第9話 牢屋


 ここは、お城の地下牢の一室です。薄暗く、オバケが出てもまったく不思議じゃない、不気味な空気が流れています。

 さて、そんな牢獄にいれられているのは、ツェリーナ姉様ではありません。

 では、誰かって?私ですよ。鎖に繋がれ、ボロ切れに身を包んだ、さながら罪人のような姿です。いえ、実際、罪人なんですけどね。

 鉄格子の中は、酷いものです。冷たい石畳は、容赦なく私の体温を奪ってくるし、ベッドの上にはボロボロの布が一枚置かれているだけ。簡易的なトイレは、ただ穴があいているだけなので、下から先代から受け継いできた物が、強烈な悪臭を放っています。

 こんな臭い場所なんですけど、しっかりと見張りの兵士が一人ついていて、鉄格子の前に立っています。私がトイレを済ませようとすると、チラチラと目を向けてきた、ムッツリさんです。変態です。当然見られたくありませんが、今の私には、そんな視線から逃れる術はありません。

 昔、私がいれられた牢屋より、遥かに過酷な環境にあるこの牢獄は、重罪を犯した者がいれられる場所です。今なら、前の牢屋がホテルに見えてきちゃうくらい、快適でしたね。


「……グレア?」


 そんな、不気味で薄暗い地下牢に、場違いな美少女が訪れた。あ、私も美少女ですからね。今はこんなボロ切れ姿で、色気も気品もあったもんじゃないけど、凄く美しい姿です。

 で、そんな美少女の私に話しかけてきたのもまた、美少女です。


「サリア姉様……」


 私の姉で、私を除く、兄弟たちの一番下の末っ子です。表面上は、凄く良い子なんです。今も、潤んだ瞳で、今にも泣きだしてしまいそうな顔をして、会いに来てくれました。


「こんな所にいれられて、酷い……!グレア。すぐにお姉ちゃんが出してあげるから、少しだけ我慢してね」

「……」

「サリア様。それは、できません。この者は──」

「むぅー!兵隊さんは、少し外に出てて!私は、グレアとお話があります!」

「は、はいぃ」


 サリア姉様が、頬をちょっと膨らませて怒ったような仕草を見せると、私を見張っていた兵士は、だらしのない顔をして出ていきました。サリア姉様の可愛さにかかれば、男なんていちころですね。

 ちなみにこの牢屋は、鉄格子から出ても、更にその先で鉄の扉で施錠されていて、厳重です。その鉄の扉を開いて、兵士は出ていきました。この空間に残ったのは、私とサリア姉様だけ。


「……ぷっ。あははははは!グレア、あんたついにやったわねぇ!」

「……」


 サリア姉様は、私を指さして笑います。いつもの、可愛らしいサリア姉様の姿は、そこにはありません。大きく口を歪ませ、眉を吊り上げ、高笑いをしてくる。その姿は、まるで悪魔のよう。

 これが、サリア姉様の、本当の姿です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る