第3話

 コボルト族、ハーピー族、ヒヒ族は恐れおののいていた。

 麗鬼の言葉と鬼族の憤死は、まともな神経で耐えられるものではなかった。

 だが桃太郎は満面の笑みを浮かべて、死屍累々の城内を、血の海となった城内を探しまくり、鬼族の秘宝を探し出した。

 隠れ蓑、隠れ笠、打ち出の小槌、延命袋に金銀財宝。


 隠れ蓑と隠れ笠は、自分の姿を隠すことができるので、報復に現れるだろう龍鬼を返り討ちにするには、絶対に必要だった。

 使用者の願い通りの宝物を創り出す打ち出の小槌も、龍鬼を殺せるほどの武器を手に入れるのには絶対に必要だった。

 鬼族の長命を妬み羨んでいた桃太郎にとって、命を伸ばしてくれる延命袋もどうしても必要なモノだった。


 金銀財宝などはどうでもよかった。

 どれほど莫大な金銀財宝を得たとしても、龍鬼に殺されては意味がない。

 そもそも、金銀財宝の全てを三族に与えるという約束で、コボルト族、ハーピー族、ヒヒ族を味方につけたのだ。

 だから勝手に分け取りさせた。

 どちらかと言えば、争って殺しあってくれればいいのにとまで思っていた。


 この間に、薙子は深雪を抱えて逃げていた。

 桃太郎が殺人の欲望に満たされ、快楽に溺れている間に、逃げ出したのだ。

 鬼族を滅ぼしたら深雪を殺す。

 桃太郎なら間違いなくそうする。

 薙子はそう確信していたので、重症の深雪に負担がかかることを承知で逃げた。


 いや、薙子だけではなかった。

 コボルト族、ハーピー族、ヒヒ族の多くが後悔していた。

 麗鬼の遺言が瞬く間に大陸中に広まるのは確実だ。

 箝口令を敷いても、人の口に戸は立てられない。

 噂が広まれば、鬼族を滅ぼした四族は忌み嫌われ襲われる。

 三族は分ける金銀財宝の多寡にはこだわらなかった。

 一刻でも早くこの場から逃げ出そうとした。


 それは人族も同じだった。

 少なくない数の人族が、自分たちのしでかしたことを恥じた。

 だが今回の件の主犯は桃太郎であり人族だ。

 もう後戻りはできない。

 戦って戦って戦い抜いて、勝つしか方法がない。

 そう決意して、桃太郎についていこうとしていた。

 だが同時に、何時でも逃げ出せる準備を整える事も忘れなかった。


 桃太郎に騙され、遠く離れたリザードマン族と融和の話をしていた龍鬼のもとに、鬼族滅亡の話が届いたのは三十日後だった。

 最初その話を頑なに信じなかった龍鬼だが、第二報第三報が届くに至り、血の涙を流して慟哭した。

 その場にいたリザードマン達が見たのは、輝くような銀の髪が、どす黒い、まるで血のような暗赤色に染まっていく龍鬼の髪だった。

 いや、髪だけではない。

 銀色だった瞳が、これも地のような暗赤色に染まったのだ。


「俺は天に誓う!

 人族を絶対に許さない!

 必ず皆殺しにする!

 いや、人族だけではない!

 コボルト族、ハーピー族、ヒヒ族を族滅させる!」

 

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