第三十三話 観測不可能(後半)

 新人おれの言葉に、俺は流石に茫然とした。

 魔女、お前そこまでびびってるのか……

 新人おれの言う通り、ゲームだと魔女は何度か地下から出て来る。

 というかそうじゃないと好感度を稼げない。

 アレクシアルートに入る方法は、その数少ない好感度稼ぎのチャンスを逃さないようにしつつ他のヒロインの好感度を上げないようにして、ルート分岐のタイミングまでアレクシアの好感度を一番に保っておく事が条件になっている。

 ちなみにこのルートの最大の障害はエテルナで、普通にやっているとエテルナルートを狙っていなくても好感度がエテルナ>アレクシアになるから、意図的にエテルナに冷たく接して好感度を下げまくらなきゃいけない。何この不憫な子。

 なのでアレクシアルートを目指す動画だとエテルナの誕生日にプレゼントとしてドラゴンのフンの化石とかいう割と最低なものをプレゼントする鬼畜ベルネルの勇姿を見る事が出来る。

 だが俺のいる世界だと、地上に出る事そのものを止めているらしい。

 それじゃあアレクシアルート消えるわ。


『そういえば私が踏み込んで、魔女がさっさと逃げてしまったルートはその後どうなるんですか?

主にエテルナルート以外では』

「その場合はあいつはしばらくどこかに潜伏して、その潜伏先で魔女の手先になったらしいチンピラがエテルナの両親を殺害する。

それでエテルナが怒りで聖女の力に覚醒して、聖女の力的な何かで魔女の位置を割り出して魔女殺害。後はお約束通りにエテルナがラスボスになる」

『エテルナ不憫すぎるだろ。世界が殺しにかかってるわ』

「しかも結局魔女がどこに潜伏してたかとかは作中で説明されない。

そういうわけで、あえて魔女を逃がしてみるのはオススメ出来ない」


 どう足掻いてもエテルナは不幸になるというのか。

 だったら、エテルナの両親を保護すれば……と思うが、そもそも魔女を逃がさずに学園地下できっちり倒しきるのが一番いいな。

 まあ一応エテルナの両親にも気を付けておこう。


「後、気を付けるべきは、魔女を倒した際に生じる闇の力の移動か。

ここミスると全部水の泡だぞ」

『移動を封じる方法はゲームで判明してる限りでは二つでしたね。

まず一つは、聖女以外が魔女を撃破する事』

「ああ。これが見られるのは主にバッドエンドだな。

これが出来るのはお前とベルネルだけだが……やった奴は死ぬぞ」


 俺と新人おれは向き合って、最大の問題点である魔女パワーの移動について話した。

 これをエテルナに移動させてしまうと全部台無しだ。

 エテルナはラスボス化して、何一つ運命が変わらない。

 それを避ける為の方法は二つ。

 まず一つは俺かベルネルが魔女を倒してしまう事だ。ただしやったら死ぬ。


『ところであのバッドエンドの笑い声って何なのかもう判明してたりします?』

「いや、謎のままだ。まあ、ただの演出だとは思うが……公式からも何の説明もないし」


 この方法で循環を断ち切っているのが、ベルネルが魔女を倒して死ぬバッドエンドだ。

 だがこのバッドエンド、実は少し不穏な演出があるのが気になる。

 それは、ベルネルが死んた後に悲しむ皆の台詞などが挿入されてエンディングテーマが流れた後……画面が暗転して、最後に誰の声かも分からない不気味なエコーのかかった笑い声が響き渡る。

