第六十七話 千年の再会(前半)

 アルフレアの封印を解き……というよりぶっ壊した俺はまず、アルフレアの恰好をどうするかを考えなくてはいけなかった。

 土魔法を使えば鎧は作れる。

 だが素肌の上から鎧は普通に肌に悪いだろうし、かといって布は作れそうにない。

 とりあえず毎度お馴染み光魔法で服を着ているように見せかける事にした。

 名付けて『馬鹿にも見える服』だ。

 ただしあくまで服を着ているように見せているだけなので、実際は全裸のままである。

 突然現れた服にアルフレアはしきりに感心しつつ、触れない事を不思議がっている。

 後は風邪も引かないように火と風の魔法で温風を纏わせておこうか。


 アルフレアを連れて戻ると、まず最初に門番をしていた鎧が服を着ている(ように見える)アルフレアにショックを受けたように崩れ落ちた。

 やっぱこいつ、アルフレアの裸目当てでこの世にしがみついてたんじゃ……。

 崩れた鎧を前にレイラは、目を閉じて黙祷を捧げている。


「きっと役目を果たして、眠りに就いたのだろう。

死して尚主を守る……まさに騎士の中の騎士と呼ぶに相応しい方であった」


 いや、レイラ。多分そいつ最低の騎士だぞ。

 と言ってやりたいが夢を壊すのも悪いので黙っておいた。

 それから全員の視線がアルフレアに集中し、アルフレアはドヤ顔をした。


「エルリーゼ様、そちらのお方はもしや」

「はい、初代聖女アルフレア様です。

魔女によってここに千年間封じ込められていたようです」


 勿論、彼女の名を知らない者などはここにいない。

 何せ彼女こそが聖女の始まりだ。

 彼女がいなければ魔法騎士学園はなかっただろうし、今ここにいるメンバーが集まる事もなかっただろう。

 その偉大な祖が目の前にいる、となれば驚かないわけがない。

 アルフレアは静かに微笑み、胸の前に手を当てる。

 お、何か聖女っぽい。


「初めまして、千年後の勇士達よ。

私はアルフレア……最初に聖女として、世界に使命を与えられた者です。

魔女によって千年ここに封じられていましたが、エルリーゼの助力を得て戒めを解く事が出来ました」


 何かさりげなく、俺が封印を破ったんじゃなくて俺の協力を得て自力で破ったみたいな言い方してやがる……。

 まあいいけどさ。多分初顔見せだし、格好つけたいんだろう。

 だがあのぽんこつぶりを見るに、一体いつまでメッキが持続する事やら。


「アルフレア様が魔女によって封印されていた……?

そ、それは一体どういう事なのですか?

それに貴女は何故魔女になっていないのですか?」

「全てお話いたします……私と、そして母から始まった悲劇の連鎖……そして、それを終わらせる方法も。

何故私が魔女になっていないのか……それは、運命の悪戯と呼ぶほかありません。

偶然……必然……そして、それを曲げる程の愛憎……そうしたものが複雑に絡み合い……」


 なーにを勿体ぶってんだか。

 別にそう複雑でも何でもなく、魔女の死んだフリに騙されて不意打ちでやられただけだろうに……。


「何を勿体ぶってんだい。イヴの死んだフリに騙されて、酒飲んで浮かれてた所を奇襲されてみっともなく封印されただけだろう」

「ちょ!?」


 とか思っていたら、亀があっさり俺が思っていたのと同じ事を言ってしまった。

 アルフレアもまさかの辛辣な感想に驚きを隠せないでいる。

 気のせいか、亀の態度はアルフレアに対して刺々しい。

 それにしてもアルフレアの母親はイヴというのか。

 初代魔女の名前なんて公式資料集にもなかったから新鮮だ。


「何でお酒を飲んでた事を知って……!

…………あ」


 あっという間に剥がれ落ちたメッキに、ベルネル達はぽかんとしていた。

 慌ててアルフレアは微笑を張りつけ、何事もなかったかのように振舞うが笑みが引きつるのを隠せていない。

 メッキの貼り方が雑だなあ……。

 まあ彼女はメッキが剥がれても聖女のままだ。

 そもそも演じる必要など最初からない。

 中身がクソの俺は金メッキを何重にも貼り付けて演じなければならないが、最初から黄金ならばメッキなど不要なのだ。

 それ故に、俺と違って演じる事に全く慣れていないのだろう。


「ゆ、勇士達よ、騙されてはなりません。

この初代聖女、聖女オブ聖女のアルフレアが浮かれて酒を飲んで、べろんべろんに酔っぱらって、新しい酒を買おうと黙って仲間の剣を売りに行く途中で隙を突かれて何も出来ずに封印されたなどと、そのような事があろうはずがございません」


 ……か、語るに落ちてやがる。

 誰もそこまで言ってねえ。

 レイラは夢を壊されたような顔で、助けを求めるように俺を見ているが俺は無言で首を縦に振った。

 信じがたいだろうが、それが初代聖女だ。

 現実を見ろ、スットコ。


「大体何なのよ、貴方は! 亀のくせにまるで私の事を知ってるみたいに!」

「お前さんはどうやら、自分が酔った勢いでドブに投げ捨てたペットの事も覚えてないようだねえ」


 怒るアルフレアに、亀が冷たい口調で言う。

 どうやら亀が刺々しいのは、知り合いだったからのようだ。

 しかしドブに捨てたってお前……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る