第14話

「ガブリエル様。

 何か思惑があるのですか?」


「そうだね。

 多くの家臣を失ったマルタン公爵家に、王家からの援助を引き出したいのさ。

 軍資金も欲しいし、援軍も欲しい。

 そのための駆け引きだよ」


「ですがガブリエル様。

 王家が素直に出すでしょうか?」


「素直には出さないだろうね。

 色々ごねると思うけれど、マルタン公爵家の寄騎貴族士族が王家に泣きつくから、最終的には出すしかないのさ」


「私を蔑んできた家臣団がどうなろうと構わないのですが、領民たちが虐殺されるのは心が痛みます。

 何かいい方法はないでしょうか?」


「そうか、それは領主として正しい気持ちだね。

 だったら私と連名で家臣たちに命令をだそう。

 残念な話だけど、ローズ嬢だけの命令書だと、マルタン城に残っている家臣たちは従わないだろう。

 アンナに対する忠誠心だと言って、遠縁を探して擁立してでも、ローズ嬢の当主就任を邪魔するだろう。

 だけど、私が連名した命令書を拒否すれば、テンプル騎士団を敵に回すことになるから、ある程度の命令には従うだろう」


「ある程度とはどんな策なのですか?」


「ローズ嬢の希望通りだよ。

 領内の民を護れという命令さ。

 士族の名誉と義務に従い、何があっても領民を護れと命令するのだよ。

 領民を見捨てて自分たちだけ生き延びるようなモノは、士族とも家臣とも認めない、テンプル騎士団が討伐すると宣言するのさ」


 確かに、そういう命令内容なら、絶対に護るでしょうね。

 敵と戦えと言う命令なら、命を失う可能性がありますが、領民を護れと言う命令なら、領民を城に収容して籠城すれば、自分たちが命を失う可能性を少なくしながら、テンプル騎士団に逆らわなくてすみます。


「ですがこの命令、王家と連名にしたら、家臣たちを戦場に送ることも可能なのではありませんか?」


「確かに可能かもしれないけど、そうするとマルタン公爵家家臣団と王家を結んでしまうかもしれないんだよ。

 ローズ嬢を当主に迎えるくらいなら、マルタン公爵家の血が流れていない王族を、当主に迎えた方がましだという家臣が現れると思う。

 王家もあまりモノの子供を、マルタン公爵家の当主にできるのなら、ある程度の条件なら家臣団の言い分を聞くだろう。

 そうなると困るからね。

 王家に連盟を頼まない方がいいのさ」


 ガブリエル様が色々と教えてくださいます。

 私にはどうでもいいのです。

 ガブリエル様とお話しできるのなら、その内容が軍学であろうと、政治哲学であろうと構わないのです。

 本心を言えば、食べ物やファッションのお話の方が興味がありますが、そんな話題を振ってしまって、ガブリエル様に馬鹿にされるのが怖いです。

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