第二十七話 一網打尽作戦(後半)
作戦の手順は簡単だ。
奴等が連絡手段にしているステルスバード(すり替え済み)を使って、全員に学園長の名前で一か所に集まるように指示を送る。
逆に学園長には、他の奴からの連絡と偽って『話したい事があるから来てくれ』と誘い出す。
するとノコノコと密会(笑)の為に馬鹿共が訓練室に集まった。
訓練室は校舎の隣にある施設で、体育館を思わせる広い施設である。
ちなみにゲームだと体育館のような、というのを通り越して完全に体育館だった。
学園ものだからって何で騎士を育成する学園にそんなものがあるんですかねえ……。
あれ、絶対製作者が面倒でフリー素材の体育館の背景とか使ってただろ。
とか、そんな事を考えつつ俺達はカーテンの裏に隠れて待機中だ。
「どうした。何故こんなに集まっている」
「何を言うのです。学園長が集めたのでしょう」
「私が? 馬鹿を言うな。こんな目立つ集会など私が提案するはずが……」
おーおー、アホ共が混乱しておるわ。
とりま、ここでバリア発動! 部屋に全員閉じ込めた。
「しまった! 罠だ!」
学園長が騒ぐが、もう遅い! 脱出不可能よッ!
貴様等は既にチェスや将棋で言う『詰み』に嵌ったのだッ!
閉じ込めた所でカーテンを開けて前に踏み出す。
ふん、おるわおるわ。雑魚が雁首並べてアホ面を晒してやがる。
「せ、聖女様……!? これは一体……」
アイナが混乱したような顔をしているが、まあ利用されていただけの子は分からんよね。
彼等の前で変態クソ眼鏡がドヤ顔で指を鳴らす。
するとアホ共の肩や頭に乗っていたステルスバードが一斉に、彼等が交わしていたであろう話を勝手に話し始めた。
その中には『エルリーゼには気付かれるな』とか『馬鹿な小娘は騙しやすい』とか『我等が魔女様の為に』とか、『エルリーゼを誘い込んで全員で叩いては?』とか、決定的な証言が混ざっていた。
するとこれに何人かが騒ぎ、学園長へ敵意の籠った視線を向ける。
「学園長、これはどういう事です!?」
「今の言葉は……エルリーゼ様を害すると聞こえましたが……!」
「我々は聖女様の為に団結していたのではなかったのか!?」
ああ、この人達は騙されて協力してた皆さんかな。
あっという間に派閥が二つに割れ、ガチで魔女の手先派と利用されてただけ派が対立して睨み合った。
「落ち着かんか! スティールの言葉などいくらでも操れる! これは濡れ衣だ!
……聖女様、騙されてはなりません。その男、サプリこそは魔女の手先!
貴女は騙されております!」
その中で学園長は流石に落ち着いたもので、この場のヘイトをサプリへ向けようとし始めた。
まあ見るからに怪しいもんな、そいつ。
俺だって前知識なしならそいつを疑うわ。
それにステルスバードの発言などいくらでも変えられるというのもごもっとも。
何せ所詮鳥だ。飼い慣らして美味い餌をやって言葉を教えれば、裏切っているという自覚すらなく前の飼い主を裏切るだろう。
そもそもこの鳥は言葉の意味すら分かっちゃいない。ただ教えられた言葉を『音』として発しているだけなのだから、自分が何をしているのかすら知らないのだ。
「信じてください! 私の行動、言葉、その全てが聖女様の為です!」
ほうほうほう、なるほどなるへそ。
全てが聖女の為に行動ね。
そうだな、それは信じてもいいだろう。確かにその通りだ。
全部、
おいおっちゃん。俺が魔女の正体と聖女のカラクリを知らんとでも思っていたかい?
そう言ってやると、学園長は開き直ったように鋭く笑った。
「……ッ!
なるほど……知っていたか……。
ならば誤魔化しは効かんな……」
「聖女の秘密……? 魔女の正体……?
エルリーゼ様、それは一体……」
あ、スットコちゃん、それは後でね。今は集中しろ集中。
学園長が不意を打つように俺に斬りかかり、それを咄嗟にスットコが剣で弾いた。
「ディアス殿! 貴方と言えどエルリーゼ様に剣を向けるならば許さん!」
「レイラ・スコットか……」
学園長が俺に斬りかかった事で、もはや完全に誤魔化しは効かなくなった。
学園長と共に本心から魔女側についていた教師陣が武器を抜き、利用されていただけの教師や生徒達が俺を守るように構える。
更にベルネル達もそこに加わり、戦闘が始まった。
俺が魔法を一発ドーンと撃てば終わるんだが……その前に、このままじゃアイナが不憫すぎるな。
自分が何をしていたのか理解していた彼女は放心したように座り込んでおり、そして剣を喉に……ちょちょちょ、ストップストップ!