 そして謎の爆発音が響いてタイトル画面に戻るのだ。

 この演出の意味は未だによく分かっていない。


「二つ目は、魔女の自殺」

『エテルナがラスボス化した際に見られる死因ですね……』


 魔女は通常、自殺出来ない。前も言ったように闇の力に阻まれてしまうからだ。

 だがエテルナがラスボスになった際は移動したばかりでエテルナに馴染んでいなかったのと、ベルネルとの戦いでエテルナが消耗する事もあって自殺に成功してしまう。

 この結果、エテルナを殺したのはエテルナという事になって力の移動がエテルナのみで完結してしまうのだ。

 これは、このゲームの数少ないヒロイン生存ルートでもある。

 どのヒロインを選んでも大体は死ぬのだが、一部のヒロインのルートではエテルナが自殺することで終わるから最後まで生存してハッピーエンドにする事が出来る。

 ただしこれは論外。俺の最初の目的から考えても、この方法を使うのは負けだ。


「他には、魔物は聖女を殺せるんだから、魔物に止めだけやらせるとかはどうだ……?」

『難しいと思いますよ。魔物は完全に魔女の味方ですから。

それに魔物は身体が強靭なので、もし何かの間違いで魔女から移動してきた闇の力に耐えてしまったら、とんでもない化け物になりかねません。

まあ私の敵ではないと思いますが……』


 新人おれが魔物に魔女を殺させる事を提案するが、それは無理だと一蹴してやった。

 魔女に絶対服従している魔物が魔女を攻撃する事はあり得ない。


「そういやお前、ディアスにアレクシアの事頼まれてたろ。あれどうすんだ?」

『どうもこうも……そんな簡単に助けられるものではないですよ。

一応、アレクシアルートと同じ手順を踏めば不可能じゃないですけど……』

「確かエテルナに闇の力が移動した後にベルネルが、人工呼吸で自分の中の闇の力をアレクシアに返すんだよな」

『はい、元々ベルネルの闇の力は、アレクシアが自分の良心と共に切り離した彼女の一部です。

それを返す事でアレクシアは蘇生し、人に戻るのですが……このルートでは例の如くエテルナが死にます。

しかもベルネルとアレクシアがイチャイチャするのを見せ付けられて』

「不憫すぎる……」


 正直魔女ルートは、個人的に一番モヤモヤするルートだ。

 このルートだとアレクシアは魔女ではなく人間に戻って、幸せになるのだが……エテルナの気持ちを考えるとなあ……。

 お前何、自分は悪くないみたいな面してベルネルとイチャイチャしてんの?

 いや実際、被害者なのは間違いないんだけどさ。

 エテルナから見ると、今まで散々悪事働いてきた魔女が、自分に厄介なものだけ押し付けた挙句に幼馴染と歳の差カップルで幸せになっているのを見せ付けられて、しかも立場逆転でそいつに魔女として討たれるんだぞ。

 これ、エテルナは泣いていいだろ。

 そういう事もあって正直俺はアレクシアルートは好きではない。

 CGコンプの為に一度はプレイしたけど。


「じゃあやっぱ、お前が選ぶのは……」

『私が倒す、になりそうですね』

「いいのか? お前、折角健康な身体に転生したんだぞ。

生き残りたいとか思わないのか?」

『元々生きる事にそこまで執着もないですしね……。

それに聖女ロール続けるのもしんどいですし、ボロが出る前にサクッと死んでおいた方が楽かなって。寿命もどうせ残り少ないですし。

あっちの世界だと、むしろあの世の方が快適までありそうですし。それに……』


 そこまで言い、俺はレイラやベルネル達の事……そして何だかんだで十年以上過ごしたあの世界の事を思い浮かべて、笑った。


『なんだかんだで、アイツらの事やあの世界の事も結構気に入ってるんだよ、俺は。

だからまあ……その為なら、どうせ近いうちに尽きる俺の命くらい捨てても惜しくはねえな』


 俺は駄目人間だが、そんな俺でも人生の最後に少しくらいはいい事をしておきたい。

 あいつ等には幸せな明日ってやつを生きて欲しいと思っている。

 本来あったはずの運命から、俺の都合で歪めちまった詫びも兼ねてな。

 だったらくれてやるさ。俺のこのバッテリー切れ寸前の命くらい。

 どうせとっくに死んでたはずの命だ。今更惜しむもんでもあるめえ。

 むしろ俺の視点だと余命一年だったものが十二年以上引き延ばされたようなもんだから、割とマジで未練ないのよ。

 そう言い切った所で、視界が白くなり始めた。

 どうやら今回はここまでのようだ。


 そんじゃ、向こうでもう少し聖女ロールを頑張るとしますか。

 最後までな。

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