第六十六話 新たな解決法(後半)
やっぱ無理なんじゃないのかな、これ。
だが『封印すればいい』というアイデアは今後の参考になる。
帰ったら早速、どうやればいいか考えて魔法を作ってみよう。
やっぱりベースは氷魔法かな……氷漬けにして、それを溶けないようにすれば保存は出来ると思う。
普通なら凍死待ったなしだが、魔女はそう簡単に死にはしない。
ただこれをやると、アレクシアは死ぬ事も出来ずに極寒の世界にずっと閉じ込められるわけで、流石にこれは哀れな気もする。
『何よ何よー! 使えるもん! ちゃんと私も使えるんだもん!』
とりあえず、泣き出してしまった初代聖女様をあやす為に頭でも撫でておいてやった。
これって普通は失礼な行為なんだが、まあいいやろ。何か精神年齢低そうだし。
するとアルフレアは目を細め、もっと撫でろとばかりに頭をグリグリと俺の手に押し付けてきた。
犬か、あんたは。
「その封印魔法の使い手はアルフレア様のお母様なのですよね?
だとすると、どうやって習得したかに疑問が残るのですが」
『封印直前に、どういう魔法なのかお母様が自分でベラベラ喋ったのよ』
一体どうやって封印魔法を覚えたのかは、驚くほどにアホな理由だった。
魔女が自分で言ったってマジか。
ああ、なるほど。能力バトル系で頻繁に出て来る自分で自分の能力を敵に解説しちゃう系だったのね、初代魔女。
あるいは、後世の事を考えてわざと伝えたのか……。
『そんなに疑うならいいわ。今すぐに伝授して、私の話が本当だって教えてあげるから』
そう言うとアルフレアはおもむろに俺の肩を掴み、そして次の瞬間何かが流れ込んできた。
ここが精神世界だからだろうか。
言葉ではなく、感覚で
どうすれば封印魔法が使えるのか。
一体どう魔力を使えばそれが成立するのかが、手に取るように感じられる。
ついでに、入り口にいた鎧がただのストーカーだった事も理解した。そっちは別に知りたくなかったな。
『どうよ? それが私を千年も閉じ込めてくれた封印魔法よ。有難く思いなさい』
「……なるほど。これは確かに」
アルフレアから伝えられた封印魔法は、何と言うか説明しにくいのだが、とにかく複雑な術式の上で成立する。
限定的な時間停止……と言えばいいのだろうか。
闇の魔法で、空間そのものを閉じ込める事がこの封印魔法である。
闇っていうのは要するに光が届いてないって事で、つまり闇を操るっていうのは光すら届かない空間をそこに生み出している事に他ならない。
ならば闇の魔法とは、空間に働きかける魔法……あるいは空間を創り出す魔法なわけだ。
その力で何もかもが停止した空間を創り出す事で、疑似的に時間すらも停まった空間をこの水晶の中に作り上げている。それが封印魔法の正体だ。
同時に、何故聖女や魔女が無敵なのかも理解した。
恐らく彼女達は、攻撃を何も通さない空間を常に無意識下で纏っているのだ。
だから、同じく空間に作用する力――つまりは闇の力でその防御を突破しなければダメージを通せない。
だが分かった所でこれはどうしようもない。
……俺、闇の魔法ほとんど出来ないんだよね……聖女じゃないから。
「困りましたね。これは、私には使えないですよ」
『えっ』
いや、『えっ』じゃないだろ。
俺が偽聖女って事はもう教えたんだから、俺にはこれ使えないって分かれよ。
だがこれは、このまま捨てるには惜しいな。
何とか上手くこれを魔女にブチ当てるいい手段はないものか。
エテルナに教えてもいいが……多分この封印魔法、MPにして2000くらい一気に使うから覚醒したてのエテルナには厳しいだろう。
俺はMPは十分だがそもそも素質がない。
アルフレアは使えるはずだが、封印されている。
……あ、そうだ。
簡単な話だった。
アルフレアの封印を解けばいいじゃん。
何事も作るより壊す方が簡単だ。
俺ではこの封印魔法は出来ない。一応ベルネルから借りパクした闇パワーはあるが、それでは明らかに不足している。
だがそんな俺でも、ゴリ押しで封印魔法を壊すくらいは可能だ。
「アルフレア様……自由になりたいとは思いますか?」
『えっ、出来るの!? 超思う思う! もうここにずっと一人でいるの、飽きたのよ!
出来るならすぐに私をここから解放して! さあ今すぐ! はよ、はよ!』
試しに聞いてみたら、むしろ引くくらい勢いよく食らいついてきた。
まあ、そりゃずっとこんな所でストーカー鎧と一緒に過ごすとか嫌だよな。
しかも四六時中ヌード見られっぱなし。
あの鎧、ヌードを見たいが為にこの世に留まってるんじゃないかな……。
ともかく了承は得た。
ならば最早躊躇う理由なし。この結晶ごと封印をぶち壊してやろう。
精神世界から出て現実に戻り、水晶から離れる。
そして両手を頭上に掲げ魔力を一気に集中させた。
威力を高め、しかし規模は抑えて。
闇の力も上乗せして空間防御を突き破る事を可能にし、照準を水晶へ向ける。
気のせいか水晶が揺れている気がしないでもない。
アルフレアの悲鳴が脳内に響いているがきっと気のせいだ。
『待って待って待って! そんなの撃たれたら死んじゃう!
もうちょっと心の準備をさせ――』
発射ァ!
俺の発射した光がビーム状に直進し、水晶に直撃してそのまま後ろの岩を消し飛ばして直進した。
威力の反動で俺自身の身体も後ろに下がり、しっかり踏ん張らないと転びそうになる。
しかし効果はあった。
アルフレアを閉じ込めている水晶が罅割れ、砕けていく。
ならばと更に出力を上げ、ビームの太さが一回り増した。
すると水晶が遂に限界を迎え、完全に砕け散った。
それと同時に魔法を止め、既に発射していたビームも霧散させる。
すると後には、茫然とへたり込む全裸の美女のみが残されていた。
少し荒業だったが、無事に封印を解除出来たようだ。
「あ……あわわわわわ……」
アルフレアは傷一つないが、なかなかスリリングだったようで立ち直れていない。
とりあえず、このまま連れて行くのも可哀想だし見た目はどうにかしてやるか。
……でも服を作る魔法なんてないんだよなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます