第四十話 反撃開始(前半)

 ドアをふっ飛ばした俺は、早速ベルネルを助けに行こうとしたのだが当然というか、ドアの前で見張りをしていた近衛騎士が慌てたように立ち塞がった。

 一応剣に手を掛けてはいるが、抜いてはいない。

 というかこいつ等の目的は俺を生かしたまま象徴として残す事らしいので、俺に剣を向ける事など出来るはずがないんだけどな。

 それやったら本末転倒というか、何で俺を閉じ込めてるか分からなくなる。

 つーわけだ。ほれほれ、抜いてみろよ?

 出来ないだろ? ん~?

 どうだあ、悔しいかあ? ふへへへへへ。

 何も出来ないと分かり切っている奴の前を余裕こいて素通りしてやるのは実に気分がいい。


「お、お待ちくださいエルリーゼ様! 私は、貴女を通さぬように言われております!

どうしても通るというならば、私を倒してからにして頂きたい!」


 近衛騎士の裏切りナイトA……じゃないな。裏切りナイトAは確かモブAと戦っている奴だ。

 確かセックスって名前だっけ?

 いや違った、レックスだ。モブ騎士の分際で名前だけは格好いい。

 お前ベルネルの友人のモブAを見習えよ。あっちはジョンだぞ。

 で、こいつは裏切りナイトAとは別人だから裏切りナイトBってところだな。

 ちなみにこいつの名前はフィンレー・ブルーアイ。金髪の勇者という意味を持つ名前らしいが、髪の色は黒に近い茶色だ。

 まあ金髪って年齢と共に変色して、大体途中で茶髪になるからね。

 きっと昔は俺みたいな明るい金髪だったんだろう。

 目の色はブルーアイとか言ってるくせに灰色。ブルーじゃねえじゃん。

 こいつの実家であるブルーアイ伯爵家は先祖から伝わる青い瞳が特徴らしいが、実は目が青いのは子供の頃だけで大人になると大体変色するらしい。

グレーアイに改名すりゃいいのに。


 そんな茶髪グレーアイ君が自分を倒して欲しいとか何かマゾい事を要求してくるがスルーしてやる。

 お前そりゃあれだろ。倒されたなら脱出されても仕方ないとか言い訳と面子が立つからそうして欲しいだけだろ。

 お前の面子なんか知るかボケ。

 このまま放置プレイしてやるわ。


「私のこの手は、人を打ちのめす為に付いているのではありません。

それは貴方の剣も同じはず。

私は貴方に何もしませんし、貴方もその剣を抜かないと信じています」


 何か適当にそれっぽい事だけ言って、グレーアイ君を放置しまま階段を降りてやった。

 まあ本当は信じてないから魔力強化はバッチリ済ませてるんだけどね。

 しかしグレーアイ君は結局何もせず、その場で膝をついて項垂れている。

 監禁対象を何もせずにみすみす出した事で、後で無能の誹りを受けるがいい。


「エルリーゼ様、お戻り下さい!」

「どうか……!」


 階段を降りると他の騎士もワラワラと沸いて来るが、やはり剣を抜かずに馬鹿みたいに棒立ちをしている。

 それでも数が揃えば壁になるので通れなくなるが、そこは毎度お馴染み光魔法さんの出番だ。

 人に限らず動物が目で物を見る時っていうのは実際には対象その物を見ているわけじゃあなくて、その対象に反射した光を見ているらしい。

 色も同じで、あれは物質の色を見ているんじゃなくて物資に反射した光の色なんだとか。

 要するに光を自在にコントロール出来れば、視覚なんてものはいくらでも誤魔化せる。

 だから俺に当たった光が反射しないようにしつつ、俺からズレた場所で似たような反射をさせてやれば……。


「エルリーゼ様、どうか部屋へお戻りを……」

「ここを通すわけにはいかんのです」


 騎士共がアホみたいに、俺とはズレた場所に集まり始めた。

 奴等の目には、そこに佇む俺が見えているのだ。

 そうして空いた隙間を悠々と通り、更に下へと降りていく。

 この城には地下に牢屋があるので、ベルネル達はそこに連れて行かれてる事だろう。

 言うまでもなく、その牢屋の本来の使用用途は魔女を倒した後の聖女を閉じ込める事だ。

 んで、ステルスしたまま地下まで行くと……何故かベルネル達は牢の外にいた。

 というかアレ牢か……? どうも、普段想像する檻と違って下に穴を掘って、その中に相手を落として閉じ込めるタイプらしい。

 ガバガバすぎん? あんなん空飛べたらすぐ脱出出来るよ?


「さあ、降伏して下さい……国王陛下」


 おん? これどういう状況だ?

