少女だった。

 いや見た目は可愛いけど「身近にいる様な可愛さ」と言えばいいのだろうか?少なくとも高嶺の花なんて言葉が良い意味で似合わない子だった。


 そんな彼女は俺が席についた時に一番に挨拶と自己紹介をし、握手に応えてくれたのが印象深かった。実体験だが俺は女性陣からも男性陣から見ても顔つきが悪いせいで避けられやすく、避けなかったら避けなかったで多少距離を感じるように接するのがほとんどだった。

 しかし、彼女の場合はそういうのを気にしない性格なのか、友人らしき小さい子と話している際に俺の事が気になったのか会話を切り上げてまで俺の元に来て話しかけてきた。



「大村くん、良かったら一緒に食堂行かない?」



 そう彼女はこちらの反応を伺いながら昼に誘ってきた。別に断る理由はないので了承すると彼女は花が咲いた様にとても嬉しそうに喜んでいた。前の学校のクラスメイトで以上なまでの女好きはいたが、そいつが見たら「惚れてまうやろぉぉぉぉお‼︎」と影が薄くなった芸人みたいな叫び声を上げるだろうと思った。

 ちなみに俺は人懐っこい犬を彷彿としたので頭を撫でていた。最初は驚かれて困惑していたが撫でられていた。無防備か。



 昼時に俺は桜崎に連れられて学食へと向かった。ここの学食は美味しいらしく、初めて食べたらハマって毎日通う人が出るほどらしい。まぁ、そう話す彼女は幼馴染みのために毎日弁当を作っているから説得力に欠けた気がした。


 学食で待っていたのは彼女がよく一緒にいたクラスメイトだった。食堂に到着してすぐに眼鏡をかけた長身で細身の男子生徒が彼女に突撃してきた。危ないとおもって彼女の手を引いて回避すると、彼はつんのめって転ぶかと思ったらそのまま見事な2回転捻りを披露した。無駄に見事な技術に桜崎と共に思わず拍手をしてしまった。

 彼の名前は『葛城 悠真』、彼女の幼馴染みで話によると学年主席らしい。普段の行動が変態的で奇行じみているがそれらの終着点が「優ちゃんへの愛ゆえに」らしい。被害者である彼女の方も慣れているのか、彼が膝に乗せても気にしない上に抱きつかれて匂いを嗅がれても普通に話を進めていた。しかも恋人同士ではないからなおさら絶句した。お前ら距離感おかしいだろ。もっと思春期らしさを出せ。


 そんな彼らにツッコミを入れている小さい女の子は『文苑 由利』という名前だ。彼女はこの3人組の数少ない常識人だと感じた。小さい体ながらも鋭い蹴りや、どこからともなく用意されたハリセンによるツッコミの練度が今までの苦労を物語っていた。ちなみにコイツもコイツで何やかんやで桜崎にはかなり甘いタイプだった。

 俺に対する噂に対する正確な回答を対価に尋ねてみると、彼女は中学生の時にこの学校に転向してきて俺と同じ様に孤立しかけていたところを桜崎が話かけてそのまま友人になったらしい。ちなみに葛城のことを毛嫌いしている理由を尋ねると「黒歴史だから思い出させるな」というドスが聞いた声で止めてきた。ぶっちゃけ、今までのジャームよりも圧が怖かったので聞くのをやめた。


 そんな桜崎を中心にした3人組はこの高校では「何でも屋」に位置する存在であった。いや、正確には「桜崎がトラブルに巻き込まれる」→「彼女を助けるために文苑と葛城が参戦」→「ハイスペックコンビ(文苑と葛城)の活躍により事件の真相を明らかに」→「解決後に被害者と加害者に桜崎がアフターケアをし、円満解決」という流れらしい。コイツら、ラノベや漫画のキャラかよ。


 そんなこんなで彼らは気がついたら上級生や下級生にも知らない人は、俺みたいな転校生かモグリだと思われるほどの知名度があるらしい。

 実際、こうやって話している間も上級生や下級生、同学年らしき生徒達が俺たちの方を見ながらヒソヒソと話をしていた。俺は《地獄耳》だったから、会話の内容を聞いていたが完全にこの3人組と俺が何の話をしているのかに興味を持っているというのが理解できた。ちなみに俺は見た目だけで不良を疑われた。失礼な話だ。



 そんな感じで俺がこの3人と関係性を持てたのは運が良かったと思う。その後の眼帯教師が有言実行と言わんばかりに授業をせずに俺への歓迎会を開いた時に、桜崎や葛城、文苑が中心となって俺をクラスメイト達との橋渡しを担当してくれた。

 葛城は俺の事を「カズくん」「カズきゅん」とふざけつつ呼んではからかったり、文苑は「インタビューコーナー」と称してクラスメイト達からの質問をまとめて応えやすくした。桜崎は昼の時と同じ調子で俺に積極的に話しかけた。趣味が読書だったのか様々な小説の話題に明るく、俺も本は読む方だから意外と話は弾んでいたと思う。

 途中、葛城が余りにも鬱陶しいので思わずアイアンクローをかけてしまったが、「あぁん!イイ‼︎」とクネクネし始めて気持ち悪かったので投げ捨てるとクラスメイト達から「遂に文苑の同類がでた…‼︎」と感動された。尚、桜崎は俺たちのその光景を見て「悠真友達ができて嬉しそうだね」とニコニコしていた。改めて、彼女の「常識」に対するハードルの低さに少々不安を感じた。



―――そんな新たな「学生生活(日常)」に俺はきっと浮かれていたのかもしれない。だからこそなのだろうか…?





「桜崎!桜崎‼︎しっかりしろ!死ぬんじゃねえ‼︎」





―――俺は腕の中で少しずつ冷たくなる「桜崎(日常の象徴)」を死なせてしまったのだろうか?

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