第6話

「どうかな、悪い話ではないともうのだが、ディラン公爵は不服かな?」


「不服はございません。

 全ては国王陛下のお考え通りに」


「そうか、そう言ってくれれば助かる。

 聖女は国の護り、王家以外に嫁がせるわけにはいかん。

 かといって、王家の藩屏であるディラン公爵家との関係も大切だ。

 公爵が認めてくれれば全て丸く収まる」


 なにが丸く収まるですか!

 刺客が送れらる事はなさそうですが、地味に報復してきますね。

 この陰湿王は!

 ロビエル王太子を処刑に追い込んだ私達への報復としか思えません。

 父上の兄上も、乗り気ではないようですが、政略結婚と考えれば、悪い条件ではないのが困ったところです。

 これでは正面から文句を言えません。


 聖女エルティナを、新たに王太子になったアレハンド第二王子の婚約者にする。

 これは聖女を王家に取り入れる意味では悪くない手です。

 教会しか後ろ盾のないエルティナを、ディラン公爵家の養女にするのはとてもよい策で、教会の政治への介入を阻止できますし、私がロビエル王太子の婚約者だった公爵家への補償にもなります。

 エルティナの気持ちを無視すればの話ですが。


 これだけなら、国王の厚意だとも考えられたでしょう。

 ですがこれだけではなかったのです。

 私に第三王子ヒューゴ殿下の婚約者になれと言うのです。

 これに悪意が感じられるのです。

 ディラン公爵家を聖女の下に置いているのです。


 エルティナには悪いのですが、国の事を考え家格と長幼の序を考えるのなら、実子で先の王太子の婚約者であった私を、ロビエル王太子に婚約者にすべきでしょう。

 エルティナはヒューゴ殿下の婚約者にすべきでしょう。

 三つ年下のヒューゴ殿下の婚約者にさせられるエルティナは可哀想ですが、それが王家と貴族の序列を考えれば、最もおさまりがいいのです。


「恐れながら申し上げます。

 このような形では、王家のために心から祈る事などできません。

 好きでもない相手と無理矢理結婚させられては、むしろ恨みと憎しみを神々に祈ってしまいます。

 それでもよいと国王陛下は申されるのですか?!」


 なんと!

 あれほど大人しかったエルティナが、敢然と国王に意見しています。

 正直驚きました。

 これは私も覚悟を決めて援護しなければいけませんね。


「私も同じ気持ちです。

 このようななされ方は、ディラン公爵家を蔑ろにしております。

 これでは我がディラン公爵家だけではなく、多くの貴族士族の心を失います」


「だから諌言したではありませんか、父上。

 ここは我らに任せてください。

 私とヒューゴとディエドで、二人の心を射止められるか競って見せますよ。

 もっともディエドは妹を口説くわけにはいかないので、エルティナだけになりますがね」


「ふん!

 少し憂さ晴らしただけだ。

 泣く泣く言う通りにすると思ったのだがな。

 聖女とディラン公爵家を敵に回すわけにはいかん。

 二人の好きにするがいい」


 あら、あら、あら。

 恋愛ゲームの再開ですね。

 私の心を射止められる自信があるのなら、やって見せてもらいましょう。

 伊達に長年干物女だったわけではありませんよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る