第112話 一行怪談112

 誰もいない風呂場から、下手な鼻歌が響いている。


 妻の指には、赤い汚れが付いた浮気相手に送った指輪がはめられている。


 娘を無視するなと妻に怒鳴られたのだが、そもそも私は結婚などしていない。


 ベランダから見える逆さまの体は、もうすぐで顔が見えそうになっている。


 ラグビーボールから猫のものらしき声が聞こえたのだが、これしかボールがないので仕方ない。


 インターフォンが鳴り続けているが、我が家のチャイムは壊れているはずだ。


 新聞のテレビ欄である番組の部分を縦読みすると、私の名前と年齢が書かれていた。


 手のひらのしわが、年々死んだ母の笑顔に変わっていく。


 銭湯の浴場から声や物音が聞こえるので入ってみると、中はがらんどう。


 死んだ友人のSNSのアカウントは、今日も私の日常を投稿している。

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