第11話

 たった二度の収穫で、全ての民に小麦を配ることができました。

 ですが、王都と大領都では、今も飢えている人がいるのです。

 私はその事に胸が痛くなりました。


「どうするんだい?

 助けるのかい?

 見捨てるのかい?

 僕はどちらでもいいんだよ」


 聖獣様は私を試しておられるのでしょうか?

 それとも本当にどちらでもいいのでしょうか?

 聖獣様なら、人間の事など、どうでもいいと考えておられるかもしれません。

 でも私にはどうでもいいなどとは思えないのです。

 

 ですが、民を助けようと思えば、王家や大貴族を滅ぼさなければいけません。

 単に滅ぼすだけなら、聖獣様が手助けしてくだされば、可能でしょう。

 ですが、滅ぼせば全てがすむわけではないのです。

 滅ぼした後に統治して護っていかなければいけません。


 民を護る王家や大貴族がいなくなると、他国が攻め込んでくることでしょう。

 そんな場合でも聖獣様が手を貸してくれるかどうかわかりません。

 人間など殺しあって滅べばいいと、考えておられるかもしれません。

 そんな時はどうすればいいのでしょうか?


「そんな心配しなくてもいいよ。

 聖女が望むのなら手助けしてあげるよ。

 なんなら大昔の政治体制も教えてあげる。

 入札制と言ってね、民が自分の責任で代表を選ぶんだ。

 その代表が国や領地を統治するんだよ。

 まあまあいい政治体制だと思うよ」


 聖獣様の助言で決断することができました。

 王家と大貴族を滅ぼしてでも、民を飢えから救います。

 民が飢えているのを見ると、耐え難い苦痛に襲われるのです。

 こんな苦しく辛く痛い思いをするなら、自分が責任を負う方がまだましです。


「私を手伝ってください、聖獣様。

 王家と大貴族を滅ぼして、民を助けます。

 助けた後は私が統治します」


「いいよ、いくらでも手伝ってあげるよ。

 でも何でも一人でやる必要はないんだよ。

 人間の一生は短いからね。

 早く番いを見つけて子供を作ることさ。

 子孫を作るのが生物の一番の仕事だからね。

 あの男なんかいいのじゃないかな。

 聖女がここに来てから毎日聖域の様子を見に来ているし、僕が見た範囲でも、人間にしてはマシな部類だよ」


 ケイデン!

 ケイデンがずっと私の事を心配してくれていたのですね。

 ケイデンの事を男性として意識したことはありませんでしたが、私の事を想っていてくれるのなら、一緒になるのもいいかもしれません。

 ケイデンなら私の想いを理解し手伝ってくれるでしょう。


 これでも私は、国が認めた聖女でした。

 その事は他国にも知られています。

 聖女の私はが女王となり、ケイデンが王配となり軍を率いてくれる。

 いえ、攻め込んできた軍隊は、聖獣様に数度滅ぼしてもらえば、聖獣様を恐れて攻め込んでくる国はなくなるでしょう。

 

「聖獣様の勧めてくださる通りにします。

 ですからご助力願います」


「まかせてよ」

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