第八十三話 ラストバトル(前半)
エルリーゼの召喚した光の剣が『魔女』を貫いた。
並の魔物ならば……いや、大魔であってもこの一撃で終わりだ。
それだけの威力が秘められている。
しかしベルネル達は知っていた。この『魔女』はこの程度で終わる相手ではないという事を。
「駄目だエルリーゼ! そいつは自分が攻撃する瞬間しか実体化しない!
そいつは魔力そのものなんだ」
プロフェータが声を張り上げ、エルリーゼも表情を険しくした。
『魔女』はアレクシアなどと違い、元来魔女が持っていた無敵性は薄れている。
何故ならここにあるのはあくまで、歴代魔女の怨念が集合した『自我を有した魔力そのもの』でしかないからだ。
結論から言えばこれはもう、歴代魔女の残滓の寄せ集めであって魔女ではないのである。
今まで世界を絶望に染め上げてきた元凶の『魔女』ではある。だが存在としての魔女ではない。
だからこそ、サプリのゴーレムでも一応ダメージを通す事は可能だった。
しかし本来の無敵性を失った代わりに、『実体がない』という新たな不死性を有してしまっている。
確かに致命の一撃を与えたはずの『魔女』が揺らめき、何事もなかったかのように復元してしまう。
魔力とはこの世界のどこにでも存在しているもの。いわば空気と同じだ。
実体化していない『魔女』に対して攻撃を行うというのは何もない空間を殴ろうとしているのに等しい。
『ウフフフフフ……』
『アハハハハハハ!』
『魔女』に備わったいくつもの顔が嗤い、首が伸びる。
それはエルリーゼに絡み付いて締め上げるが、エルリーゼは常時強力なバリアを纏っている。
故に効果はなく、涼しい顔をしていた。
そればかりか、先程空振りに終わって地面に突き刺さっていた光の巨剣が突如動き、『魔女』から伸びた首を切断してしまう。
『オオオ……オオ……!』
『魔女』が一瞬怯む。
だが切断された首はすぐに黒い靄に戻り、魔女へ吸い込まれる事で復元されてしまった。
実体化している時ならば確かに攻撃が通る……通るが、どうやら『魔女』は自由に実体と魔力の間を行き来出来るらしい。
つまり一撃で仕留めない限り、いくらでも再生してしまうという事だ。
いや、あるいは一撃で仕留めても結局は魔力に戻るだけなのですぐに戻ってしまうのかもしれない。
「When the going gets tough, the tough get going.(状況が困難に なればタフな人の出番となる)」
エルリーゼが今この場で思いついた技名を宣言した。
相変わらずセンスがないので、海外の諺で誤魔化しているが、この世界の人々にはそもそも意味が通じない。
エルリーゼ以外の人々は、このエルリーゼしか使わない言葉を『彼女のみが操れる神聖な言霊』くらいにしか認識していなかった。
エルリーゼの背後に光が集い、魔力で構成された光の巨人が顕現する。
向こうが魔力で出来た巨人ならば、こちらも同じものをぶつけるという単純な発想だ。
エルリーゼが召喚した光の巨人(エルリーゼ命名・『タフな人』)は、白い布で身を包んだ筋骨隆々の逞しい壮年の男であった。
肩まで伸ばしたセミロングの白髪と、口を完全に隠してしまうほどにボリュームのある髭がダンディズムを醸し出す。
額にはサークレットを巻き、布で隠し切れない右肩を惜しげもなく露出して肉体美を誇示している。
『タフな人』はおもむろに光の巨剣を掴むと、地響きを立てて『魔女』へと近付いた。
そして剣を薙ぐも、当然効果はない。
だがこれでいい。『タフな人』の役目はただの囮なのだから。
「Festina Lente(ゆっくり急げ)」
『タフな人』が足止めをしている間にエルリーゼが、全市民を対象に魔法を発動させた。
するとあちこちから光の柱が昇り、逃げ遅れた民衆が全てエルリーゼの後ろへ移動させられる。
まずは、巻き添えを食わないように人々を逃がしたのだ。
それが意味するところをレイラは瞬時に悟り、緊張で喉を鳴らした。
人々を全て前方から避難させた……それはつまり、そうしなければならないほどに戦いが激化するという事。
エルリーゼは、既に魔女に破壊されてしまった場所を戦場に選択したのだ。
「アイズ陛下、少し派手になりますがよろしいですか?」
「ああ、構わん……もう魔女に破壊されてしまっているし、それに壊れた物は建て直せばいい」
王都の城門から教会に続く直線上は魔女のせいで完全に瓦礫の山と化してしまっている。
逆に言えば教会より後ろの町はまだ無事だという事だ。
ならばこれ以上被害を増やさない為にも、あえて既に壊れている場所を戦場にするのは悪い判断ではない。
勿論一番いいのは街中で戦わない事なのだが、『魔女』を外に追い出すのはかなり難しいだろう。
エルリーゼは壊れている区画の方に飛び、タフな人と協力して『魔女』を誘導していく。
まだ派手な攻撃は仕掛けない。
万一にでも誰かを巻き込んでは洒落にならないので、十分に距離を稼いでから攻撃に移る必要があった。
(魔力そのもの……となれば、多分アレは効果があるだろう。
だが問題はそれをどう使うかだ)
『魔女』の攻撃を避けながらエルリーゼが考えたのは、アレクシアを追いつめる時に使った『魔力を通さないバリア』だ。
あれならば確実にこの『魔女』にも効く。
だが所詮は通さないだけのバリアだ。魔力そのものを滅ぼす技などエルリーゼにもない。
故に肝心なのはその使い方である。
ただ単純に閉じ込めただけではすぐに脱出されるだろう。
だからといってバリアを固めてぶつけても意味はない。
ならば閉じ込めて宇宙に追放はどうだろう。
宇宙空間で魔力がどうなるかは分からないが、少なくともこの星に帰ってくることは出来そうにない。
だがこういう後に災厄の種を残すような解決法は、後に復活するのが物語の定番なので少し嫌な予感がする。
とりあえず一度倒してみて、それでどうしようもなければ宇宙に吹き飛ばしてしまおうとエルリーゼは考えた。
(まずは試してみるか)
倒してしまえるならば、それが一番いい。
そう決断を下し、エルリーゼは『魔女』の前に飛び出した。
この怪物にダメージを通すには、まず相手に攻撃してもらって実体化した瞬間を狙い撃ちより他にない。
『魔女』の身体中から生えている歴代魔女の顔が口を開き、一斉に凝縮した魔力を解き放つ。
これをエルリーゼは高度を上げて回避し、掌を上に翳した。
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