第200話 一行怪談200

 書き終えた小説を読み返していると、「今日もこの世界で私たちを殺しましたね」という文章がところどころに浮かび上がる。


 ページをいくらめくってもめくっても、この小説を読み終えることができない。


 子どもの時に行方不明になった同級生と最後に遊んだ公園に行き、「もういいよ」とあの時かくれんぼの鬼だった私がそう言うと、「遅いよ」という同級生の声が背後から聞こえてきた。


 残業していると、フロアの見回りをしていた警備員に「もう帰りなさい」と促されたため、慌てて仕事を終わらせて会社から出たのだが、あの警備員は確か半年前に自ら命を絶ったはずだということに気づいた時、背後から足音が凄まじい勢いで迫ってきた。


 卒業式、校舎を背景に友人たちと撮った写真には、こちらを睨みつけている逆さまに宙に浮かんだいじめっ子が写っている。


 恋人との関係を終わらせようと電話で別れを告げたのだが、引っ越し先のクローゼットの中に恋人の顔を模したマネキンの首が所狭しと並べられていた。


 エンドロールに出てくるスタッフの名前には、私が捨てた女たちの名前が全員載っており、気味が悪くなって映画館を出ようと立ち上がったところ、周りの観客たちが「また逃げるのか」と私を睨みつけた。


 近所の奥さんが捨てたごみの中に、行方不明だとニュースで騒がれていた少女とよく似たマネキンが混ざっている。


 縁を切ったはずの友人から年に数回、私の家の中を写した写真が送られてくる。


 この話を最後まで読み切ると、ここで書かれていた怪異が現実に起こる可能性があり、それを防ぐには自分も怪異を生み出さなければならない。

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一行怪談まとめ ゆきまる書房 @yukiyasamaru1

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