第5話

「やあ、ジェミー嬢。

 今日はよく来てくれたね」


「ご招待してくださり感謝の言葉もありません」


「いやあ、正直に話すと、ジェミー嬢と話すと楽しくてね。

 ジェミー嬢が来てくれないと寂しいのだよ」


「ありがたいお言葉を賜り、感謝の言葉もありません」


「もうそんな型通りの挨拶は止めて、ダンスでも踊ろうよ」


 屋敷に籠りがちの私を、レオナルド様は常に気をかけてくださいました。

 顔全体に醜い傷の残った私は、社交界に出るのが嫌だったのです。

 このような傷があると、結婚など望めません。

 いくら貴族の結婚は政略でも、このような醜い顔を見たい者はいません。

 結婚できたとしても、持参金や台所領目当の没落貴族でしょう。

 生涯一度もベットを共にする事もないでしょう。


 だから、一人で生きていけるように自分を鍛えました。

 剣や槍はもちろん、勉強にも励みました。

 私が強ければ、アイラに人質にされることもなかったでしょう。

 そうすれば、あの時の結末も変わっていたでしょう。

 アイラを殺すことができたのです。

 それに、魔力があった時代の研究をすれば、この傷を治すことができるかもしれません……


 そんな私に、レオナルド様は舞踏会に誘ってくださいました。

 レオナルド様主催の、ごく限られた友人だけが参加する舞踏会です。

 私は躊躇してしまいました。

 このような顔を人前に出たくない!

 そう思ってしまいました。

 ですが、レオナルド様の招待状には、プレゼントもついていたのです。

 鮮やかに装飾された、顔全体を覆う仮面を贈ってくださったのです。


 私は意を決して参加することにしました。

 顔の傷は隠せても、鮮やかで美しくても、仮面を被って舞踏会に参加するのです。

 とても奇異な目で見られる事でしょう。

 レオナルド様は好意でしてくださったのでしょうが、私は晒し者になるでしょう。

 ですが、レオナルド様の数々の好意と助力には心から感謝しています。

 結果傷つくことになっても、参加させてもらうのが感謝のしるしです。

 その時はそう思っていました。


 ですが参加してみて、レオナルド様の優しさを思い知りました。

 レオナルド様も仮面をつけておられたのです。

 いえ、レオナルド様だけでなく、参加者全員が仮面をつけていたのです。

 私が奇異な目に晒される事はありませんでした。

 レオナルド様の優しさに涙が流れました。


 その時からです。

 私に社交の誘いがあるたびに、その日のうちにレオナルド様からも誘いの使者が来るようになりました。

 後に侍女達を問い詰めました。

 レオナルド様の依頼で、私に社交の誘いがあると伝えることになっていたのです。


 なんとなく予感していました。

 いえ、期待していたといっていいでしょう。

 私がレオナルド様と時間を合わせて社交に参加すると、レオナルド様も仮面をつけてくださっていました。

 悪意や興味本位で、私を社交に誘った主催者は驚き慌てていました。

 ウィンターレン公爵家とリクストバラ侯爵家が傾いた原因は知っています。

 私を笑い者のしようとして、レオナルド様に疎まれたら破滅ですから。

 ですが、レオナルド様は容赦されませんでした。


「伯爵。

 貴君の性根はよく分かった。

 この事、終生忘れないよ」


 レオナルド様も私も幼過ぎたのです。

 正義感が強すぎて、腹芸など使えなかったのです。

 それが、レオナルド様を貴族士族から厭われる遠因となり、冤罪に陥れられる事に繋がってしまったのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る