第8話

「言い訳があるなら言ってみろ。

 一応い聞いてやる」


「言い訳ですか?

 そんなものありませんよ。

 言い訳すべきなのは、死んだ王太子とアンナでしょう。

 それに、国王陛下でしょうね。

 これだけの被害を起こす冤罪をなすりつけるような、痴れ者を王太子の地位につけた責任は国王陛下にあるのですから」


「無礼者!

 国王陛下に対し奉りなんたる暴言!

 斬り捨ててくれる!」


「黙っておれ!

 この不忠者が!

 今日まで王太子の行状を報告しなかったお前らこそ、斬首に値する!

 二度と余の前に顔を見せるな!

 出て行け!」


「陛下、陛下、陛下!

 知らなかったのでございます。

 私は何も知らなかったのでございます。

 知っていて報告しなかったわけではないのです」


「黙れと言ったのが聞こえんのか!

 知らなかったとすれば無能の極みじゃ!

 知っていて報告しなかったのか、知らずに報告しなかったなど、どうでもよい!

 そなたらの顔など二度と見たくない。

 この者どもを城から叩きだせ!」


「「「「「は!」」」」」


 とても見苦しいです。

 ガブリエル様の直言に対して、侍従どもが狼狽しています。

 国王の反応が面白いですね。

 ガブリエル様と私を有無を言わさず殺すつもりかと思ったら、何も知らされていなかったと侍従たちを叱責するのです。


 でも、これも主従の演技かもしれませんね。

 国王の権威に傷をつけないために、私たちの前で演技しているのかもしれません。

 だとするとなかなかの名演技ですね。

 国王は本気で怒っているように見えます。

 侍従たちも恐怖で顔を引きつらせているように見えます。


 まあ、そんな事はどうでもいいです。

 私が見惚れているのはガブリエル様の凛々しいお姿です。

 この国一番の権力者、国王に対しても臆することなく直言しておられます。

 しかも自分のためではありません。

 私のために、何の関係もない私のために命を懸けて直言してくださったのです。


 少し、ほんの少し期待してしまいます。

 ガブリエル様が私の事を恋してくださったのではないかと。

 今までの私ならそんな事を思うことなどありませんでした。

 人が心から人を恋することなどない。

 恋といわれているのは単なる性欲、劣情を奇麗に表現しているだけだと思っていました。


 ですが、今は違います。

 ガブリエル様に出会って、恋というモノを知りました。

 ひとめ惚れというモノが実在するのだと理解できました。

 私はガブリエル様に恋しています。

 大陸中に声を大にして言えます。

 私はガブリエル様に夢中なのです!


「さて、それで邪魔者はいなくなった。

 いったい余にどうしろというのだ?」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る