第8話
凄いです!
ビックリです!
眼の前に黄金色に輝く麦畑が広がっています。
それがどんどん広くなっています。
地平の先まで麦畑が続いています。
奈落の底はこんなに広大だったでしょうか?
「ああ、それはね、想いの強さで広くする事はできるのさ。
それに階層も増やすことができるんだよ。
今は僕たちしかいないから、底の一階層しかないけれど、聖女の願いの力が強ければ、二階層も三階層も創り出せるんだよ」
「では、小麦畑だけではなくて、ライ麦畑や大麦畑も創り出せるのですか?
ブドウ畑やオリーブ畑も創り出せるのですか?」
「もちろんだよ。
だけど先に小麦畑を収穫した方がいんじゃないかな。
おっと、麦の保管する方法も思い浮かべてよ」
「分かりました」
私は麦わらで俵を作る作業を思い出しました。
私の知り限りの農村の風景を思い出しました。
その度に聖獣様がほめてくれます。
眼の前の聖域の風景が、私の思い出通りの光景になります。
時に精霊様たちが人の形をとられるので、それがおかしかったです。
雨が心配になりましたが、私が雨の風景を思い浮かべない限り、聖域には雨が降らないと聖獣様に教えていただき、急いで雨降りの思い出を振り捨てました。
でも何かの拍子に雨の思い出が浮かんでしまうかもしれないので、小麦を入れた小麦俵を保管するための、城というか砦というか、領主館を思い浮かべました。
それが生まれ育ったクルー城であったことが、私の心に鋭い痛みを生むことになりました。
「さて、順調にどんどん小麦俵が積みあがっているけれど、人の世界に運ばないと聖女の願いがかなった事にはならない。
聖女が心になかで思っている、これが僕の見せている幻覚かもしれないという疑いを晴らすためにも、そろそろ獣を魅了して運び出すべきだね」
私の心の中は全て読まれています。
嘘や誤魔化しなど通用しません。
でも仕方がないと思います。
聖獣様や精霊様たちは違うのかもしれませんが、人間は心に思っている事と、実際に言葉にすることが違っているのが普通です。
「さあ、聖域の外側に案内しよう。
聖獣の僕なら人間の穢れにも多少の耐性があるからね」
聖獣様の案内で奈落の底、いえ、そんなことを想ってはいけません。
以前に刷り込まれた知識や情報は忘れなければいけません。
言葉だけでなく、心の中にイメージも完全に書き換えないといけません。
ここは聖域なのです。
黄金色に光り輝く小麦畑が地平線の果てまで続く、楽園なのです。
さあ、獣たちに手助けしてもらうために行きましょう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます