第10話

「いいねえ!

 どんどん階層を増やしていこうよ!

 獣たちも聖女とのふれあいで聖なる者になれるかもしれないよ」


 聖獣様に煽られて、聖域の階層が広がっていきます。

 下の小麦畑のように、地平線の果てまで広がっていきます。

 これだけ広ければ、全ての獣を住ませてあげるだけでなく、子供や孫まで安心して暮らせる広さになるでしょう。


「獣たちがお腹いっぱい食べたら、小麦を運んでもらおう。

 最初は近くの村や小都市に配って、だんだん広げていけばいい」


 聖獣様は簡単に言いますが、何の混乱もなく小麦を運べるはずもありません。

 獣たちの飼い主が、自分の獣を取り戻そうとしただけではありません。

 何の権利もない者が、獣たちと獣たちが運んでいる小麦を奪おうとしました。

 情けなく哀しいことです。


 ですが、神獣様が人間のそのような行為を見逃すはずがなかったのです。

 聖獣様は最初に言っておられました。

 人間の穢れに耐性のある自分が護衛すると。

 当然ですが、獣たちに手を出そうとした人間は、皆殺しにされてしまいました。


 農民や商人だけではなく、欲に目がくらんだ貴族士族が獣たちと小麦を奪おうとしたので、全員皆殺しにされることになりました。

 自業自得とも言えますが、少し可哀想に思ってしまうくらい、無残な殺され方で、多くの領地で領主一族が全滅してしまいました。


 普通なら盗賊が跳梁跋扈するのですが、聖獣様が魔獣と呼ばれて暴れまわっておられるのです。

 その噂が燎原の火のように国中に広まっているのです。

 盗賊団は先を争ってこの国から逃げ出しました。

 多くの民が、領主も盗賊団も恐れる必要がなくなったのです。


 中には邪な人間もいますが、そんな者は聖獣様が真っ先に殺してしまわれました。

 残った多くも者は、善良な者が多いのです。

 そんな人たちに、小麦を配って回りました。

 誰も飢えなくてすむように、多くの小麦を獣たちに配ってもらいました。


 地の果てまで続くかと思われる小麦畑ですが、それでもいつかは刈り終わってしまいます。

 ですが、私が願えば、直ぐに新たな小麦は黄金色の実りを見せてくれました。

 その実りを、精霊たちがまた刈り取ってくれます。

 刈り取って小麦俵にしてくれます。


 小麦俵は獣たちにが運んでくれます。

 私は夢がかなってうれしくなりましたが、この国全てに小麦を行き渡らせる事はできませんでした。

 王家が支配する王都と大貴族が支配する領都には、数多くの奴隷がいて、奴隷を使役し搾取する者がいるのです。

 王も大貴族も馬鹿ではありませんから、獣たちから小麦を奪うようなことはしませんが、自分たちの支配体制が壊れるようなことを嫌うのです。

 城門を閉じられると、小麦を城壁内に運び込むことができないのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る