俺は慌ててその剣を掴んだ。……っぶねー。
「聖女様……離して下さい……。
私……こんな、こんな事に手を貸してしまって……。
もう、お父様や皆に合わせる顔が……」
両目から涙を流しながら言うアイナに、俺は何とも言えないゾクゾクとしたものを感じた。
泣いてる美少女っていいよね!
……じゃなくて。とりあえずまずは慰めてやらんとな。
今ならちょっと優しい言葉をかけてやればそのままホテルに連れ込めそうだ。
しかし自殺なんかされては寝覚めが悪い。俺、胸糞展開って嫌いなのよ。
つーわけではい、ハグ。役得役得。
そんで軽く背中を叩いてやって、適当に元気付けてやる事にした。
でえじょうぶだ、わーってる、わーってるから。
お前はあれだ。俺を守ろうとしてくれただけなんだろ。
で、ちょっとやる気がハムスターの乗った回し車みたいにグルグル回っただけなんだよな。
OKOK、大丈夫。美少女のミスなら可愛いもんよ。
野郎なら死刑直行だけど、お前は可愛いから許しちゃる。俺は心が(美少女限定で)広いんだ。
誰が何と言おうと俺が許す。俺がルールだ問題ない。
それに、俺だけじゃなくてそこの連中も許してくれるさ。
そう同調圧力をかけて言うと、何ともノリのいい事でベルネル達が口々に同意する。
最後にマリーが手を差し伸べると、今度は払い除けずにその手を掴んだ。
よし仲直り。やっぱこうでなきゃな。
戦闘は……お、こっち優勢やね。
まあ向こうは言っちゃ悪いがロートルばっかだし。
何せ先代の聖女の頃の騎士だ。もう歳だよ。
そこにベルネル達とアイナも加わり、一気に押し込んでいく。
あっという間に残るは学園長のみとなり、レイラとの一騎打ちとなった。
「何故です! 何故、アレクシア様と共に魔女を打ち倒した貴方が!
どうして魔女に魂を売り渡してしまったのですか!」
「売ってなどいないさ、これが私だ。
私が守る者は昔も今も変わらない。私はずっと私の聖女を守っている」
「裏切り者が戯言を!」
なんかレイラと学園長が熱い会話をしている。
おー、かっけえ。
これ、空気読まずに俺が横槍入れて学園長をKOしたらどうなるんだろう。
チャンチャンバラバラとレイラと学園長が恰好よく剣舞を繰り広げているが、これを言葉に出来ない俺の語彙力のなさが恨めしい。
「レイラ殿! 援護します!」
「ふん、雑魚共が……引っ込んでおれ!
貴様等など何人いようが物の数ではないわ!」
学園長派を倒した、『チーム利用されてただけ』がワラワラと学園長に向かっていたが、学園長が薙いだ剣から電撃が出てウワーとかギャーとか叫びながら吹っ飛んで全員仲良く失神した。
うん、雑魚キャラの宿命よね……。
そして何事もなかったかのように筆頭騎士二人の戦闘が再開される。
「裏切りだと? 笑わせる。
私達が世界を裏切ったのではない。世界が私達を裏切ったのだ。
君もいずれ知るだろう。そして世界に絶望する」
「何をわけの分からぬ事を!」
「分からぬならばそれでいい。私はただ、アレクシア様をお守りするだけだ」
チャンチャンバラバラ、チャンバラバラ。
キンキンキンキン、ガキンガキン。
バリバリ、メラメラ。
はい、無理。こんなん文字に出来んわ。
「血迷っているのか? アレクシア様は魔女を倒した時に……」
「死んだとでも言いたいのかね?
いいや、違う。アレクシア様は生きている。死んだ事にされただけだ!」
「な、何だと!?」
「そしてアレクシア様に守られた愚民共は、その恩も忘れてあの方を殺そうとした!
だから! 近衛騎士である私が守らねばならぬのだ!
たとえ世界を敵に回そうと!」
え、ちょ、待て待て。
早い早い。それもう言っちゃうの!?
それ、終盤も終盤でようやくベルネル達が知る事になるネタバレなんだけど!?
「そ、それは一体どういう……」
「フン……お前の聖女はもう知っているようだぞ?
エルリーゼよ、教えてやってはどうだ? お前の可愛い騎士に真実を話してはやらんのか!?
無理ならば私が教えてやる!
よいか、魔女の正体は――先代の聖女だ! 聖女アレクシア様こそが、お前達の倒そうとしている魔女の正体なのだ!」
あーあ、マジで言いやがった。
ほら、どうすんだよこれ。空気最悪じゃんか。
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