第139話 一行怪談139

 最近、鏡に映る父の頭は耳を食いちぎられた兎のものになり、母の頭は口から血を滴らせた狼のものに変わっている。


 狐の面を被った子どもに手を引かれるまま森へ消えていった友人が、あの頃の姿のままで狐の面を被ってこちらへおいでおいでをしている。


 兄は昔からわがままで、死んだ後も住む者がいなくなった実家を誰にも奪われないようにと追い払っているうちに、今では怨霊になってしまった。


 近所の寺から真夜中に鐘をつく音が聞こえたら、すぐに布団に潜って「今日はお見逃しください」と呟かなくてはならない。


 ぐっすりと眠っている姉の腹の中から、絶え間ない拍手の音が響いている。


 雨に濡れて震えている子犬に近付こうとするとそばにいた友人に止められ、理由を聞こうとした時に子犬の影が鉈を持った老婆のものになっていることに気づき、急いで道を引き返した。


 ある日を境に道行く人たちの顔が、あの時階段から突き落とした彼女の血で汚れた顔にしか見えなくなってしまった。


 携帯の待ち受け画面に映る彼の顔は、日に日に顔のパーツの位置がずれていっているように見える。


 冷蔵庫の奥に食べ忘れた卵を見つけて割ってみると、中からは真っ赤な血と人間の胎児らしき肉塊が出てきた。


 暇なので特撮映画を見ていると、悪の組織のアジトとして実家が爆発するシーンが映っており、そう言えばしばらく前から両親と連絡が取れていない。

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