第9話

「レオナルド様。

 ジェミー様。

 一つお話したい事があるのですが、宜しいでしょうか」


 極悪非道な第二王子ネイサンの、いえ、私の顔を焼いたアイラの追撃を振り切り、道なき山を越えてラスドネル王国に逃げ込み、何とか一息つきました。

 今はレオナルド様と私とソニー侍女頭の三人で焚火を囲んでいます。

 他の三人の侍女は、夜の見張りのために先に寝ています。


「いいですよ、ソニー。

 大切な話のようですね」


 私は直ぐに答えました。

 ソニーは真剣な顔つきです。

 なにかよほど重大な話なのでしょう。


「これは確証のある話ではありません。

 民の間で流れている噂でしかありません。

 ですが、興味深い話ですので、お耳に入れておくべきだと思いました」


「民の間に流れる噂で、確証もない。

 でもソニーが調べた結果、真実に思えると言う事ですか」


「はい、その通りです」


「分かりました。

 覚悟を決めて聞きましょう」


 とても重要な話のようです。

 もしかしたら、今回の件にかかわる話かもしれません。

 逆転に繋がる話なのでしょう。

 だからこそ今話してくれるのだと思います。


「外道ネイサンについての噂なのですが、国王陛下の種ではないと言うのです。

 イザベラが不義を働いてできた子なのだそうです」


 青天の霹靂です。

 外道なのは分かっていましたが、不義の子で王の血が流れていないなんて、普通では考えられないことです。

 その想いはレオナルド様も同じだったようです。


「それが本当なら、私達が逆転する切り札になるでしょう。

 ですが普通では考えられないことです。

 それにもし真実だったとしても、証拠がなければどうにもなりません」


「その通りでございます。

 ですが状況証拠を積み上げ、証人を探し出す努力は必要です」


「確かにその通りですね。

 分かっている範囲の事を最後まで話して下さい」


「はい、相手はリクストバラ侯爵ドミニクです。

 ドミニクはイザベラが側室に上がる前の恋人でした。

 ドミニクはイザベラが側室に選ばれた事で野望を抱いたのです。

 自分の子を王につけるという許されない野望を」


「ちょっと待って、ソニー!

 リクストバラ侯爵ドミニクといえば、アイラの兄よね?!」


「はい、左様でございます。

 ドミニクとアイラの兄妹は、極悪非道、品性下劣、許し難い不忠者です」


 私はソニーの話を信じました。

 あのアイラの兄なら、それくらいの悪事は行う。

 心からそう思いました。

 それはレオナルド様も同じだったようです。


「なるほど、それならほぼ間違いないだろうね。

 だが全ては証拠と証人だよ。

 私達に力と権力があれば、真実を暴きだす事ができた。

 でも今の私達では不可能だよ。

 何か方法があるのかい?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る