第2話

 近衛騎士が十数人ぞろぞろと集まってきました。

 全員完全武装で。

 ですが、アーサー王太子は剣を佩いていません。

 披露宴に入る際に近衛兵に預けているのです。

 容貌に対する悪意と、武勇に対する称賛の両方から、野獣王太子と称されている方ですが、さすがに武器なしでは厳しいでしょう。


 グッワッシャァー

 グチャ

 ドーン


 そう思っていたのですが、全く違いました。

 全然危なげなく、真銀製の籠手で近衛騎士を叩きのめしています。

 近衛騎士ですから、鈍らな剣など装備していないと思います。

 名剣とまで呼べるかどうかは分かりませんが、鋼鉄製の一級の剣だと思います。

 それが、アーサー王太子の厚みのある籠手にはじかれるたびに、折れています。


 堅固で高価な真銀を、贅沢にも圧倒的な厚みのある使い方をしているので、鋼鉄など何の役にもたたないのでしょう。

 それと、人間離れした筋力なのでしょうね。

 正面から剣と籠手がぶつかっても、完全に押し負かしています。

 あとは体術の差ですね。

 剣を受けるも避けるも、アーサー王太子の方が選んでいます。


 一瞬です。

 私から見たら本当に一瞬で、近衛騎士十数人が叩きのめされて地を這っています。

 面貌の下から、射るような視線がジェイコブ王太子に向けられています。

 私にもわかるような明確な殺意です。

 これは、守護神の護りがあるはずの自国内で、王族が殺されてしまうような、前代未聞の大事件となるのでしょうか?


 シュン!

 シュン、シュン、シュン!

 

 矢です!

 警備の近衛騎士が、遠矢を放ってきました。

 これは、幾ら野獣王太子でも対抗できないでしょう。

 今度は鋼鉄の剣ではなく真銀の矢だと思います。

 まがりなりにも近衛騎士に選ばれる者達です。

 それくらいの機転はきくはずです。

 

 それに、アポローン神の神力の一つは遠矢です。

 アポローン神の異名の一つは、遠矢の武神です。

 真銀製の矢を、遠矢の武神アポローンの守護国内で、他の神に護られた王族が受けるのですから、まず間違いなく殺されてしまいます。

 

 と、おもったのですが、全く効果がありません。

 次々と放たれる矢を、軽々と避け、籠手で払っています。

 それどころか、ジェイコブ王太子に近づいていきます。

 これは、もうアポローン神の守護が失われたということでしょうか?

 アポローン神がジェイコブ王太子の言動に怒り、守護契約を破棄したという事でしょうか?


「待て!

 これ以上の無礼は許さん!

 ここはアポローン神に護られたサヴィル王国だ。

 これ以上やれば、シャノン王国の宣戦布告と受け取るぞ!」


「ふん!

 今迄見て見ぬふりをしていた卑怯なチャーリー国王が何を言う。

 正義と法を守る司法神と契約したシャノン王家の一員として、今回のジェイコブ王太子の言動、絶対に見過ごせぬ!」

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