第7話

「死ね!

 腐れ外道ども!

 レオナルド様を傷つけようとする者は死ね!」


「ギャアァアア!」

「ウァァアァ!」

「化け物だ!」

「化け物がでたぞ!」


 私は、化け物なのでしょう。

 必死で逃げ出してレオナルド様をおいかけました。

 邪魔する者は虐殺しました。

 私の身体は返り血を浴びて血塗れです。

 激しい戦いの連続で、仮面を失い火傷で醜く歪んだ顔を晒しています。

 髪も逆立ち乱れています。

 伝説の鬼女そのものの姿形です。


「ジェミー!

 ああ、ジェミー!

 無事でよかった!

 とても心配していたんだよ。

 よく逃げてこれたね」


 ああ、私は幸せです。

 こんな、こんな醜い姿の私を、レオナルド様は優しく抱きしめてくださいます。

 酸で焼かれ醜く歪んだ顔を見ても怖がることも不快感浮かべる事もありません。

 返り血が自分の服を汚すのも気にされません。

 醜い顔に頬擦りしてくださり、額にキスしてくださいます。


「さあ、一緒に逃げよう。

 もうこんな国に残る必要などない。

 地位や身分に囚われる事もなくなった。

 ジェミーと一緒に自由に生きられるよ」


 レオナルド様は前向きです。

 このような状態に追い込まれても、これからの幸せを考えておられます。

 しかも、私と一緒に暮らす幸せです。

 女として、ここまで愛されて、うれしくない訳がありません。

 ですが、どうしても聞いておかなければいけない事があります。

 これからの二人のために、確かめておく必要があります。


「レオナルド様。

 復讐はされないのですか?

 恨みはないのですか?」


「あるよ。

 腹も立つし復讐したい気持ちもある。

 だけどそれ以上に、自由になれたよろこびが大きい。

 王太子や国王の責任をおもうと、胸が押しつぶされそうな重圧なのだよ。

 ジェミーがその半分を担ってくれると言ってくれたから、今日まで耐えられた。

 でもこうして一度解放されたら、もう二度と担いたいとは思わない。

 それが責任を放棄することだというのは、分かっている。

 卑怯な事だというのも、分かっている。

 民が塗炭の苦しみを味会うことになるのも、分かっている。

 だが、それでも、もう嫌だ。

 私はジェミーとひっそりと幸せに暮らしたい」


 私は復讐したい思いが強いです。

 今迄の努力が無になるのも残念です。

 ですが、それ以上に、レオナルド様が大切です。

 レオナルド様の幸せ以上に大切なモノなど、この世界のどこにもありません。

 

「分かりました。

 一緒に逃げましょう。

 でも幸せになるためには、最低限のお金が必要です。

 それにレオナルド様も私もこんな姿です。

 いったん私の領地に逃げましょう。

 そこで逃走資金を確保しましょう」


「その辺はジェミーに任せるよ。

 私は王宮と貴族邸以外行ったたことがないんだ。

 庶民として幸せになりたいとは言ったけれどその生活の事は全く分からないんだ」

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