 捕まったと思っていたベルネル一行が何故かアイズ国王を取り囲んで、形勢逆転してしまっている。

 国王側と思われる兵士は全員倒れていて……オマケに何故か向こう側だったはずの変態クソ眼鏡がベルネル側みたいな顔して普通に突っ立っている。

 レイラは土で作ったマネキンみたいな物に拘束されていて、身動きが取れないようだ。

 あれは変態クソ眼鏡の魔法かな。多分そうだ、あいつ土属性得意だし。

 しかしレイラの実力ならばあの程度の拘束など自力でいくらでも抜け出せるはずなのだが、何故かそうしようとしていない。


 状況が分からないのでしばらく盗み聞きしていたが、どうやら変態クソ眼鏡は最初から国王を騙す為に国王側に擦り寄っていたらしい。

 で、ベルネル達が捕まって牢屋に入れられるタイミングで彼等を救い、逆に国王を捕獲して俺を解放させようとしているようだ。

 まあ、もう自力で逃げてるんですけどね。

 更に様子見を続けていると、階段から兵士が降りて来て何やら慌てたように叫んだ。


「陛下! お、王都より伝令!

大魔と思しき巨大な怪物が魔物を引き連れて王都に接近中!」

「何だと!?」


 伝令にアイズ国王のみならず、ベルネル達も慌てた。

 魔物を率いた大魔っていうのは、この前のルティン王国の件からも分かるように基本的に騎士くらいしか対抗出来ない。

 なのにこの王様と来たら俺一人閉じ込める為に、ここに全近衛騎士を集結させちまうものだから、現在王都の守りは手薄なのだろう。

 勿論騎士は向こうにも何人かいるだろうし、そいつらが頑張って持ちこたえてくれるだろうが、結構厳しんじゃないだろうか。

 伝令には恐らく例のスティールを使っているはずなので、飛行速度と距離から考えて実際にここまで着くのは一時間くらいはかかるか?

 つまりこの情報も既に一時間前のものであって、今はどうなっているか分からない。


「王都の騎士は!?」

「既に迎撃準備に入っていますが……敵の戦力は強大故、すぐに援軍来られたしとの事!」

「何故ここまで気付けなかった!」

「わ、分かりません……突然大魔が発生したとしか……」


 アイズ国王が慌てるのも仕方がない。

 何故なら周辺にいた大魔や魔物はほとんど俺が駆逐していたし、狩り残しがいたとしてもそれは王都の兵や騎士で十分対処できるレベルだったはずだ。

 というか、そう思っていたからこそアイズ国王も俺を幽閉したのだろう。

 彼の中ではもう、俺を城から出す程の敵は残っていないという結論だったに違いない。

 だが……大魔ってのは別に自然発生しないわけじゃない。

 極低い確率ではあるのだが、魔物が数十体いれば魔女抜きでも大魔が生まれる事はあり得るのだ。

 多分生き残りの魔物が勝手に殺し合って、勝手に大魔になったんだろう。

 で、大魔の誕生に刺激されて各地に隠れていた魔物も一斉に集結して最後の大攻勢を王都にかけてきたってところか。

 しかしこの前のルティン王国の襲撃といい、こんな大規模な進撃を立て続けに起こすっていうのは向こうが追い詰められている証拠だ。

 こうして残る全軍を結集して最後の戦いに賭ける以外に勝ち目がないと奴等も悟っているのだ。

 ……俺がちょっと、苛めすぎたからな。


 さてさて、現状国が大ピンチなわけだが、心配には及ばない。

 俺がちゃちゃっと行って無双してやればいい。

 そんじゃステルス止めて、そろそろ出ていくとしますか。

 何か『エルリーゼ様解放すりゃいけんべ』とか、『無理ぽ。こんな私の頼みとか聞いてくれるわけないやん』みたいな事言ってるけど、いや別にそんな気にしてないし……。

 だってアイズのおっさんと国の人々は無関係やしね。

 それに今回の幽閉ニート生活は何だかんだで快適だったので、むしろアイズのおっさんには感謝している。


「エルリーゼ様……? 何故ここに……」


 何でここにって……そりゃ脱走したからだけど。

 正確に言うとベルネル達を助けて恰好よく活躍したかったからなんだけど、肝心のベルネル達はどうやら自力で何とかしていたみたいだし……あれ? 俺何しにきたの?

 やべえ俺超格好悪いじゃん。

 演技で敵にやられたフリをした仲間の姿を真に受けてガチで心配して滑ってるアホみたいじゃん。

 えーとえーと……あれだ!

 そこのおっさんの助けを求める声が聞こえたんだよ!(キリッ)

 つーわけで、おう、幽閉したとか気にすんな。

 俺は全く怒ってないぞ。許したるわ、俺は心が広いからな。

 むしろあんな裏切りなら大歓迎。またやってもいいぞ。

 百回でも千回でもウェルカム。超許す。

 大丈夫大丈夫、ちゃんと危なくなったら助けてやっから。つーわけでそのうち幽閉ニートよろしく。


 そんな感じの事を言ったら、アイズのおっさんが泣き始めた。テラワロス。

 泣き顔ぶっさ。

 それとポーズで出しただけの手を掴まれた。おい、誰が掴んでいいっつった。

 うえ、ベタベタして気持ち悪い。

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