第2話

「お助けいただき感謝の言葉もありません」


「あら、別に気にしなくていいのよ。

 さっきも言ったように、わたくしは汚いモノが嫌いなの。

 それだけのことよ。

 だから、私の眼に汚いモノが映らないようにしてちょうだい」


「分かりました。

 できるだけ遠くで目立たないようにしたします」


「馬鹿ね。

 それでは何時汚い場面に遭遇するか分からないじゃないの。

 不意に汚い場面が目に入ってきたら、つい父上と兄上に報告してしまって、弱小貴族家を潰してしまうわ。

 だから私の側にいなさい。

 お手洗いに行くときも私に断るのよ。

 お手洗いで弱い者苛めするなんて、あまりにもありふれた汚い所を見てしまったら、自殺するまで追い込んでしまうわ。

 弱小貴族が殺してしまわないためにも、私の側を離れるのではありませんよ。

 分かりましたか?」


「……はい、お言葉通りにさせていただきます」


 遠くで聞き耳を立てていた令嬢達が凍りついています。

 ヒロインのエルティナは戸惑っているようですね。

 もしこの子を元の世界の人間が操っているのだとしたら、解説書とあまりに違うので、内心慌てふためいているでしょう。

 途中でゲームを止められてしまったら、私はどうなるのかしら?

 途中で死んでしまうというか、フリーズしてしまうのかしら?


 それとも多元宇宙のパラレルワールドで、こういう設定のゲームになっているのでしょうか?

 私が元の設定と違う行動をするたびに、新しい世界が生まれているのでしょうか?

 なんとも興味深く面白いですね。


 そんな風に考えていくと、私以外の人間が転生している可能性もあります。

 とてもワクワクします。

 でも深く考えすぎて何もできなくなっては、悪役令嬢を愉しめなくなります。

 悔いる事のない言動で、この世界を大いに楽しみます。

 これが全て死の直前の夢である可能性すらあるのですから。


「ではさっそくお手洗いに行きますよ。

 ついてきなさい」


「はい、アルテシア様」


 さて、どうなる事でしょうか?

 私達二人同時に難癖をつけてくる悪役令嬢がいるのでしょうか?

 公爵令嬢である私まで一緒に虐めようとすれば、地位は王女になります。

 でも今の学園に王女はいません。

 だとすれば、魔力によって圧倒しようとするはずです。

 

「待て、アルテシア!

 弱い者苛めは見苦しいぞ。

 それでも私の婚約者か!

 直ぐにエルティナ嬢を解放しなさい!」


 ああ、そういう手できましたか。

 この手なら、ゲームと同じように私を悪役にしたてあげられますね。

 でもそのためには、ロビエル王太子が馬鹿だという前提が必要です。

 私の婚約者ロビエル王太子は馬鹿なのでしょうか?

 馬鹿と結婚するのは嫌ですから、婚約を解消できるように動きましょう。


「あら?

 どこの嘘つきに騙されたのですか?

 私の婚約者はこんな愚か者だったのですか?」

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