第二十六話 調査(後半)

「何と愚かな……騎士フォックスの娘ともあろうものが、そんな簡単な嘘に騙されるなど。

どう見てもマリー嬢は間違いなく、正々堂々と戦っていた。アイナ嬢が負けたのはただの実力不足だ。

己の未熟を棚に上げ、相手を卑怯者呼ばわりとは……これでは騎士フォックスも悲しむだろう」


 レイラは失望したように言うが、そう言うもんでもない。

 詐欺っていうのは案外、俺は騙されないぞって思っている奴に限って騙されるもんだ。

 情報が発達した現代日本ですら未だに被害者が増え続けているのが実情だ。

 ましてやこの世界で、しかもずっと貴族の家で暮らしていた箱入り娘さんだろ?

 おまけにハートはボロボロで、焦りまくっている時ときた。

 じゃあ騙されるのも仕方ないわ。

 むしろ学園長もそんなアイナだから『こいつならいけるやろ』と思って接触したに違いあるまい。

 つーわけで、ちょっとフォローしておこうか。

 俺は可愛い女の子には優しいのよ。野郎は基本どうでもいいけど。


「レイラ。そう言うものではありません。

騙される者というのは、自分は大丈夫と思っている時ほど騙されてしまうものです。

聞いた話ではアイナさんはずっと貴族の屋敷で世俗に揉まれる事もなく成長してきたようですし……加えてその時は心が傷付き、焦っていたと見えます。

ましてや相手は学園長……信じたくなってしまうのも無理のない事でしょう」


 それに学園にスパイがいるっていうのはマジだ。学園長本人とかな。

 上手い嘘っていうのは事実を混ぜる事ってどっかで聞いた覚えがある。

 まあアイナの心理状態や置かれていた環境などから考えれば、心理的に学園長の甘言から逃れる道はなかっただろう、と俺は思うよ。

 まあとりあえず、学園長は魔女の手先確定やね。


「アイナさんのその時の心理状態から思うに、甘言から逃れる術はなかったでしょう。

そして、魔女の手先とは他ならぬ学園長自身の可能性が極めて高い。

何故なら、私の動向を逐一報告されて一番喜ぶのは、他ならぬ魔女だからです」

「な、なるほど……流石はエルリーゼ様。見事な慧眼です……このレイラ、感服致しました」

 

 おうスットコ、もっと褒めていいぞ。

 そんでベルネルとエテルナと、フィオラとマリーと、その他二名もよくやった。

 これで学園長を、大義名分をもって捕まえる事が出来る。

 学園長さえ捕まえちまえば、後は芋づる式だ。スパイを全員引っこ抜いてやれる。


「それにしても、まさか学園長が……先代の聖女アレクシア様の筆頭騎士で、共に魔女を討伐したほどのお方が魔女の手先になるなど……」


 むしろ、だからこそ・・・・・なんだよなあ。

 だって今の魔女が、その先代聖女アレクシアだもんよ。

 そう、魔女の本名はアレクシアだ。ここテストに出るからメモしといて。

 つまり学園長は別に裏切り行為とかはしていないわけだ。

 最初から最後まで一貫してアレクシアだけ・・の騎士なのよ、そいつ。

 聖女が魔女にジョブチェンジしたから、聖女の騎士も一緒に魔女の騎士にジョブチェンジしたという、それだけの話。

 とはいえ、どのみち敵は敵だ。

 俺にとっては魔女共々、フルボッコにするべき相手って事に変わりはない。


 そんじゃま、俺が出向いてパパッと学園長をとっ捕まえましょーかね。

 学園長は元筆頭騎士だけあって、実力的にはレイラと互角の傑物なのだが、俺の敵じゃあない。

 はいバリア&魔力強化、効きません。カキーンで終わる。

 そんで捕まえて他のスパイの名前も纏めて引っこ抜けば後が大分楽になる。


「お待ち下さい、聖女よ」


 しかしそこにストップをかけたのは、変態クソ眼鏡だ。

 相変わらずいつか裏切りそうなオーラが漂っている。


「学園長を今捕えても、全てのスパイを吐くとは思えません。

確実に何人かは隠される事でしょう」


 む……なるほど、確かにそうかもしれん。

 変態クソ眼鏡のくせにマトモな事言いやがって。


「そこで、この件は私にお任せいただけないでしょうか?

学園長の周辺を探り、奴と通じている者を全て白日の下に曝け出してみせます」


 そんな事出来るのかね、と正直なところ疑いが先行する。

 だってこいつ、ゲーム本編だと小物だし。そんな有能描写ないし。

 どうせすぐ見付かって、逆にこっちの情報抜かれるだけじゃねーの?

 でもまあ、万一上手く行ったら儲けものだし、失敗してこいつが敵さんにやられてもそれはそれで儲けものだ。

 だってこいつの視線キモイし。

 それとお前気付かれてないと思ってるかもしれないけど、この前俺が学生食堂で使ったスプーンを食堂のおばちゃんから盗んで袋に入れてたろ。

 正直キモすぎて声かけられなかったけど、俺の中でのお前への評価はゼロを通り越してマイナスだからな、この野郎。


「分かりました。ならばこの件は貴方に一任します。

貴方の活躍に期待しています、サプリ・メント先生」


 まあこいつならどうなってもいいや。

 よし行ってこい。骨は拾……いや、拾わないで海に捨てるけど。


「おお……聖女様の愛らしい口から私へ『期待しています』と……!

おお、おおおおぁぁ……! この言葉だけで、十年、いや、百年戦える!

お任せ下さい我が聖女よ! 必ずやこのサプリ・メント、貴女のご期待に応えてみせます!」


 うわあ、キメェ……。

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